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苗字ちゃんが姿を見せなくなって3日が経った。 最後に姿を見たと言うマルコとビスタに尋ねてみると、稽古をしてから様子がおかしかったらしく、少し眠ると言って船内に戻って行ったらしい。
よっぽど稽古が嫌だったのか、それとも何か嫌な事でもおもいだしたのか。とにかく知らない間に小舟が出たという話もないし、この3日間島にも降りていないため苗字ちゃんは船内のどこかにいるのだろうが姿が見えない。
今までどんな風に生活してきたのかもよくわからないが、両親を同時に亡くしドフラミンゴという海賊に慰みものにされていたと言う話だ。
普段の様子からそんな雰囲気は見られないが、何かしら心の傷を抱えているのは確かで、時々海をじっと覗きこんでいるときがある。まさかそのまま海に飛び込むんじゃないかと不安になったのは1度や2度じゃない。
広いモビーのどこかで迷子になっていたり、倒れてはいないかと心配で他のクルー達も探してはいるがどうしても見つからず、心配だけが増すなか、シャンクスが土産を片手にオヤジに会いに来た。
シャンクスがオヤジに会いに来るのはそう珍しい事でもなく、ちょくちょくオヤジに会いに来ては盃を酌み交わし、最近あったことやなんかを話してそのまま船から引き上げる場合もあれば、宴を催すこともある。
オヤジとシャンクスは古くからの顔見知りで、特に警戒する必要も無さそうだが、万が一という可能性もある。もしなにか起こったときのために白ひげ海賊団総出でオヤジとシャンクスの面会を見守っている。
「来たよい」
そうマルコに言われて気配のある方を見れば、シャンクスが覇気を撒き散らしながらゆっくりとオヤジに向かい歩いて来ていて、周りのクルー達が泡をふいて倒れたり、膝を折って飛びそうになる意識をなんとか持ちこたえさせていた。
「おい、シャンクス。その覇気しまえ。お前ェがばらまく覇気で息子達が気絶しちまってるじゃねぇか」
「悪いな。敵船に乗るんだ。これくらいはしとかねぇと命がいくつあっても足りねェから、ちょっとばかし威嚇させてもらっただけだ。自己防衛ってやつだ……。……ん?」
シャンクスの野郎が思わず疑問符を浮かべたのも無理はないだろう。
白いモノがオヤジとシャンクスの間を横切ったのだ。
"白いモノ"とは苗字ちゃんの事で、苗字ちゃんは真っ直ぐに俺の所に来ると、服の裾をつかんで見上げて来た。
「え!苗字ちゃん?!今までどこにいたんだよ!みんな心配してたんだからな。て言うか、今の大丈夫なの?」
3日間も姿が見えなかっただけに心配していたのだが、本人はけろりとした様子で姿を現し、シャンクスの覇気に当てられ気絶していてもおかしくない距離にいたのにも関わらず、そんなものを感じた様子は微塵もない。なんの事か分からないのか首をかしげた苗字ちゃんにとりあえず「腹ァ空いてねぇか?」と聞けば、苗字ちゃんは無言で頷き、声の返事の代わりに腹を鳴らした。
「ハハ、そうか。おい……って、あちゃー……」
隊長格である自分が今この場を離れる訳にもいかず、他のクルーに苗字ちゃんの飯を用意するように言いつけようとしたが、まだ隊長格以外のクルーはシャンクスの覇気に当てられて動けるような状態ではなかった。仕方ないがもう少し待ってもらおうと苗字ちゃんにもう少し待てるかと尋ねれば、苗字ちゃんの頷いた行動とは反対に、腹の虫がグウグウとなり続け、その音は静かな甲板に響き渡った。
「なんだそのガキは。随分と腹を空かせてるみたいだな」
そう言ったのは先程から興味深そうに苗字ちゃんを見ていたシャンクスで、「俺の覇気を受けても気を失わなかったのか?面白ェガキだな」と言ってこちらに近づいて来た。
「白ひげ海賊団の新しいクルーか?」
「ああ、そうだ」
苗字ちゃんを後ろに移動させそう答えれば、シャンクスは体を傾けて尚も苗字ちゃんを興味深そうに見つめ続けた。
「へぇそうか。とりあえず、そいつに早く飯を食わせてやった方が良さそうだな。なぁ白ひげ」
「グララララ!!そうだな。よし野郎共ッ!今夜は宴だ!苗字飯食ってその腹の虫を何とかするんだな」
オヤジのこの言葉に宴の準備が開始され、さっきからずっと腹を鳴らしている苗字ちゃんを食堂まで抱えて行ったのはいうまでもない。