キス。
日吉夢
ああ、なんてずるいんだろう。
いきなり俺にキスをして、期待を持たせて喜ばせておいて
「びっくりした?冗談だよ」
なんてそいつは言っていつものように笑ってきた。
冗談って何だよ。
冗談でこいつは誰にでもキスをするのか?
その冗談で喜んだ俺が馬鹿みたいじゃないか。
悔しくて悲しくて、勢いでそいつにキスをした。
そいつのびっくりした顔を見たら胸がスッとして
「仕返しだよ」
と言ってやった。
するとそいつは見る見るうちに目に涙を溜めて「馬鹿!」と言って持っていた鞄で殴ってきた。
鞄が当たった右腕が痛かったが、そんな事よりどうしてこいつはこんなに悔しそうな顔をしているのだろうと思った。
キスはこいつにとって冗談で済ませられるもので、俺からのキスだってそうな筈なのに、涙を流しているそいつを見ているとスッとした気持ちが罪悪感に取って代わり、気付けばごめんと謝っていた。
するとそいつはさらに怒り、涙を流した。
一体俺にどうしろっていうんだ。
そんな風に泣かれたら俺は謝るしかないじゃないか。
むしろ、 泣きたいのは俺の方でこいつが泣き出す意味が俺には分からない。
ああ、ずるい。
本当に、泣くなんてずるい。