彼女と柳と仁王の放課後


彼女と僕等の日常
彼女と柳と仁王の放課後





一時間目の授業を不本意ながらサボタージュして、昨日のことを黙っている代わりに自分のことを下の名前で呼ぶように強要して脅してきた切原さんをなんとかなだめすかして、私の平和な学園生活を脅かすフラグを何とか回避したことに、よくやった私。と心中で自分を誉めながら教室に戻る途中で、一時間目の授業担当だった先生に俺の授業をサボったのかと問い詰められて、突然襲ってきた腹痛に耐えきれず、さっきまでずっとトイレに籠ってましたが、出すものを出したら腹痛もおさまりスッキリしたのでもう大丈夫です。と言えば、風邪かと心配されたので、いいえ便秘ですと答えたのが今朝の話。

教室に戻って普通に授業を受け、お昼をいつものように生田さんと食べ終わった後に、今朝のことを聞かれたので、先生に答えたのと同じように答えれば、慎みを持てと怒られたのがお昼の話。

午後の授業、掃除、ホームルームも終え放課後になり、今私は体育倉庫の裏にある日の当たらないスペースで地べたに正座をしている柳さんと仁王さんを見下ろしている。

もうすでにテニス部のジャージに着替えて半袖ハーフパンツ姿の二人が私のことを不思議そうな顔で見上げている。

ちなみに、この場所に行く前に教室で幸村さんに、二人に話しがあるので部活が始まる前の少しの間だけ二人を少しお借ります。と伝えれば「5分すぎるごとに名前のお弁当のおかず1個ね」と言われているので、手短に済ませる予定である。

地面に直接正座させているので、脛に小石がめり込んで痛いかなとも思ったが、特に二人は気にした様子もないので私も気にしないことにした。

「とある情報筋からつかんだ情報なんですけども、お二人ともたいへんおモテになるようですね」

昨日のことを思い出しつつそう言えば、二人と臆面もなく「まあな」と答えた。

「なんじゃ知らんかったんか。苗字は全然わしらの魅力に気付いてないようじゃから教えちゃるが、わしらは顔がいいからのう、毎日毎日モテて断る理由を探すのも一苦労するほど大変なんじゃ。全くモテる男は辛いぜよ」

体の前で腕を組み、うんうんと頷いている仁王さん。自分がモテている理由が顔だと、むしろそれだけだと言っているに等しい言葉にフォローをいれたくなったが、残念ながら仁王さんのモテる理由が私もそれしか出てこなかったためやめた。今は時間が、延いては私のお弁当のおかずが惜しい。


「ええ、そのようですね。断る理由になんの関係もない私を使ってしまうほど理由探しに困っているようで。
その事について昨日私のところに報告しにきた子がいるんですが、これについて何か私に言うことはありませんか?」

「俺は違うぞ苗字。俺は事実を言ったまでだ」

さっきまで黙って話を聞いていた柳さんがまるで心外だとでも言いたげに言ってきた。しかし私が欲しいのはそんな言葉ではない。

「ところで、その情報筋というのは俺達が振った相手と推測するがどうだ?」

「それについては個人情報にあたるためお答えするわけにはいきません」

ニヤリと顔に笑みを浮かべた柳さんにまさかと思う。

「 なんじゃ、苗字はわしらが振った奴等に呼び出しでもされたんか?」

「黙秘します」

どうやら私の“情報筋”が彼等に告白して振られた女生徒達であると決定しているらしく、「もう苗字を理由にした言い訳も使えんのぅ」と仁王さんが呟いた。

それはつまり、言葉にしてはっきりと言ってはいないものの、昨日私を呼び出した女生徒達以外にも私の存在を理由に断わられた女生徒達がいるということではないだろうか。

普段見上げてばかりの二人を見下ろしていることに少し気分がよくなっていたが、そんな場合ではないと気付き、私も二人と同じようにその場に正座をしてみた。

二人が平気な顔を日ているので、案外痛くないのかも知れないと思ったのだが、やっぱり足に小石がめり込んで痛い。

「ちなみに仁王さん。私を理由に何人くらいの女の子を振ってきましたか?」

「ん、そうじゃのう……」

そう言って、思い出しながら数えているのか、
指折り数えていた片手の指が折り返した時点でそっと仁王さんの手の上に自分の手を重ねた。

「もう、いいです」

「なんじゃ、まだ数え終わってないぜよ」

モテ自慢でもしたいのか、不服そうな顔の仁王さんにもう一度「もう、いいんです」と伝えた。

「ちなみに柳さんは?」

「俺は10人程だ。どうやらさすがの苗字も無害ではいられなかったようだな」

また柳さんがニヤリと笑みを浮かべた。
その手にはどこから取り出したのかノートとボールペンが握られている。
そして私の予感は確信にかわった。

「柳さん。一応確認のために聞いてみますが、私のデータをとってますよね?」

「ああ、それがどうした?」

何を今更、とでも言いたげな顔をしている柳さんの太股に手をのせ、ぐっと上半身の体重をそこにかける。

「苗字痛い」

やはり地面の上に直接正座をするのは痛いらしく柳さんの涼しげな顔がわずかに歪む。

「私に被害が来ないのならと今までなにも言わずに見逃していましたが、今回ばかりは見逃してあげるわけにはいかなくなりました。
何せ私にまで被害が及んだわけですから。しかも察するに柳さんは私に被害が被るとわかっていてやってましたよね?なんの役にたつのか知りませんが、テニスに関係のない私のデータをとるためだけに」

「苗字お前は被害があったというが、暴力を振るわれたわけではないのだろう?俺だってその辺は考えて行動している」








自分は正論を言っているとでも言いたげな柳さんに苛立つ心をなんとか抑え、にっこりと笑みを浮かべてみる。
笑顔のイメージはいつも笑顔で人を脅してくる幸村さん。私の普段から腑抜けた顔が少しでも威圧的になって怖い雰囲気になっていればいい。

「暴力をふるわれたわけじゃない?馬鹿なことを言わないでください。私の“平和に学園生活を送る”という目標を駄目にした人がよく言いますね。
そもそも、そんなことをしようものなら私にだって考えがあります。そうですね、まず弁護士に相談をして、私に危害を加えた子達の親から損害賠償と慰謝料をもらいます。私が予想するに、そのことに当然、学校側は多少は騒ぎになるでしょうし、そんな問題を起こした子達に学校だって優しくありませんでしょうから、よくて停学、最悪の場合は退学処分も考えられます。
ついでに言えば、今の日本はそう言った子供達にも優しくできているので、弁護士の方や先生方がその子達がそういった行動をするにいたった経緯を知るためにカウンセリングを親御さんに進めるでしょう。
それでもしその子達がカウンセリングを受けた場合、私に暴力を振るった原因を“柳さんに振られたから”と答えたらどうなると思います?
柳さんの手元には私のデータを書いたノートがあるわけで、もしそのノートが他の人の目についたら?
ここまで言えば結果がどうなるのかもう分かりますよね?
………参……謀…さん」

私のにわかの知識で大丈夫かと不安になったが、どうやら問題ないらしく、柳さんの顔がみるみるうちに青くなっていく。
ようやく私の言いたいことを察してくれたらしい。
私は柳さんの持っていたノートをその手から抜き取り「このノートは私が処分してしまって構いませんね?」とたずねれば、柳さんはこくりと頷いた。

「これに懲りたらもう2度と私のデータを集めたり、そのデータを採るために妙な実験はしないことですね」

柳さんがまたこくりと頷いた。

少し効果てきめん過ぎやしないだろうかと思いつつも、これでまた私の平和な学園生活が戻ってくるなら脅しすぎと言うこともないだろう。
そんなことを考えながら立ち上がり、仁王さんを見れば、柳さんと同じくらい青い顔をしてこちらを見ていたので、にっこりと微笑んでおいた。

「わしも、もう2度と苗字を振る理由につかわんぜよ」

「ええそうですね。それが賢明かと思います。
言わずとも分かっていただけたようでなによりです。
私の用件はもう終わったので、もう部活に戻っていただいて結構ですよ。お二人の貴重なお時間を取らせてしまい申し訳ありませんでした」

よろよろと立ち上がり部活に向かう二人を見送り、柳さんから没収したノートをぱらぱらとめくる。
どうやら私用のノートだったらしく、どこで仕入れたのか分からない情報も含め、10ページ程にわたって私の事について事細かに書いてあった。

「テニス部じゃない私の情報を集めて柳さんは何をするつもりだったんだか」

小さくため息をついてそんなことを呟いてみる。
純粋な興味だったとしても、私からは特に掘り下げて追及するべき事柄なんて出てくるとは思えないし、私のどこにそんなに興味を引かれたのかも分からない。
取り合えず気持ち悪いと言うことだけは確かなので、ノートの処分をもう部活が始まっているであろう美術室へ向かいながら考えた。





考えた結果、晴海さんの持っているシュレッダー鋏でもう絶対に復元出来なくなるまで小さく切り刻んで処分することにした。

部活を終えて家に帰ってから早速それを実行にうつし、終わった頃になって変色し始めた手首を見て、そう言えばと生徒手帳を制服から取り出した。

朝に切原さんからアドレスと電話番を教えるように強要されていたのだ。

手首の変色はその時の名残である。
まだ一年生とはいえテニス部。あの握力をなめてかかってはいけない。
あの時切原さんに目一杯握られていた手首が徐々に変色してきているのだ。それはもうくっきりと手の形になっている。

ようやく幸村さんにつけられた肩の手形が消えたと思ったのに、次は手首である。

どうにか誤魔化せないかと考えなら切原さんにメールを送った。

包帯を両手首に巻けば中二病全開の痛い子になってしまうので、包帯は真っ先に却下だ。

なにかいい方法はないかとうんうん悩んでいると、常にマナーモードの携帯がブルブル震えた。


切原さんからの返事がかえって来たのかと思いながら、机の引き出しからシュシュを取り出し手首に着けてみる。
なかなかいい具合で、これで長袖のシャツでも着れば痣はほとんど見えない。これからの季節には少し暑いかも知れないが、まあ、問題はないだろう。

するとまた携帯がブルブル震えた。
おや?と思って携帯を開けば、知らないアドレスからのメールで、チェーンメールかと思いつつ確認すれば、『仁王さんじゃよ』の文字と共に携帯の電話番号か書いてあった。

新しいタイプのチェーンメールかなと思いつつ、そのメールを無視することにして携帯を閉じようとすればまた携帯が震えた。

今度は『丸井だよぃ』の文字。
当然アドレスは知らないものである。

そのあともテニス部の名前を騙った知らないアドレスからのメールがきたが、悪質な悪戯メールと言うことにして全て無視を決め込む事にした。

おかしな悪戯メールが流行っているものである。

弱冠の嫌な予感を感じつつ、震えが止まらなくなってきた携帯電話の電源を切り、晩御飯のためにリビングへ向かった。












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