彼女とあの子達の言い分
 
 
彼女と僕等の日常
彼女とあの子達の言い分







ふと、私は何だかんだで結構な人数のテニスの王子様のキャラクター達と関わり合いになっている事に気付いた。

立海と六角のキャラのほぼ全員と言っても良い。

六角の丸坊主の子とは学年も違うためまだ会ったことはないが、何だかんだで関わり合いになりそうな予感がする。

トリップする前もトリップした後も、私から彼等に関わろうと働きかけた事はないのに、関わり合いになってしまうのは矢張りトリップの特典と言うやつだろうか。

そうでなければ、こんな普通を絵に描いたような没個性の私に、光に集まる虫のごとく、彼等が私に寄って来るはずがないのだ。

むしろそうでなければ私が納得できない。

そんな事を考えている今はロングホームルームの真っ最中だ。
今回の話の内容は、11月にある修学旅行についての話しなのだが、どうにも話が進まず困っている。

まず、修学旅行と言えば団体行動で、男女3人ずつのグループ分作らなければなければならないのだが、その班分けがなかなか決まらない。

その原因は、矢張り相変わらずよくモテる幸村さんにあり、私にあるのだ。

まず始めに、幸村さんがまるで決定事項のように「名前は俺と同じ班だよね」と言った。
その次に生田さんが「じゃあ俺も一緒の班な」と言い、その後、他の班からあぶれてしまったと言う理由で、サッカー部の真島さんが幸村さんと生田さんと私とのグループに加わった。

ふと気付けば、私の周りにはクラスのイケメン3人が揃っていた。

これもトリップの特典と言うやつだろうか。

そして、次の問題だが、私には生田さん以上に親しくしている友人がいない。

そのため、幸村さんと同じ班になりたい女の子達が揉めに揉めているのだ。




 
 
こんな面倒な事になるんだったら、ちゃんと付き合いのある友達を作っておくんだった。

先生は生徒の自主性を尊重するなんて言って、狸寝入りを決めこんでしまった。

いい加減うんざりして、取りあえず私を含めた3人ずつに分かれれませんか?と言えば、今度は私の取り合いが始まった。

どうすれは班分けがとっとと決まるか考えた結果「じゃあ私は幸村さん達と同じ班になりません」と私が言えば、「そんな、悪いから良いよ」と言われてしまった。

何だこの妙な気の使われ方は。

私が抜ければその分競争率がさがって良いと思うのだが。

現に今だって、彼女達は何グループかに分かれて、自分達が幸村君さんと班を組むのだと言ってキャンキャンと言い合いをしている。


その形相はまさに鬼、般若。
取りあえず恐ろしいと言うことだけはわかって欲しい。

「女の子って怖いなぁ」

もう関わることすら面倒で、ぼそりと呟くようにそう言えば、「お前も女子だろ」と生田さんに突っ込まれてしまった。

「女が怖いのなんて昔っからの常識だろ」

そう言ったのは真島さんで、彼は女性に何かトラウマでもあるのか、強気な口調とは裏腹に、膝の上に置かれた手は固く握りしめられ、俯いたその顔は決して上げられる事は無さそうだ。

「姉ちゃんなんて俺をこき使うし、母ちゃんと婆ちゃんなんて毎日笑顔で喧嘩してるし…。
女ってこえーよ。」

思わぬところで真島家の家庭事情を垣間見てしまった。

それに対して、どう返事をすればいいのか分からず、私と幸村さんと生田さんはただ苦笑いを浮かべるしかない。



 
 
「だから俺は杏子だけを一生愛するんだ」

ついさっき女は恐ろしいと言ったその口から、1人の女性を一生愛すると言う言葉が出た事に驚いていると、幸村さんが「杏子は真島の家で飼ってる子猫の名前なんだ」と呆れた様子で言った。

「杏子は世界1可愛いんだ。写真あるぞ」

真島さんはそう言うと、自分の席まで戻り、机の横にかけてあるカバンからA4サイズのアルバムを取り出した。

その一面にプリントされたいくつもの赤いハートがプリントされたアルバムは、年頃の男の子が買うには勇気がいりそだが、その真っ赤なハート達が真島さんの子猫への愛情を物語っているようで、むしろ微笑ましくあった。

「相変わらずの少女趣味だよな」

確かに生田さんの言うとおり、真島さんのやんちゃな容姿には似合わず、あのアルバムはなかなかファンシーな持ち物だ。

しかし兄の聖也さんには適わないと私は思う。
注目されることが大好きな彼は、日々どうすれば自分の容姿を最大限に生かし、可愛く見せ、女の子にチヤホヤしてもらえるかと言うことを考えている。

その彼のコレクションはヘアピンから絆創膏、シュシュからストラップなど、彼のコレクションは一言で言えば、そう、とてもファンシーだ。
最近は、同じクラスの女の子からマスカラを貰ったと言って喜んでいた。

使っているところを見たことはないものの、きっと部屋に大切に保管されているに違いない。

「ほら」

そう言って真島さんが差し出したアルバムを受け取り表紙を開けば、そこにはついこの間、仁王さんと一緒いるときに見つけた牛柄の子猫が写っていた。







 
 
実は仁王さんを家まで送り届けた後、どうにも心配でたまらず、近くのスーパーで子猫用の猫缶を買って様子を見に言ったのだが、残念ながら向かった場所に子猫はおらず、段ボールだけがぽつんとあっただけだった。

結局、その時に買った猫缶はどうする事も出来ずに家の机に閉まってある。

明日にでも真島さんにその猫缶を上げようと考えながら、アルバムのページをめくっていると、うんこの写真があった。

近すぎてピンぼけしているのがせめてもの救いか。

しかし、このツヤこの形はどう見てもうんこにしか見えず、どうしたものかと思い、顔を上げれば幸村さんと目が合い、反射的にへらりと笑えば、それはもう綺麗な笑みで「変な顔」と言われてしまった。

「これな、杏子が初めて猫用のトイレでうんちした記念に撮影したんだ。
色形といい、なかなか立派だろう?」

「そうですね。立派ですね」

私が明らかな棒読みでそう答えると、真島さんはそれを全く気にした様子もなく、嬉しそうにニカっと笑い「そうだろ?」と言った。

取りあえず、彼はこの子猫が可愛くて仕方が無いらしい。
彼女の排泄物すら愛せる彼の彼女への想いはもう本物だ。

流石の私もちょっと一線置きたくなる程だ。

「何見てるの?」

そう問われて振り向けば、体育の授業などでよく一緒のグループになる竹中さんと大谷さんがいた。

「ああ、ちょっとうんこを」

私がそう言って杏子さんのうんこの写真を見せれば、2人は明らかに困った様子で苦笑いを浮かべた。






 
 
まあ、確かにいきなりうんこの写真を見せられたって、どうしょう?という話しだ。

しかしそれに全く気付いた様子のない真島さんが、かなり得意気に「立派だろ?」と言っている。

竹中さんと大谷さんは「うん、そうだね」なんて適当に相槌をうちながら、ちらちらと私の方へ視線を投げて寄越して『助けて』と訴えていた。

私としては、年頃の女の子がうんこの話を楽しそうに聞いている、という面白い光景をもっと楽しんでいたかったが、真島さんが杏子さんの排便する様子を事細かに語り出したので、これは流石に止めなければならないだろう。

「そう言えば、女子のグループ分けは終わったんですか?」

私がそう尋ねれば、大谷さんが「うん、私と奈緒子が苗字さんと同じグループになったんだよ」と言った。

「と言うことだから、よろしく」

「よろしくね」

2人がそう言って笑顔を向けたのは勿論私などではなく、幸村さんと生田さんと真島さんだ。

その分かりやすさは、もういっそ清々しいほどで、好意すら感じる。

そんな2人の趣味は良い男を眺める事だそうで、彼らと話しをたいとか付き合いたいとかは思わないらしく、ただ本当に眺めているだけで満足するのだそうだ。

そんな2人が自ら“良い男”達に関わりに行くとは、なかなか珍しいこともあったものだ。一体どういう心境の変化だろうか。

そんなことを考えつつぼんやりしていると、竹中さんが何か企んでいるような顔で私の方を振り向いた。

「この修学旅行で、どうしてアナタみたいな普通の子が、こんなイケメン達ばかりに好かれるのか、その秘密を暴いてあげるから」

ひっそりとそう言って、まるでいたずらっ子のように笑った竹中さんを見た私は、思わず目眩を覚えた。

だってどうして言えようか。

どうして彼女達に分かろうか。

それがトリップした特典だなんてことが。








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