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新しく白ひげの仲間になった苗字という少女は、近づいてくる海王類から守ろうとするマルコ達の背に庇われているかと思えば、突然動きだし、腕に抱えていた苺の入ったボウルを俺に押し付けると、マルコの背に飛び付きその小さな手でマルコの目を覆い目隠しをしてしまった。
「なっ!!苗字!危ねぇよい!この手ェはなせ!」
「苗字ちゃん!何してんだよ!危ないからマルコから手ェ離しな!」
「危なくないです。あの子達に攻撃の意思はありません」
いったい何をしているのかと思って見ていると、そう言い出した苗字の言葉に首をかしげた。
"あの子達"とは誰を指しているのか。少なくとも今この場には苗字に"あの子"と呼ばれるような年齢の子供はいない。
「"あの子達"?苗字、そりゃあ誰の事を言ってやがる」
白ひげも同じように疑問に思ったらしくそう問うが、苗字の耳には入っていなかったらしく「話をきいてきます」と言ってマルコから離れると、サッチやマルコの制止の声も聞かず掴もうとする手をするすると避けていくと船頭に移動して、先ほど一声吼えた海王類と向き合った。
あまりにも予想外のその行動に動きがとれず、少しでも動くと海王類に食べられるかもしれない距離に苗字が自ら移動してしまったため下手に動くこともままならず、苗字を見守っていると、苗字がくるりと振り向きこちらに戻ってくると、困った表情で「パパ」と白ひげを呼んだ。
「おう、なんだ」
「……昨日の夜の事なんですけど……」
何故か気まずそうな表情でそう切り出した苗字に、昨日の夜の事を思い出してみるが、そんな表情をするような出来事は何もなかったはずだ。
あるとすれば、苗字が歌いだしたあたりから船のまわりに海王類が集まって来たことくらいだが、特に何をするわけでもなく船の周りを泳いでいるだけで、あまりにも大人しいその様子に、もしかしたら苗字の歌を聞きに集まったのかもと思った程だ。
しかし、苗字が疲れて眠ってしまってからも、海王類達が船のまわりを離れることはなく、これはさすがにおかしいということで白ひげ自ら見張りを買って出たが、それだって眠ってしまった苗字は知らない筈だ。
「……えっと、昨日の夜のお礼がしたいそうなんです」
なんのことかわからず疑問符を浮かべ続ける俺達をよそに苗字はまたゆっくりと口をひらいた。
「昨日の夜の記憶が途中からないのでなんのことかわからないんですけど、私が歌った歌が素敵だったので、そのお礼をしたいそうです」
照れているのか、恥ずかしいのか"素敵"という単語を小さな声でもごもごと言った苗字は伺うように白ひげを見上げた。
「お礼?くれるってんなら有難ぇ事だが、誰かそれをくれるってんだ?」
「あ、それは……」
白ひげの当然の問いに苗字が答えかけたところで、海から泡が沸き起こり、それに続いてずいぶん昔に沈んだとみられる商船や海賊船が浮き上がってきた。
「海王類達です。船と一緒に沈んだ宝物が沢山あるはずだから、これでお礼にならないかって言ってます」
「苗字……お前ェ……」
「あ、それと、私にそれを伝えるために、私が起きるまで船のまわりで待機してたらしいんですけど、そのせいで警戒させて疲れさせてしまったみたいで申し訳ないって言ってます」
「海王類の言葉が分かるのかよい?」
驚いた表情のマルコの疑問に、特に何でもないという風にこくりと頷いた苗字は不思議そうな表情で白ひげを見上げた。
「パパ?」
白ひげの表情は険しく、ゆっくりとかがみこむと苗字の頭を撫でた。
「苗字、いいか。その事は誰にも言うんじゃねぇぞ」
素直に苗字が頷くと白ひげが俺の方に向き「赤髪、手前ェもだ。苗字が海王類と話せるなんて他の奴等に言うんじゃねぇぞ」と言った。
「ああ、言わねぇさ」
苗字が今までどんな目に合わされて、どういった経緯で白ひげの仲間になったのかはわからないが、白い髪の毛という珍しい毛色をしていることから、もしかしたらそのテの趣味趣向を持った奴等に狙われ追われている所を白ひげ海賊団に保護されたのかも知れない。
それに更に海王類と会話ができるなんてことが知られれば苗字を狙うのは奴隷商だけでは済まされない。その能力を欲して他の海賊達や海軍、もしかすると世界政府も動き出す可能性がある。
まだ小さい苗字をそんな危険に晒す趣味は俺にはない。
「なあ、俺の仲間にならないか?」
俺を見上げる苗字にもう一度そう言うと、苗字は首を左右に振って断った。
「ワハハハ。やっぱり振られちまったな!言ってみただけで冗談だ」
俺はそう言って苗字の頭をひと撫でし、押し付けられていたボウルを驚いた表情でこちらを見ていたサッチに渡し、海王類から苗字への"お礼"らしい船に飛び乗りその船にあるお宝をいただくことにした。