彼女と柳生の接点
 
 
彼女と僕等の日常
彼女と柳生の接点






「あ、痛」

バサバサと私めがけて本が落ちてきて

あ、ヤバい。

なんて思った時には、数冊の本が私の額にぶつかっていった。

それは学校の図書室での出来事だった。

いつものように図書室で本を物色していると、なかなか気になるタイトルの本を発見した。

しかし生憎と、その本は私の手の届くか届かないかのギリギリの位置の本棚にあり、そう言った手が届かない人たち用にとちゃんと踏み台も用意されている。

しかし、その踏み台は今、私から少し離れた場所にある。

わざわざ少し離れた所にまで踏み台取りに行くのも面倒で、何とかして踏み台なしでその本を取ろうと頑張っていた時だ。

何だかこれはもう、踏み台を持って来た方がいっそ早く、しかも楽に取れるのではないかと思い始めた時、ようやく目的の本に手が届き、そのまま勢いよくその本を引っ張り出したら、他の本まで一緒に付いてきてしまい、上記のような事になってしまったのだ。

本をぶつけたおでこが痛くてたまらないが、地面に散乱した本達を見ていると、そうも言っていられない。

パッと見た感じではそんなことはないのだが、もしかしたら本の中身が折れたり破れてたりしてしまっているかも知れない。

自分の本がそんな事になっただけでも精神的なショックはかなり大きいのに、学校の本なんて人様のものだ。

破れていたら弁償だってありえるのだ。





 
 
流石に弁償は嫌なので、今度からはちゃんと踏み台を使おうと密かに心に誓うものの、また次も同じ事をしてしまうんだろう自分を想像できてしまう。

ダメダメだな。私。

そんなことを考えていると、横から「大丈夫ですか?」と声をかけられた。

その声で顔を上げれば、黄土色の髪の毛に眼鏡をかけた男の子が立っていた。

どこかで見た気がする。

本は落ちるし、おでこに当たって痛いしはで、まあ、とりあえず「えっと、あまり?」と答えれば、彼は驚いた表情で固まってしまった。

そんな彼を放っておいて、本を広い始めれば彼は「手伝いましょうか?」と言って私と同じように本を拾い始めた。

本を落としたのは私で、勿論拾うのも私の仕事だ。
見ず知らずの、私と何の接点もない彼がわざわざ拾う必要は無いし何だか申し訳ない。

「いえ、大丈夫です」

私がそう断ったのにもかかわらず、彼は「いえ、紳士たるもの困っている女性の手助けをするのは当然ですので、是非手伝わせて下さい」と言って、にっこりと笑みを浮かべた。

“紳士”と言う言葉で私の中の何かの糸が1本に繋がった。

彼はテニスの王子様のキャラクターで、名前は確か柳生さんだ。
残念ながら名字しか出てこないが、普段の私は彼等を名字でしか呼ばないので、まあ、困ることはないだろう。

しかし、いくら紳士とは言っても人が良すぎやしないだろうか?
最後の方なんて『是非手伝わせて下さい』とお願いしているではないか。

手伝ってもらう分には特に問題もないし助かるので、自分の拾った本を柳生さんに差し出して「それじゃあ、この本を1番上の本棚に入れてもらって良いですか?」と言えば、柳生さんは嬉しそうな笑みを浮かべた。





 
 
柳生さんのその嬉しそうな笑みを見て、そう言えば柳生さんはドMだったかと思う私は相当腐っている。

なぜこうも腐った考えしか出来ないのか。

何だか更に申し訳ない気持ちになってすみませんと謝ろうと顔を上げれば、彼は自分の手の中にある1冊の本を真剣な表情でじっと見つめていた。

一体なんの本なのだろうと立ち上がってチラリと覗き見れば、何だかいかにもな感じの表紙に銀色の箔押しで“世界の拷問器具”とかかれていた。

まあ、人の好みなんて人それぞれ、十人十色だ。
かく言う私だって今柳生さんが見ている本と多分似たり寄ったりの内容の本を手に持っている。

ちなみに本のタイトルは“血塗られた世界地図”だ。

私はそれを見なかった事にして、“血塗られた世界地図”意外の本を、入っていた本棚の一つ下にそっといれておいた。

背が届かないのだ。仕方がない。

そして柳生さんの方に向き直り「わざわざ手伝っていただきありがとうございました」と言って頭を下げた。

「いいえ紳士として当然の事をしたまでですから」

そう言って笑顔を浮かべる柳生さんの手にはしっかりと、“世界の拷問器具”が握られている。

どうやら彼はその本を借りるつもりらしい。

「あ、自己紹介が遅れました。私は柳生比呂士と申します」

なぜか自己紹介を始めた柳生さんは、優しげな笑みを浮かべて「よろしくお願いします」と言って手を差し出してきた。

しかし、しっかりと手に握られた本のせいで、その優しげな笑みもどこか腹黒さを帯びてしまっている。






 
 
なんて勿体ないんだろう。
なんて考えつつも、どこか腹黒い彼の笑みに押されて、差し出された手を握った。

「こちらこそ自己紹介が遅れました。苗字です。よろしくお願いします」

「苗字さんのことは幸村君や仁王君達からよくお伺いしています」

一体彼等は私の何を柳生さんに吹き込んでいるのか。
とりあえずろくな事ではないことは確かだろう。

「はあ…、そうですか」

「はい、昨日も生田君が苗字さんが階段を踏み外して転けて、足のすねを打っていたと部活中に大声で笑いながら話していましたよ」

生田さんめ!
彼に殺意が芽生えた瞬間だった。
そりゃ、人の不幸は蜜の味と言うが、大声で私の醜態を言いふらしてくれなくてもいいではないか。

これは教室に帰ったら頬でもつねりあげてやらなければ気が済まない。

「へぇ、それはまた、素敵な情報をありがとうございます」

私が笑顔でそう言えば、柳生さんは何かを悟ったのか「生田君をあまり怒らないであげてくださいね。きっと彼なりの愛情表現だと思うので」と言い、「少々分かりづらいですが」と言って苦笑いを浮かべた。

正直、人の醜態を大声で笑いながら言いふらす事のどこが愛情表現なのか私には全く分からないが、彼の困った顔を見ると生田さんの頬をつねり上げる気も失せてしまうではないか。

「そうですか。じゃあ、文句を言うくらいにしておきます」

「は?」

「…ああ、すみません。こっちの話なので、気にしないでください」

柳生さんはくすりと上品に笑うと「そうですか。それでは、私はここで失礼いたします」と言って手にしっかりと“世界の拷問器具”を握って立ち去って行った。

今度また図書室で会ったら“世界の拷問器具”は面白い内容だったか聞いてみよう。







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