17


17


白ひげ海賊団の家族になってから間もなく、私は彼等をさん付けで呼ばなくなった。
なぜかと言えば、家族になったのならさん付けで呼ぶのはおかしいから呼び捨てでかまわないと言われていたが、わざわざ変えるのも面倒でそのままさん付けでみんなの事を呼んでいたら、どうやらさん付けが嫌だったらしく、私が名前を呼んでも無視をするという大人気ない手段に出た大人達に私の方が折れるしかなかったのだ。
ちなみに白ひげさんのことはパパと呼んでいる。元の世界で父親のことを"お父さん"と読んでいた私からしてみれば最早やけくそであるが、思いの外パパはうれしそうで、私が『パパ』と呼ぶ度に目尻が下がるのは気のせいではないだろう。
そんなひと悶着があってから数日。
上がって、下がって、上がって、下がって。
規則正しく上下するティーチのお腹の上にうつ伏せで寝そべり、トトロごっこを堪能していると、横を通りかかったキングデューが楽しいかと聞いてきた。
正直全く楽しくない。
魚人島を通りすぎ、仲良くなった乙姫様としらほし姫様がお土産にとくれた絵本は、最早手元になくてもその場面を思い出せるほど何度も読んで暗記してしまった。
それでも誰かに読んでもらうと、それぞれの解釈の違いで盛り上がる部分と勝手に加えられる脚色の部分が違って面白かったので、ティーチはどんなふうにするのかと少しわくわくしながら読んでもらっていたのだが、そのティーチが途中で寝てしまったのだ。
それにしても暇だ。
新世界は怖いとみんなから脅すように言われて不安で仕方なかったのだが、以外と他の海と変わらないな、と言うのが私の素直な感想である。
おまけに今、海は凪いでいて、掃除も洗濯もここのところの晴れ続きで毎日のようにやっていたために思ったよりも早く終わってしまった。そのためこれと言って特にすることもなく、ぼんやりとしていた私に本を読んでやろうと言った本人がこれである。
もう自分で読もうとティーチの顔の上に置かれた本を取ろうと腕をのばせば、ティーチが寝ているにも関わらず私の体をとんとんしてきて寝かせにかかってきた。なにこれ、超気持ちいい。もう私も寝ちゃおうかな、と思って瞼が重くなり始めたとき、私とティーチの上に影ができた。
何だと思って頭を動かして影の元をたどればマルコ隊長がいた。
「なんだ起きてたのかよい。じゃあ暇だし、稽古つけてやるよい」
睡魔に襲われかけてぼんやりとした頭ではマルコ隊長の言葉がうまく整理出来ず、手でこっちに来いと誘われ、素直にマルコ隊長に近付けば、途中で長い棒を投げ渡された。
上手く受けとれず甲板の上に落ちて転がったソレを拾い上げれば木刀だった。
ん?木刀?
何に使うんだろうと眠い目をごしごし擦っていると、マルコ隊長の「行くよい」の言葉と共に何かが飛んできた。
慌てて避ければ「おっ」とマルコ隊長の声。
え?何だ?
訳がわからなさすぎて眠気なんて吹き飛んだ。
飛んできたモノが当たったであろう場所を見れば、焼け焦げた跡。
何コレ。なんて確認する間もなく、目の前にはマルコ隊長がいて、今度は殴られそうになり、それも避ければ、次は蹴られそうになった。



なんだろ、こんなにダイナミックに怒られることしたかな?そんなことを考えるも、こんなことをされるほどマルコ隊長を怒らせるような事をした覚えはない。
覚えはないが、もしかしたらマルコ隊長の部屋の一角が、他のクルーが私にくれたぬいぐるみで埋め尽くされているのが嫌なのかも知れない。いや、でもそもそもその場所を提供してくれたのはマルコ隊長本人だ。
おまけに、他のクルーと同じようにハンモックで寝るのに慣れず、夜中に寝心地のいい場所を求めて船内を徘徊していると、何を勘違いしたか、これがあれば寂しくないだろ?と言って最初にぬいぐるみをくれたのもマルコ隊だ。
うんうん唸っている間にも攻撃は続けられ、気づいたらマルコ隊長の腕が燃えていた。
ヤバイヤバイ!水!水!
辺りをキョロキョロしていると、よそ見をするなと怒られた。
だってマルコ隊長燃えてるじゃないですか!早く消さなきゃ大怪我……に……。
マルコ隊長が青い鳥になった。
そうか、悪魔の実の能力者だったのか。
青い鳥になれるなんてマルコ隊長はみんなに幸せを運んでいるのね。なんて考えていると、マルコ隊長が人に戻りため息をはいた。
「避けるばっかりじゃあ、稽古になんねェだろい」
なんと、これは稽古だったのか。
「避けれるってことは俺の動きが見えててそれだけの反射神経もあるって事だ。安心しろい。俺なら怪我なんて直ぐ治るし、そもそも苗字の攻撃なんて食らうハズねェしよい」
そう言って笑ったマルコ隊長はまた私に攻撃を開始した。
攻撃しろなんて馬鹿を言ってもらっちゃ困る。
私は麒麟の悪魔の実を食べた能力者だ。
そもそも、麒麟とは仁の象徴とされる幻獣である。仁という言葉の意味について博識なトーマスさんが説明してくれたが、正直あまり覚えていないのでざっくりとした知識になるが、皆で仲良く思いやりをもって共生しましょうという実践倫理だったはずだ。
その象徴になる悪魔の実を食べた私の身体や精神は大きく影響を受けているようで、生き物の肉を食べれば身体は拒絶反応を起こし、小さな虫の死で泣きたい気持ちになる。そんな私に最早戦うという選択肢などない。
出来ればみんなとお手々繋いで仲良くしたい。
しかし、それを良しとしないのがこのワンピースという世界である。
どうしようかとおろおろしている間にもマルコ隊長が攻撃してきていて、それを避けながら戦わずにこの"稽古"が終わる方法を必死に探していると、遠くに釣りをしているクルー達の姿が目に入った。
瞬間、これだ!と閃き、急いで駆け出した。
「どうしたんだ?」と聞いてくるビスタ隊長に駆け寄り、手に持っていた木刀を手放し横にあったバケツを掴んでその重みと中を確認。
「よし」と小さく呟き、攻撃しようと向かって来ていたマルコ隊長に向けて、中のモノをかけるつもりでえいやと大きく降れば、手が滑ってバケツごと投げてしまっていた。
あ、なんて思った時にはマルコ隊長の頭ににバケツがぶつかり、ついでに中に入っていた海水をかぶりびしょびしょになってマルコ隊長は倒れてしまった。





- 17 -
*前次#
ページ:
うぇるかむ