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頬を撫でる風、照りつける太陽、青い海、白い雲。
状況が変わればなんと好ましい光景であろうか。
移動手段をクザン大将が運転する自転車から、船に変更してよかったと思いつつ、甲板に出て日の光を浴びても尚、じめじめとした空気を漂わせている人物に視線をやった。
その人物とは、すっかりしょげかえっているクザン大将である。その姿ををちらりと視界に入れると小さくため息をはき、また海の方に視線を戻した。
海の方に視線を戻した私をポートガス・D・エースがまるで機嫌でも伺うように顔を覗きこんできた。
「……なんですか?」
『なぁ、もう、許してやってもいいんじゃねぇのか?』
そう言って視線をやったのはクザン大将の方で、 相変わらずどんよりとした空気をまとって三角座りをしている辺りからは、そろそろキノコでも生えてきそうだ。
「……自業自得です」
『いや、そんな冷たいこと言ってやるなよ。あのとき襲って来たのだって実は名前の魂を元に戻すためにやったんだって言ってたじゃねぇか』
確かにそうはそうは言っていたが、普段から可愛女の子を軟派しまくっていたクザン大将の下半身事情は案外ゆるい。
見知らぬ女の子から妙な因縁をつけられて殴られたり、私にはなんのことだかさっぱり分からない文句をはかれなじられたのは1度や2度じゃない。
そんなクザン大将の言うことだ。口からとっさに出た言い訳の可能性もあるし、何より、あのときポートガス・D・エース入りの私を見ていたクザン大将の目は、とてもそんな目的があったようには思えない。大方、いつもと違う反応が楽しめるかも知れないとか考えていたのだろう。下衆な野郎である。
しかし想定外だったのは、まさかクザン大将がここまで落ち込むとは思っていなかったことだ。
そこに僅かな優越感を感じつつ、そろそろ許してやってもいいかも知れないと思った。
さすがにいつまでもあの状態でいられると鬱陶しいし、あと数日もすれば、ポートガス・D・エースの育った島に着く予定なのだ。
「クザン大将」
海の方に向けていた体を反転させ、甲板に座るクザン大将の方に向き直ると、ひげを剃る気力もないのか、不恰好にのびたひげが目についた。
「ひげ、剃ってあげましょうか?」
素直に許すと言えない辺り、私もなかなか意地が悪いなと思いつつ、クザン大将の反応をうかがっていると、クザン大将はうつむいていた顔をぱっと上げて、私の顔をまじまじと見つめた。
「……それは、……つまり……?」
「ほら、いつまでもそんなところにいると、他の人の邪魔になりますよ」
体の前で組み合わされた手を握り、そのまま引っ張れば、クザン大将は素直に立ち上がり、その表情は嬉しそうに私を見下ろしていた。
「……次はないですからね」
「うん、うん」
『これで解決だな』
嬉しそうな声音でそう言ったポートガス・D・エースの方を見れば、私達の仲直りがそんなに嬉しいのか、太陽みたいな笑顔を浮かべて隣を着いてきていた。


ーーーーー


それから数日後、予定通りポートガス・D・エースの生まれ故郷の島に着いた私達は、早くも壁にぶつかっていた。
島に着いて目的の人物であるマキノさんに会いに行こうと思っていたのだが、ポートガス・D・エースが久々に島に帰ってきて懐かしいから色々見て回りたいと言うので、別に急ぐ旅でもないし、ポートガス・D・エースの案内がなければ、マキノさんとやらの人物の居場所も分からないため、ポートガス・D・エースの希望通りに色々な場所を見て回ることにした。
そうして見て回ったこの村を一言で表すなら"平和"だろうか。
遠くに見える山脈をはさんだ向こう側に、貴族や奴隷がいて、誰かが涙を流しているなんて、この村にいると何かの悪い冗談なのではないかと思えてくる。
山脈が壁になっているらしく、吸い込んだ空気は、ゴア王国の壁の外側にある"不確かな物の終着駅"からの異臭もしない。
畑があって、田んぼがあって、農場があって、家が並んでいる通りでは小さな子供が元気よく走り回っていて、通りすぎる人達は皆笑顔を浮かべている。
「……こんなところがあるなんて、驚きです」
感心して思わずそう呟けば、うろうろと歩き回っていたポートガス・D・エースがくるりと振り向き、『良いところだろ?』と得意気な笑みを浮かべて言った。
「ええ、そうですね」
その時、ちょうど広間のようになっている場所に着き、ぐるりと見回せば噴水に腰かけた老人と目が合った。
『……村長!』
嬉しそうに駆け寄ったポートガス・D・エースとは対照的に、ポートガス・D・エースが村長と呼んでいた老人は、こちらをまるで親の仇でも見るかのような形相で睨んできていた。
「……あららら、なんだか知らねぇけど、あちらさん、ずいぶんと怒ってるみたいじゃねぇの」
「そうですね」
初対面の人間にそんな顔をされる覚えのない私達は、首をかしげるばかりで、もしかして何かの勘違いじゃないのかと思ったりもしたが、ひたとこちらを見据える老人の目はどう見たって恨みや怒りが込もっている。
「エースを殺した海軍の人間が、この村に何をしに来た!」
老人は広場に響き渡る声でそう叫ぶと、杖をぶんぶんと振り回しながらこちらに近付いてきたのだ。
「何をしにと聞かれると説明し辛いのですが、とりあえず"マキノ"さんという人物に会いに来ました」
振り回される杖を避けながらそう答えると、老人の動きがぴたりと止まった。
「海軍の人間がマキノに何の用だ!ここはお前たちに用のある人間なんて一人もおらんわ!さっさと帰れ!特にそこのあんた!海軍の大将じゃろう!」
老人の声を聞きつけたらしく、人が集まりだした広場がにわかに騒がしくなってきた。
びしりと振り回していた杖でクザン大将を指した老人はもう一度帰れと叫んだ。
クザン大将を見れば、面倒くさそうに頭をかいていて、ポートガス・D・エースは次々に集まってくる村人を懐かしがっていた。
どうやら私がどうにかするしかないらしい。
私は小さくため息をはくとクザン大将の前に一歩進み出た。



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