紫陽花

紫陽花
日吉夢



雨がざぁざぁと降りしきる梅雨の日だった。
厚く垂れ込める雲のせいで、まだ14時だと言うのに外はまるで日の暮れた後のように暗かった。
その外以上に暗い学校の廊下で、そいつは俺の事が好きだと言った。
その真剣な表情からそれが友人としての好きではなく、異性としての好きなんだと直ぐに分かった。

思わず一歩後退りする俺に、そいつは泣きそうな顔をしてもう一度好きだと言った。
それがどうしようもなく恥ずかしくて、真っ直ぐに向けられるその感情とすがるようにして見てくる眼差しに向き合う事が出来なくて、俺はそれに応えることもせずに逃げだした。

何で俺なんだとか、どうして友達のままじゃ駄目だったんだとか、頭の中でぐるぐると色々な考えが渦巻いた。
雨で制服が濡れて肌に張り付く気持ち悪さを感じながら、とにかく夢中で走って家に帰った。


次の日、教室にいないあいつに気付いて、気まずくなって学校を休んだのだろうと勝手に予想をした。
だが朝礼で担任がそいつが転校したと言う言葉に、頭を鈍器で殴られた様な衝撃が走った。
その後直ぐに俺を好きだと言ったあいつの顔が浮かんで、どうしてあのときちゃんと応えてやらなかったんだろうと後悔すると同時に、ほっとした自分に嫌悪した。

携帯を持っていないあいつの連絡先など俺が知るはずもなく、ましてや引っ越し先なんて知るはずもない。

ごめん。
と小さく心の中で呟いた。
それが何に対してのごめんなのか自分でもよく分からず、それがひどく歯がゆい。

見上げた空の色は相変わらずどんよりとした灰色で、地面に咲く紫陽花の花の色が鮮やかで、泣きたい気持ちになった。







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うぇるかむ