跡部編
窓、開いてますよ
跡部編



○●○●


苗字名前

こいつはこの俺様がモーションをかけて初めてなびかなかった女だ。

最初はその気の強い所が気に入って近付いた。

俺様を見るその冷めた目に興味が湧いて、絶対に落として俺様のものにしてやると意気込んで早2年。

この俺様の美貌を毎日のように前にしているのにそよともなびかねぇ。

毎日どう名前を俺様に惚れさせようか試行錯誤を繰り返していた。そして今日、ようやく名前も俺様の魅力に気付いたらしい。

いつものように面倒くさいと言って嫌がる名前を無理矢理生徒会室まで連れて行き、樺地に入れさせた紅茶を2人で飲んでいるのだが、今日の名前は俺様を見つめたまま目を離さねぇ。

いつもなら「このお菓子樺地君が作ったんですか?凄く美味しいですね。きっと樺地君は将来良い旦那さんになれますよ」とか言いながらとっとと紅茶と菓子を俺様の分までたいらげて生徒会室を出て行ってしまうのに、この俺様の魅力に気付いてしまった今、そんな行動に出ることも出来ないらしい。

いつもならごくごくと喉を鳴らして飲む紅茶も、2口3口で食べてしまう菓子も、しおらしくちびちびと食べている。

…ふっ、遂にこいつも俺様に落ちたな。

「あーん?名前。
さっきから俺様の事をじろじろ見てやがるが、お前もようやくこの俺様の魅力に気付いた様だな。
隠さなくても良いんだぜ。この俺様に惚れ…」
「違います。そんなこと天地がひっくり返ってもありえません。
それと何度も言いますが、馴れ馴れしく名前で呼ばないで下さい」
俺様が台詞を全部言い切る前に名前が被せるようにして言った。

名前はよほどこの俺様に惚れたと言う事実を認めたくないらしい。
名前呼びなんかで恥ずかしがりやがって。
全く可愛い奴だ。


「くっくっく…」

「気持ち悪い笑い方ですね。
ところで跡部さん。苺はお好きですか?」

「は?あぁ…まあ、そうだな。嫌いじゃねえな」

何だ?俺様の好みでも把握しててケーキでも作ろうってのか?
くっくっく…。
俺様は普段からシェフの作った物しか食わねえが、そうだな、名前の作った物ならどんなものでも食ってやるよ。

「そうですか、分かりました」

俺様がそんな事を考えて射る間に名前は残った紅茶と菓子を1口で食べ終え「地君、今日も紅茶とお菓子とてもおいしかったです。ご馳走様でした」と言って座っていたソファーから立ち上がった。

「あ、樺地君。ちょっと耳を貸して下さい」

名前は屈んだ樺地に何やら耳打ちをした後、チラリと俺様の方を見て「それじゃあ、伝えておいて下さいね?」と言って生徒会室を出て行った。

「おい、樺地。名前は何て言ってやがった」

この俺様の前で内緒話をするってのも気に食わねぇが、出て行く間際のあの目も気になる。

名前が出て行った後直ぐにそう聞いてみれば、

「跡部さん…チャック…開いてます。苺柄なんて…可愛い…趣味…ですね。と苗字さんは…言ってました」


と、いつもの様に樺地は途切れ途切れに言った。


そう言われて急いで下を見れば、グレーのチェック柄のズボンから見える一際目立つピンクの布地。
そしてその布地には赤い小さな苺がちりばめられた、そう、苺柄のパンツ。


それは、決して俺様の趣味などではなく、母親が最近俺様に可愛気が無くなってきたとか何とか言って、せめて下着だけでも!と言って買って来やがったパンツだ。

普段なら先ず履くことのないこの下着。

風呂から上がって下着を履こうと下着を入れてある引き出しを空ければ、なぜか入っていた下着はこの1枚だけ。

仕方なく腰にタオルを巻き、手にその下着を握りしめ部屋に戻ろうとすれば、途中で母親が洗濯物を干しているのが目に入った。

珍しいこともあるもんだと思ってよく見ると、その洗濯物は全部俺様の下着だった。

「…おい」

湧き上がる怒りをどうにか抑えて声をかければ「あら、景ちゃん」なんて、無邪気を装った返事とにこやかな笑顔が返ってきた。

「それ、ちゃんと履いてね」

そう言って母親が指を指したのは、俺様の手に握られている苺柄のそれ。

「ああ、そうか。そんなに履いて欲しいんなら履いてやるよ!」

そう言って履いた後に、腰に巻いていたタオルを取って半分意地になりながら「どうだ!これで満足か?」と聞けば、母親は嬉しそうに「キャー!?景ちゃん可愛い!」と言って騒ぎ出した。



と、まあ、これが昨日の夜の出来事だ。

そして朝が滅法弱い俺様はそのまま、下着を履き替えるのを忘れて学校に来た訳だが、

………。


と言うか、こんな所でうなだれている場合じゃねぇ。

名前の事だ。忍足や向日に言いふらしに行くにに違いねぇ。

ああ、あいつはそう言う女だ。
加えて、出て行く時のあの目。
絶対に言いに行きやがった。

こんな事を言いふらされれば、俺様のキングとしての、引いては生徒会長としてのテニス部部長としての尊厳に関わる。

俺様はズボンのチャックを上げると、急いで生徒会室を出た。

「行くぞ、樺地」

「ウス」

そうして出た廊下の先には、ニヤニヤとした顔で忍足に何やら耳打ちをしている名前の姿と、こちらを見て名前と同じようにニヤニヤと顔に笑みを貼り付けた忍足の姿があった。




end



- 5 -
*前次#
ページ:
うぇるかむ