丸井と仁王と彼女
 
 
彼女と僕等の日常
丸井と仁王と彼女






それはゴールデンウイーク最後の日の事だった。

ゴールデンウイークだっていうのにどこにも連れて行ってもらえなかった俺は、同じくどこにも連れて行ってもらえなかったジャッカルを連れて近くのホテルの一階でやっているカフェにケーキを食いに行った。

そこのカフェのシェフはフランスで修行してきたとかで、ケーキも美味かったけど、ケーキのデコレーションもすげぇ綺麗だった。

俺がケーキを食っている傍らではジャッカルがコーヒーを飲んでいた。
どうやらジャッカルは金が無いらしい。

高いから1つしか頼めなかったけど、金があればいくらでも食べれた。

会計はジャッカルが済ませ、これからどこに行こうかなんて話しながら店を出ようと外を見れば、外は生憎の雨で、傘持ってねぇなーなんて考えるも、思い出すのは、あのケーキの味。

甘さ控えめのクリーム、フルーツの程よい甘味と酸味。
ああ、思い出しただけで涎が出るぜ。

「お前も頼めば良かったのに」

会計を済ませて隣に来たジャッカルにそう言えば「金がねぇんだよ」と嫌味っぽく返された。

「んなことより、ジャッカルお前、傘持ってねぇ?」

「結構降ってんな」

そう呟いたジャッカルは店の窓から灰色の空を見上げると「俺も持ってない」と答えた。

「何で傘の1つも持ってねぇんだよ!
ジャッカルのくせに!」

「いや、そこ俺関係ねーだろ」

いや、俺としては十分関係ある話だ。

俺が家から出る時、少し雨が降りそうだと思ったんだけど、ジャッカルが傘を持ってくるだろうと思って俺は傘を持ってこなかったのだ。

待ち合わせ場所に来たジャッカルを見て、傘を持ってないその姿に、あれ?とは思ったけど、折りたたみ傘でも持って来たんだろうと思ってたんだ。

だけど、ジャッカルが傘を持ってきてないせいで、これから俺はずぶ濡れになって返らねえとならなくなった。

まったく、ジャッカルのクセに気がきかねぇな。

「折りたたみ傘を持って来る位の配慮を見せろ」 思わずポロリと漏れた言葉にジャッカルは面倒臭そうに「あー、分かった分かった」と答えると、今度は道路の方にをやり、何かを見つけたのか「…あ」と小さく呟いた。

 
 
「何だよ。何か面白いもんでも見つけたのかよぃ」

そう言って窓の外を見れば、道路の反対側に一際目立つ銀髪の仁王が歩いていた。

しかも、よくよく見れば女と相合い傘をしている。

雨のせいで視界が悪いし、道路側を歩いている仁王が邪魔でよく見えねーけど、多分あの女子はついこの間まで幸村君と噂になっていた奴だ。

名前は忘れっちまったけど、仁王と一緒にからかい半分で教室まで見に行ったのを覚えてる。

取り立てて美人でも可愛くもなかったけど、すげぇ綺麗な姿勢で本を読んでいて、その姿に自然と目が吸い寄せられて行った。

真田や柳と仲が良いらしく、真田達が話しかけているのをよく見かける。

最近ではあの赤也を手懐けたらしく、赤也がアイツの後を着いて歩いているのをたまに見かけた。

そして今度は仁王と言うわけか。

ヒューとわざとらしく言った後に「付き合ってんのかな」と言えば、ジャッカルが「いや、それは無いだろう」と言った。

そう言えばアイツ、ジャッカルとも仲が良いんだっけ。

「なあ、仁王の隣にいる奴ってジャッカルの知り合いだろぃ?
どんな奴なんだ?」

雨に霞んでいく2人の姿をぼんやりと眺めながら、ジャッカルにそう尋ねれば、ジャッカルは「あー…、そうだな」と言って、俺と同じように仁王とソイツがいなくなった方を見ながら答えた。

「結構あっさりしてて、冷たい奴かと思えば、結構優しかったり、普段結構大人っぽいのに、無邪気に笑ったり…。
何つーか、変な奴だよ。苗字は」

「ふーん」

ジャッカルの説明を聞いても矛盾だらけで、その苗字って奴がどんな奴なのか俺には全然分からなくて、何つーか。
すっきりしない。

まあ、今日でゴールデンウイークも終わるし、明日の朝練の時にでも仁王に聞いてみようと思った。



 
 
「なあ、苗字ってどんな奴なんだよぃ」

次の日の朝練で仁王にそう聞けば「なんじゃ、藪からスティックに」と、古いギャグと共にそう返された。

「古いな!
…いや、昨日仁王が苗字と相合い傘してんの見てよ。
そんで、どんな奴かなーて思ってよ」

「なんじゃ?ブンちゃん。
…さては苗字に惚れたんか?」

仁王はニヤリと意地悪な笑みを浮かべてそう言った。

「ばっ!?ちっげぇよ!」

俺が慌ててそう否定しても、仁王は相変わらずの笑みで「本当かのう」と言って俺に詰め寄って来た。

「そうじゃのう…。苗字ははー…」

仁王がそう言って、苗字について説明しようとしたとき「仁王!丸井!」と真田の怒鳴り声がコートに響いた。

その怒鳴り声に俺と仁王の体が同時にびくりと震えた。

「2人して何をしている!たるんどるぞ!」

真田がそう言うと幸村君が「真田、うるさいよ」と言った。

朝は少し血圧の低いらしい幸村君。そのせいか朝はすこぶる機嫌が悪い。

普段ならまず撒き散らすことのない黒いオーラも、辺りに撒き散らす。

触らぬ神に祟り無しとはまさにこのことで、朝の幸村君の半径3メートル以内には誰1人として近づけない。

こんな幸村君の側で平気そうに立っていられるのは真田くらいなもんで、おかげで真田は幸村君の恰好の餌食だ。
だけど、真田はそれに全然気付いてねぇ。

「む、すまん」

そう言って謝った真田に幸村君は相変わらずイラついた様子で「分かったんならいいよ」と言い、俺と仁王の方を向くと「ブン太と仁王は今日の部活が始まる前に外周10週ね」とにこやかな笑顔で鬼のような宣告をした。

それに俺達が顔を歪めると「返事は?」と妙に凄みのある笑顔で言うものだから、俺と仁王は「はいっ!」と慌てて返事をした。




 
 
丁度朝練も終わって、部室で制服に着替えていると幸村君が後ろから「で?さっきは2人でなんの話をしてたんだい?」と言った。

「ああ。どうやらブンちゃんが苗字に惚れてしもうたみたいでの、苗字がどんな奴なんか教えて欲しいって言うとったんじゃよ」

幸村君の問いに素早く反応した仁王がそう言うと、幸村君は「へぇ…。そうなの?」と笑顔で俺に聞いてきた。
あれ?何かさっきよりも凄みがましてねーか?

「んなわけねーだろぃ!
俺はただ、昨日仁王が苗字と相合い傘してんのを見て、どんな奴なのかなーって思っただけだ!」

俺が慌ててそう答えると、幸村君は仁王の方を向いて「仁王、外周15周ね」と言った。

「プリ」

仁王はいつものわけのわかんねー台詞をはくと口パクで俺に「余計な事を言うんじゃなか」と言った。

余計なこと?

一体何が余計なことだったのか分からず、俺が頭に疑問符を浮かべていると「名前は変わった娘だよ」と幸村君が言った。

「それはジャッカルも言ってたんだけどよぃ。
何がどう変わってんのかイマイチわかんねーんだよなー」

「まあ、こればっかりは実際に会って話してみないことにはねぇ…。
と、言うことで、今日は名前と一緒にお昼を食べよう」

何が『と、言うことで』なのか。
仁王は「お、ええのぅ」とか言ってるし、いつの間に話に加わっていたのか赤也は「今日の昼飯は苗字さんと一緒なんっすか?」なんて言ってすげー嬉しそうだ。

「それじゃあ、生田、今日のお昼に名前を誘っておいてね」

幸村君はそう言うと、とっとと部室を出て行ってしまった。

何かよくわかんねーけど、今日は苗字と一緒に昼飯を食べることになったらしい。





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