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これから海底に行く、と言う皆の言葉に潜水艦でもないこの船がどうやってそこに向かうのかと思っていると、船をテカテカさせていた透明な膜がみるみる膨らみ、船ごと私達を覆うと船は海に沈んだ。
透明な膜はシャボンティ諸島で見たシャボン玉と同じ素材から出来ているようで、試しに触ると同じようなさわり心地だったが、船を覆うこの膜ほうが少し丈夫そうだ。
どんどん海を沈んでいく船の甲板から見る景色はまるで水族館によくある海中トンネルのようで、ぐるりと海中の景色を堪能することが出来た。
まだ日の光が届く距離にいるため、空の色を反射した海水は明るい青色で、海水面の影響で船まで届いた日の光は形を変えてゆらゆらと揺れて甲板に模様を作っている。
数日振りに会った白ひげ海賊団の皆にもみくちゃにされ、逃げるようにして移動した人気のない場所で、その綺麗な光景にうっとりしつつ見上げていると、シャボンティ諸島らしき影が遠くに見えた。
ふとドフラミンゴさんは心配してないだろうかと思った。何かと親切にしてくれていたのにお礼もお別れも言っていない。仕事が終わったら私を迎えに行くと言っていたが、私は今白ひげさんの船の上で、おまけに海の中にいる。海賊の仕事とやらがいつ頃終わるかわからないが、ドフラミンゴさんの船を下りてからそう時間はたっていないはずなので、きっとまだ仕事をしているはずだ。
どうにかしてドフラミンゴさんに私の無事と探さなくていい旨を伝えられないものかと考えていると、大きな影が目の前を通りすぎだ。
悠々と私の前を泳ぐのは口が嘴で海蛇に毛が生えたみたいな姿をした海王類だった。
大きな目が私の姿をとらえる。
(おや、王ではありませんか。ご機嫌麗しゅうございます。私はアレクサンダー・ビルマ・スライス・デリカと申します。お見知りおきくださいませ)
…アレク…?デ?どれが名前でどれが名字?最早長すぎて半分も覚えていられなかった。うんうん唸りだした私をその海王類は笑うと(デリカとお呼びください)と言った。
(ところで、こんなところでいかがされたのですか?ルル殿がトーマス様の所にいないと心配しておりましたよ)
(何をと聞かれると困るのですが、ちょっと長めの散歩だと思ってください)
私がそう言うとそのデリカさんは何かおかしかったのかグルルと喉を震わせて笑った。
(では、ルル殿にはそのようにお伝えしておきますね)
(あ、そうだ。1つお願いしたい事があるんですけどいいですか?)
(喜んでお受けいたしましょう)
(ありがとうございます)
私は急いでポケットからお土産屋さんで買ったシャボン玉を作る機能付きのペンとレシートを出して、ドフラミンゴさんへのメッセージを書いた。
新聞や町の看板から、この世界の共通文字は英語だと最近気付いたので、学生のとき以来触れることの少なくなった英語で書いている。簡単な単語しか出てこないため、短い文章のメッセージになってしまうが仕方ないだろう。
船の上で書いたため字がガタガタしているが読めない事もないと判断し、それをペンのシャボン玉機能を使って手ごとシャボン玉で覆って濡れないようにした。
(島の木の枝に枝に私の臭いのするものが引っ掛かってると思うんですけど、それと一緒にこれをピンクのもふもふした人間に渡すように鳥さんにお願いしてもらっていいですか?)
船を覆うシャボン玉に手を押し付け手紙を差し出すと、デリカさんの嘴が手紙をそっとくわえた。
(承りました)
(じゃあ、すみませんがよろしくお……)
突然横からやって来た衝撃に息をのみ、言葉が途切れた。


「なにやってんだよい!死にてェのか!」
(王!お怪我はございませんか?)
同時に話しかけられてどちらに返事を返そうかと迷っていると、デリカさんが(我等の王にこのような乱暴な扱いをするとは、どうやらこの人間、死にたいようですね。食べてやりましょうか?)と物騒なことを言い出した。
慌てて私が首を振って駄目だと言うと今度はマルコ隊長さんが「どんだけ辛い目にあっても、命だけは粗末にするんじゃねェよい」と言って私の肩をつかんで辛そうな表情をしていた。なんだかよくわからないが、マルコ隊長さんの中で何かの話が進んでいるようだ。
(王がそう仰るのなら何もしませんが、もし何かひどい目に合わされたら私達を直ぐにお呼びくださいね)
(はい、わかりました)
こくりと頷けば、またマルコ隊長さんの中で話が進んでしまったようで、わかったならいいと頭を撫でられた。
マルコ隊長さんの言葉と行動の理由を考えていると、デリカさんが私に下げゆっくりと海上に上がって行った。
もしかして船を覆うこの膜は以外と弱くて、内側の刺激で簡単に割れてしまうのだろうか?
シャボンティ諸島のシャボン玉が結構丈夫だったので、てっきりこの船を覆う膜も同じくらい丈夫で割れにくいと思っていてのだがどうやら違ったらしい。ということはつまり、私はずいぶん危険なことをしていたということになる。知らなかったとは言え、もし、この船が沈んでしまっていたら、この船に乗っている皆さんの命を奪ってしまうところだったのだ。
「ごめんなさい」
その事実に顔を青くさせ言うと、マルコ隊長さんが私を抱き上げ、安心させるように笑顔を浮かべた。
「もう、絶対にあんなことするんじゃねぇぞ」
「はい」
私のその返事を聞くと、マルコ隊長さんは白ひげさんの所に行くと歩きだした。

てっきり白ひげさんの部屋へ向かうのかと思っていたら、ついた場所は相変わらずの甲板の上で、この船の頭の部分だった。
白ひげさんは椅子にどかりと座り、他のクルー達が回りに集まりニヤニヤしている。
何でニヤニヤしているのか聞こうとマルコ隊長さんの方を見れば、同じ様にニヤニヤしていた。
いったいこれから何が始まるのかと思っていると、マルコ隊長さんが私を地面に下ろし背中を押した。益々訳がわからず後ろを振り返れば、マルコ隊長さんが犬猫を追い払うときのように手を払って私を白ひげさんの所に行くように促してきた。
「……白ひげさん?」
「苗字お前ェ、ドンキホーテ・ドフラミンゴの所にいたらしいな」
一体なぜその事を知っているのかと思いつつ頷くと、白ひげさんは「そうか。今までよく我慢してたな」と言って頭を撫でてきた。
ドフラミンゴさんの所に行って何かを我慢させられた覚えは特になく、むしろ甘やかされ放題だった気がするが、これから白ひげさんがなんの話をするのか分からず黙ったままでいることにした。
「ドンキホーテ・ドフラミンゴといやぁ、最近良くない事を始めたとよく耳にする。そんな奴のところに苗字を置いとけねェし、俺たちは苗字をドフラミンゴの所に行かせたくねぇ。そこでだ。苗字お前ェ俺の娘になれ」
それは
yes or はい
の世界だった。
最早命令系のそれは、私の意見なんて一切必要としていない。

白ひげさんが私をドフラミンゴさんに渡したくないと言う程の"良くない事"とは一体なんだろうか。ただのちょっと変わった親切な人。位だったドフラミンゴさんの印象が怖くて危ない人に塗り替えられていくが、親切にされていたのも事実なので、その部分も信じたいと思う。
しかし、そんな怖い人の所に戻りたくないと思うのも本音なので、よろしくお願いしますと頭を下げれば、白ひげさんはグラララと嬉しそうに笑った。
「新しい家族が増えた。今夜は宴だ!!」
白ひげさんのその声と共に船が騒がしくなり、私は大勢からよろしくなと手を握られ、頭を撫でられ、抱えあげられ、頬擦りされ、もみくちゃにされた。








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