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困った様子で駆けて来る苗字にどうしたのかと声をかけ、次いで後ろを見れば、不死鳥の姿になったマルコがいて、苗字が手に持っていた木刀を投げ捨てバケツに持ち変えたのを確認して、ああ、稽古をしているのかと納得した。
バケツの中の海水くらいだとほんの一瞬だろうが、それを悪魔の実の能力者にかければ僅かの間だけ動きを鈍らせることができるだろう。
なかなか考えたなと感心していたのも束の間、 大きく降ったバケツが苗字の手から飛んでいき、 それがマルコに当たって後ろに倒れたと同時に、中の海水もかぶってびしょびしょになしまった。それからマルコがなかなか起き上がらず、おかしいなと思い様子を伺えば、打ち所が悪かったらしく気絶していた。
偶然にしてもマルコを気絶させるなんてなかなかやるじゃないかと苗字の肩を叩けば、青い顔をして両手を口に当て今にも泣きそうな表情をしていた。
「どうした?ずいぶん顔色が悪いが気分でも優れないか?」
気絶しているマルコよりも心配になるほど顔を青くさせている苗字を落ち着かせようと背中をゆっくり撫でれば、こちらを振り向き「ビスタどうしよう……。私……私、こんなつもりなかったのに!」と言って、マルコに駆け寄った。
普段あまり口を開くことはないが、喋るときは敬語の苗字が敬語を忘れるほど気が動転している様子を見て、過去になにかあったのかもかもしれないと考えた。
苗字はマルコの横に膝をつくと心配そうに様子を伺い、胸に耳を当て心臓が動いているか確認していた。
流石にそれは大袈裟だと笑いたくなったが、それをしている本人は大真面目だ。
「そんなに心配しなくても、うちの1番隊隊長はそんなにヤワじゃないぜ」
「でも、けがさせちゃった」
そう言われてマルコの様子を伺うが、額にできた怪我とも呼べないような小さなたん瘤に僅かに血が滲んでいる程度で、特に心配するような怪我でもない。
これくらいなら海水をかけられていることを差し引いても、不死鳥の力ですぐに治るだろう。
大丈夫だと伝えようと口を開きかけた時、マルコが小さく呻いて瞼を開け、視界におれと苗字に入れると、バケツが当たった場所をさすりながら起き上がった 。
「……気を、失ってたみたいだな」
冷静にそう呟いて、情けないと言って笑みを浮かべるマルコに、全くだと言って笑顔で返そうとすれば、ぼすりと音がし、その音の元を確認すれば、苗字がマルコの腹に頭を乗せて丸くなっていた。
気絶していたマルコよりも苗字の方が心配になるほど顔を青くさせていたのを見ていただけに、心配のしすぎで気を失ってしまったのかと思って慌てていると「……生きてて、良かった」と、こちらの胸が締め付けられそうな声で呟き、その小さな身体を更に丸めた。
やはり過去に何かあったのだと思うには充分で、しかしそれを話そうとしない苗字をもどかしく思いながら丸められた背中に手を置いた。
「ほら、大丈夫だっただろ?」
「なんだ、心配してくれてたのか?そんなに心配しなくても大丈夫だよい。こんなもん不死鳥の力ですぐに治るし、跡も残らねェよい。ほら、もう治ってる」
むくりと身体を起こした苗字にマルコが「な?」と言ってその場所を見せるが、苗字の顔色は相変わらず悪く、その瞳はさっきたん瘤があった場所を見つめている。
「でも、痛かったでしょ?」
「あんなもん、全然痛くねぇよい」
「本当に?」
「本当だよい」
「……そっか」
苗字が肩の力を抜いた丁度その時、昼飯時を告げる鐘がなった。
「お、丁度昼食の時間だ。飯にしようぜ」
苗字は頭を振ると、少し眠ると言って食堂がある方とは別の方角へ歩いて行ってしまった。