彼女と手紙と有効期限
彼女と手紙と有効期限
遂に来た。
何が来たかと言えばお手紙だ。
朝、いつもの様に学校に登校した私の下駄箱の中に1つポツンと猫の絵柄の描かれた封筒が入っていた。
6月も半ばに入り、梅雨もいよいよ本番。
ただでさえ、雨と湿気の多とさ蒸し暑さで朝から気が滅入りそうなのに、この手紙のおかげで本当に気が滅入ってきた。
差出人の名前が書かれていないその封筒には『苗字名前様』と書かれている。
封を開け中の手紙を読めば『今日の放課後に美術室裏に1人でお越しください』と意外にも丁寧な文面で書かれていた。
差出人の名前も何も書かれていない用件だけが書かれたこの手紙は、言わずもがな“お呼び出し”の手紙だ。
そりゃ、トリップの特典だか何だか知らないが、この世界の軸とも言える彼等と知り合いになってしまったからには、いつかは来るだろうと思ってはいた。
今年の県大会をその人知を超えた強さでぶっちぎりで優勝した彼等の人気は正にうなぎ登りだ。
だからこういったある程度の呼び出しは仕方ないとは思うものの、こんな時期でなくともいいではないか。
しかも美術室裏は外で、今日は朝から雨が降り続いていて、朝のニュースの天気予報でも今日は1日雨だと言っていた。
取りあえず、上履きに履き替えて教室に向かう道すがら、窓ガラス越しに外の景色を眺めてみるが、やたらと的中率の高くなった最近の天気予報が外れる可能性は微塵も感じられず、相変わらずしとしとと降り続く雨に気分は滅入るばかりだ。
もしかしたら愛の告白の手紙かも知れない。
なんてトキメキシチュエーションを連想してみたが、男の子の気を引くような行動をした覚えのない私に、そんなトキメキシチュエーションがやって来るはずもなく、その可能性は直ぐに打ち消した。
行くべきか行かざるべきか。
行った所でどんな目に会うのかなんて分かりきったことだし、かと言って行かなければ行かないで、次の日に何かをされるのは明白だ。
そんな事をぐるぐる考えている間に、時間はあっという間に過ぎていき、気付けばもう終礼だ。
嫌な事がある日は、なぜこうも時間が経つのが早いのか。
ふと教室の窓から外を見れば、残念なことに朝から降っていた雨は止んでしまい、晴れ間さえ覗いている。
外の天気とは裏腹に、私の心は憂鬱な気分で満たされていき、もう、本当に気が滅入るばかりで、逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。
気付けば、誰もいなくなった教室で、私は自分の席に座ったままの状態でばらくの間『お呼び出し』の手紙を見つめていた。
別に何を考えていたわけでもなく、ただ見つめていただけだ。
そしてまた外を見れば、空がまた影ってきていた。
「成せばなる。成せばならぬ、何事もだ!」
そうだ。うじうじ悩んでなにもしないよりは、スパッと決めてやってしまった方が良いに決まっている。
それに私はこの世界にトリップする前に、願いを1つ叶えてもらった。
それは『何者も私に外傷を与えることは出来ない』という、大変素晴らしい願い事だ。
そのおかげか、こちらの世界にトリップしてからというものの、怪我なんてした覚えもなく、大変健康的に日々を送っている。
しかし、ほんの3月前の出来事だが、幸村さんに掴まれた肩が青あざになっていた。
それはもう何かのホラー映画だろうかと思う程に、くっきりと肩に現れた手形がようやく消えたのはつい最近のことで、記憶にも新しい。
何者も私に外傷を与えることは出来ない。という願い事のはずなのに、青あざが出来るとは一体どういうことだ。
それとも青あざは怪我の内に入らないのだろか?
もしかしたら、この願いには有効期限があったりしたのだろうか?
トリップしてから1年間までとか。
もしそうなら、私をこの世界に飛ばした奴に抗議の電話を入れたい。
一体どういうことだ、と。
しかし、いくらそんな事を考えようと、結局は連絡の取り様が無い。と言うより、連絡の取り方が分からないわけで、つまりは真相は永遠に闇の中だ。
怪我をするかも知れない。
そう考えると、自然と足取りは重くなり、美術室に近づいた時にチラリと見えたスカートの裾に、足取りは更に重くなった。
いっそ手紙に気付かなかった、ということにして、逃げ出してしまおうかと思ったのだが、あいにくと私を呼び出したっぽい子達に見つかってしまい、そうもいかなくなってしまった。
条件反射でへらりと笑えば、その子達の1人に「遅い!」と言って怒られてしまった。
私が「すみません」なんて謝りながら彼女達の元に向かえば、総勢4人の女の子達が私を出迎えてくれた。
『出迎えてくれた』とは言っても、勿論それは友好的な意味ではない。
ピリピリとした雰囲気をまとった彼女達は、私を睨みつけ、そのうちの1人なんてなぜか泣いてしまっている。
「えっと…手紙をくれたのは、あなた達で合ってますか?」
私が彼女達の雰囲気にビクビクしながらそう尋ねれば、さっき私を遅いと言って叱った子が「ええそうよ」と答えた。
夢小説では、呼び出された夢主の対応をするのが、そのグループのリーダー格ということになっている事が多いのだが、彼女がリーダーで合っているのだろうか?
まあ、どの子がリーダー格だろうが、私の知った事ではないが、1つ分かった事がある。
それは、たとえ年下だろうとも、怒り睨みつける姿は矢張り恐ろしいということだ。
よくこういったシーンで余裕しゃくしゃくな夢主や反論したりする夢主がいるが、元々小心者な私にはそんな肝の座ったことなんてとてもじゃないが出来ない。
そんな私の考えることと言えば、どうやってこの危機的状況から逃げ出すか、と言うことと、どうすればこの興奮状態にある彼女達を宥めすかすことが出来るか、ということだけだ。
「一体どういうつもりなの?」
そんなありきたりな台詞を口にしたのは、矢張りリーダー格っぽいその女の子で、なんとなく言いたい事は分かるが、彼女が私にどんな答えを求め、その主語と動詞の抜けまくった台詞を口にしたのかが分からない。
謝ってしまえばいいのだろうが、それは私の無駄に高いプライドが許さない。
悪い事をしていないのになぜ謝る必要があるのか。
それに私の場合、憶測でものを言うと大抵の場合が的外れな発言となってしまうので、たとえ分かっていたとしても、分からないフリをして相手からちゃんと言葉の意味を引き出さなければならない。
しかし、そういったこともあまり得意ではない私からでた言葉と言えば「はあ…」なんて言う、なんとも気の利かない台詞で、下手をすれば彼女達の期限を逆撫でしてしまいそうな台詞だった。
「『はあ』って、なによその返事は。
幸村君に柳君、真田君に丸井君に柳生君に仁王君に赤也君まで!
一体どう言うつもりで彼等に近付いたの?」
ああ、矢張りこのお呼び出しはテニス部の方々が原因らしい。
どういうつもりも何も、私から彼等に近づいた事はないので、それを私に聞かれても答えようがないので困ると言うものだ。
「あんたがいるから、私達は幸村君達に振られたのよ」
ちょっと、いやかなり、聞き捨てならない台詞が耳に入った。
なぜ私がいると彼女達が彼等に振られるのか。
その理由が全くわからず、頭に疑問符を浮かべていると「何よ白々しい。分からないフリなんてしないでよ」と今まで私に話しかけていた子とは別の子がそう言って来た。
「私が何て言われて仁王君から振られちゃったか、あなた知ってる?」
そう問われて首を左右に振ろうとしたのだが、その動作をする前に彼女がまた話し出した。
どうやら彼女は私の答えを必要とはしていないらしい。
「今、自分の側にいる女は母親と姉と苗字さんだけでいいって言われたの。
私なんて眼中にないんですって」
「私は苗字さんほど柳君の興味をそそらないらしいわ」
2人共、なんて断り方をしてくるてるんだ。
もっとオブラートに包み、私の名前を出さずに断ることはできなかったのか。
後の2人はその時の事を思い出したのか、俯いて泣き出してしまった為に、誰がどんなふうに断ったのかは分からないが、どうせろくな断り方をしなかったに違いない。
全く、いい加減にしてくれよ。
やんちゃにも程がある2人を思うと、頭痛すら起こしそうだ。
「ねえ、あなた自分の顔を鏡を見たことある?
不釣り合いなのよ。本来なら、あなたのいる場所は私達がいるべきはずの場所なの。
勉強も運動も頑張って、自分を磨き上げてる私達が彼等の目に止まらないで、どうしてあなたみたいなどこにでもいるような子が、彼等の側にいるのよ!」
悔しそうに唇を噛みしめた彼女の目には涙がたまっていて、その涙は、彼女が目元に引いたアイラインと混ざり、黒い涙となって彼女の頬を流れた。
泣いている彼女達と、涙を流すことすらぜずにただぼんやりと彼女達を見つめているだけの私。
端から見れば、まるで私が悪者のようだ。
気がつけば、もう彼女達に恐怖を感じることはなく、むしろ彼女達を哀れんでさえいる自分がいた。
そして、ふと分かってしまった。
彼女達は私に憧れ嫉妬しているのだと。
自分をどんなに磨き上げ、彼等との甘い関係を夢想し切望しようとも、彼等が自分を見てくれることはなく、努力は報われず、せっかく勇気を振り絞った告白も、私という存在を理由に断られてしまったのだ。
彼女達はどんなに辛く悲しく悔しかったことだろうか。
しかし、私がどんなに彼女達の気持ちを理解しようとも、それはしょせん憶測でしかなく、矢張り彼女達の苦しみや悲しみや悔しさの真相など私に分かるはずもないのだ。
それに彼女達が言うように、私と言う存在は元々この世界になかったもので、そのいなかったなかったはずの私が本来の様にいなければ、今頃彼等の隣にいたのは彼女達かも知れないのだ。
そう思うと途端に申し訳なくなってしまい、何か彼女達に言葉をかけなければと思うのだが、果たしてその言葉で彼女達が満足するのだろうかだとか、その言葉は彼女達と同じ立場にいないから言える言葉なのだと思うと、浮かんでは消えていくその言葉のどれもが、薄っぺらく、内容のないもののように思えてしまい、結局は何も言えなくなってしまい、開きかけた口は閉じられてしまった。
ぽつりと頬に何かが落ちた気がして空を見上げた時、突然「もう我慢できねえ!」と言う声が聞こえた。
「おい、赤也!」
その声がした方に顔を向けると、切原さんが美術室の窓から顔を出していて、部の後輩である藤野さんが切原さんの肩を押さえて座らせようとしていた。
藤野さんは私と目が合うと、気まずそうな笑みを浮かべて軽い会釈をしてきた。
「なんなんだよあんた等!
何で勉強とか頑張ってねーと先輩達の側にいちゃいけねーんだよ!
苗字さんがいなかったら、先輩達の隣にいたのは自分だとか、そんなもんあんた等の勝手な妄想だろ。
完全に逆恨み?筋違い?…まあ、どっちでもいいや。とりあえずそんな感じだ。
それにだな、俺は苗字さんが好きだ。別に変な意味じゃなくて、苗字さんは姉ちゃんみたいで、て言っても俺の姉ちゃんみたいに暴力手は振るわねーぜ?
あー…つまりだな、先輩達はどうか知らねーけど、俺は苗字さんが好きで、俺の好きで苗字さん側にいるんだから、あんた等にゴチャゴチャ言われる筋合いはねぇ!ってことだ!」
今日は部活が休みの曜日なはずなのに、なぜ藤野さんが美術室に居るのだろうかとかなぜ切原さんが美術室に?
なんてそんな事を思う間もなく、切原さんは一気にそこまで言い切ると、大変満足した表情でふんっと鼻息を吹き出した。
彼のその表情は、言いたい事の全てを言い切ったぞと言わんばかりで、それまでのどんよりとした空気が一気に微妙な空気になってしまった。
彼は一体これをどう収集をつけてくれるのか。
藤野さんは隠れるのを諦めてしまったらしく、ひとつため息をつくとスッと立ち上がり「えー…っと、6時間目が美術で、筆を美術室に忘れたので取りに来たら、まあ…はい。切原はただ着いて来ただけです」と言いながら手に持っていた筆を見せてくれた。
しかし、それはこの場の空気をどうにかしてくれるものではなく、ただ偶然ここにいたんです。別に聞くつもりはなかったんです。と言う藤野さんの言い訳にすぎず、この場の空気と私の立場が良い方向に向かったとは到底思えなかった。
ふと彼女達の方を見れば、さっきまで泣いていたのが嘘のように、その涙はぴったり止まり、4人とも顔を青くさせて切原さんを見つめていた。
私が切原さんを美術室に来るように呼んだかと勘ぐるかと思ったが、どうやら切原さんの突然の登場に驚いてしまっていて、まだそこまで頭が回っていないらしい。
しかし、しばらくすると今度はなぜか慌てた様子で、リーダー格っぽい子以外の3人が俯いてしまった。
「分かってるよ、そんなの」
ぽつりと、俯いている彼女達の誰かが言った。
「苗字さんの近くにいるとみんな表情が穏やかで、楽しそうだもん。でもやっぱり悔しいよ。
幸村君や仁王君達の隣に並んでも不釣り合いじゃないようにって凄く頑張ってるのに、結局は苗字さんを選ぶんだよ?
こんなに不公平で理不尽な事ってない」
相変わらず俯いたままそう話しているため、誰が話しているのかは分からないが、彼女達の気持ちの大方は私の憶測で間違いないらしかった。
何か、何か言わなければと思うのだが、その何かが出てこない。
「あの…、私は彼等とはただの友達です。ですから、あなた達が想像している様な甘い関係ではないです」
そして、やっと口をついて出てきた台詞がこれだ。
もっと別の、気の利いた台詞は言えないのかと自分でも思う。
おまけに、その言葉は逆効果だったようで、リーダー格の子に「当たり前じゃない!柳君があんたみたいな女と付き合うわけないじゃない!調子に乗らないでよ!」と怒られてしまった。
どうやら私の台詞は逆効果だったようで、彼女を余計怒らせてしまい「幸村君はそんなに悪い趣味してないわ!」とまで言われてしまった。
趣味が悪いとはどういうことか。それはつまり、かなりおおざっぱに言えば、私に興味を持ち、なおかつ好いてくれているテニス部の方々の趣味が悪いといっているようなものだ。
別に彼らが何と言われようが知った事ではないが、さすがにそんな事まで言われて黙っているようでは女が廃る。
何か言い返してやりたいのだが、頭の中には全く別の思いばかりが渦巻いていて、肝心の言い返すための言葉が出てこない。
それは例えば、この世界にトリップさせられた理由だとか、本当は生きているはずの人達がこの世界では死んでしまっていることだとか、とりあえず彼女達には全く関係のない事ばかりが浮かんでは消えてを繰り返している状態だ。
正直に言ってしまえば、彼女達の思いなんてどうでもいいと言うのが本音で、しかしそれを言ってしまえば彼女達が怒り出してしまうのは火を見るより明らかで、そうなってしまえば、私の平和で平凡な日常は脆くも消え去ってしまうのだ。
そうならないためには、矢張りいくら面倒でも彼女達ときちんと向かい合い、話し合い、できれば上手いこと彼女達を取り込み、なおかつ波風を立たせずにこの件を解決しなければならない。
しかし、だからと言って私に良い案やせりふが浮かぶはずもなく、ただ黙って彼女達からの罵りを聞き流しているしかなく、口下手で言いたい事の1つもいえない自分がひどく歯がゆい。
思考と心が暗い方へと沈んでいくのが自分でもわかった。
落ち着け、落ち着け。
心の中でそう繰り返し呟き、ゆっくりと口から吸い込んだ空気は、相変わらず湿り気を帯びていて気持ちを切り替える事は出来ず、次いで見上げた空は相変わらずの曇り空で、さっき空を見た時よりも黒い雲が多くなっていた。
ああ、雨が降るな。なんて思った時「ちょっと、ちゃんと聞いてるの?」と尋ねられた。
その時、私の中で何かが切れた。
人間どこでどうキレるるか分からないと言うが、本当にそうだと思う。
何かが切れてしまっている当の本人である私だってびっくりしているのだ。
「ああ、はい。つまりあなた達は私に嫉妬しているんですよね?」
今の私の心情を一言で表すなら『どうにでもなれ』だ。
何かが切れてしまった私には、彼女達を傷つけないようにだとか、彼女達を取り込むだとか、平和な学園生活だとか、その全てがどうでもよくなってしまい、少々、いや…かなり投げやりな気持ちになっていた。
「なっ!誰があんたなんかに!」
「そうですね。そんなことありえませんね。
自分達は彼等に好かれるためにこんなに頑張っているのに、どうしてあの人達は私を見てくれないのだろうか。
ああ、あの子が羨ましい。あの子が嫉ましい。
あなた達の言い分を聞いて、私にはそう解釈できました。
あなた達の言いたいことや気持ちは理解できますが、それで私に八つ当たりしないで下さい。はっきり言って迷惑です。
あなた達の嫉妬に付き合う程私も暇じゃないんです」
私が一気にそこまで言うと、切原さんがぼそりと「すげぇ…」と呟いたので、何が凄いのかよく分からないが、取り上えずにっこりと笑みを向ければ、切原さんは引きつった笑みをうかべた。
「彼等に側にいたいのなら、先ずは友達から初めてみてはいかがですか?
初めて会った人とお付き合いするほど、彼等も軟派な方々ではないと思います。それでは、失礼させていただきます」
私はそう言って頭を下げると、唖然としている彼女達を置いてその場から離れた。
ふと前を見れば、校舎の影から生田さんがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべてこちらを見ていた。
まったく、来ていたらな助けてくれればいいものを。なんて薄情な友人だ。
「来ていたなら助けて下さいよ」
生田さんの元まで歩いて行きそう言えば、生田さんは「とてもじゃないが俺にはそんな勇気はない」とキッパリと言いきった。
こうもキッパリと言われてしまうと、最早呆れてものも言えず、口から出るのは溜め息ばかりだ。
しかし、生田さんはそう言った直ぐ後に「ま、殴られそうになったら助けてやるよ」と言った。
「安心してください。私が誰かに殴られることは絶対に…多分?ないので」
今回は殴られたり、蹴られたりと外傷を与えられる様なことはされなかったものの、次はそんなことをされないという自信はない。
もしかしたら、ちゃんと叶えられているかも知れないし、今回はたまたま運が良かっただけかも知れないのだ。
この世界に来る前にした願い事がちゃんと叶えられているのか知る術が私にはなく、また、それがきちんと効力を発揮しているのかをわざわざ試すほど私は馬鹿でも無謀でもない。
「多分かよ」
生田さんはカラカラと笑いながらそう言うと、私の頭をガシガシと乱暴に撫で回し「んじゃ、帰るか」と言って私の鞄を渡してきた。
「持ってくれるんじゃないんですか?」
「これくらい自分で持てよ」
苦笑いと共にもう一度差し出された鞄を受け取れば、腕に1粒2粒3粒と雨の滴が当たり、制服にシミができた。
「また降り始めましたね」
そう言いながら広げたお気に入りの傘の内側には、この空模様とは正反対の晴れ渡った青い空と白い雲が広がっていた。