知念
知念夢
今の時間は3時。
新人の苗字さんは、先にお昼休憩を終わらせた。
今日、カットの予約を頂いていたお客様は5時からだ。
そして、店内にはトリートメント希望の男性のお客様が1人。
このお客様は、毎月1回私のお店でトリートメントをされている常連のお客様だ。
トリートメント自体はそんなに難しくもないし、ここは苗字さんに任せて私はお昼休憩をとりたい。
「私、休憩に行くけど、任せて大丈夫?」
私がそう聞けば「はい」と良い返事が帰ってきた。
それじゃあ、と言うことで、私はそのお客様を苗字さんに任せてお昼休憩をとりに行くことにした。
そしてお昼休憩が終わってお店に戻ってみてあらびっくり。
お客様の前髪だけがなぜか白い。
え?
何で?
お客様は夢現の状態で、どうやらこの惨劇には気付いていらっしゃらないようだ。
「苗字さん。ちょっと」
私はスタッフルームの影から苗字さんを呼ぶと、あれは何かと訪ねてみた。
「え?何って、あのお客様はブリーチで良いんですよね?」
「いいえ、トリートメントだけですが」
すると苗字さんはみるみるうちに顔を青くさせて「どうしましょう?」と私に訪ねてきた。
いやいや、私に聞かないで下さいよ。
私だってどうしましょうだよ。
取りあえずトリートメントは終わっていたらしいので、そのお客様を起こし、100人目のお客様だからだとかなんとか適当な理由を付けてお代はいただかずに帰した。
勿論鏡なんて見せない。
しかし、ちゃんと謝っておけば良かったと思ったのは、その日の夕方で、謝りに菓子折りを持って行こうにも住所が分からない。
どうしょうどうしょうと考えているうちに、1日は終わり、気付けば1ヶ月が過ぎた。
苗字さんと、あのお客さん来ませんねー。なんてはなしていると、お店のドアが開く音がした。
そこにはそう。
ほんの1ヶ月前にうっかり前髪だけをブリーチしてしまったお客様が…。
きっと苦情を言われるんだ。
なんて思って構えていたのに、頼まれたのはいつものトリートメントだけ。
どうにも耐えきれず、前回はすみません直ぐに黒く染め直しますので。と言えば、このままで良いとのこと。
むしろ、上の方が黒くなってきたらまたブリーチをお願いしますと言われたのには驚いた。
世の中どう転ぶか分からないって本当だ。