チョコレート
仁王夢
「仁王、今日は何の日でしょうか?」
朝礼が終わった途端に前の席の苗字が、自分の席に座ったまま振り向いて言うてきた。
「あー…。何の日じゃったかのう?もう少しで思い出せそうなんじゃが」
本当は、今日が何の日か知っちょったが、わざと知らんフリをして、ニヤリと顔に意地悪な笑みを浮かべた。
「えぇー。今日はバレンタインでしょ。バ・レ・ン・タ・イ・ン!!」
苗字はそう力を込めて言うたあと、呆れた顔をして「しっかりしてよ」と言うてため息をついた。
「おー、道理で下駄箱に小包がいっぱい入っっちょったはずぜよ」
そう言って、今朝下駄箱に入っっちょった色とりどりの小包を机の上に出して苗字に見せてみた。
嫉妬せんじゃろうか?とか思ったんじゃか、どうやら“無駄な期待”とか言うやつじゃったようで「へぇ、仁王ってモテるんだ」と妙に感心されただけじゃった。
「当然ぜよ。こんな良い男は世の女共が放っておくはずないナリ」
「良い男?仁王が?んー…でもやっぱり丸井君には負けるけどね」
そう言うた苗字の顔は、別に自分の事を話しちょったわけじゃないのに、えらい自慢気じゃった。
「と、言うことで、はい、ドーン」
妙な効果音付きで机に置かれたのは、不器用に包装された小さな袋。
中身は見んでもわかる。クッキーじゃ。
「何じゃ、また失敗したんか?」
「うん、だから仁王にあげる」
ブン太が好きな苗字は、毎年バレンタインになると、ブン太に告白をしようとクッキーを作る。じゃが、そのクッキーは必ず焦がしたりなんかして失敗する。
それを毎年俺にくれる分けなんじゃが、これはなかなか複雑な気分ぜよ。
いっそ“いらん”っと言って断れれば良いんじゃが、何せ好きな娘からのプレゼントで、おまけに手作りときちょる。
嬉しさ半分、悲しさ半分。
無碍に断ることも出来ん。
ふと苗字を見ると、なんとも切なそうな目でブン太を見つめちょった。
「次は上手く出来るとええのぅ」
俺はそう言って苗字の頭に手を置いてぐしゃりと髪をかき回した。
ただ君が幸せであれば良い。