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赤髪のシャンクスが「口止め料だ」と言って海王類達からの"お礼"の品を自分の船に積み込み「またな!」と上機嫌に手を降って去って行く姿を見送り、次々と海面に現れる沈没船から残っていたお宝を船に運び込んでから数日、白ひげ海賊団の懐はたいへん潤っている。
サッチとラクヨウが次の島で良い女を買うと息巻いていた。
意味がわからないと思ってか、お尻の大きい女が好みだとか、胸は大きいよりも形がいいのが良いよなとか、堂々と私の目の前でそんな話をする二人に、ハルタが私の前でそんな話をするなと怒っていた。
次の島が近づいてきた辺りで、他のクルーの何人かが私を気遣わし気に見つめることが多くなり、いったいなんだろうかと首をかしげていると、それに気付いたらしいマルコ隊長が「次はワノ国だからだろうよい」と言うが、次の島がワノ国だとなぜ私がそんな風に見られなければならないのかわからず更に首をひねるしかない。
「ワノ国に着いたら、ワノ国出身の苗字が船に戻りたがらないじゃないかって思ってるんだよい」
そういえば、マルコ隊長達は私のことをワノ国出身だと思ったままだったのかと思いつつ「私の家族はこの船にいるのにですか?」と返せば、マルコ隊長は面食らった表情で私を見た。
「そうだな。家族ってのは皆一緒にいるもんだもんな。考えるだけ馬鹿馬鹿しいよな」
それにこくりと頷いて返事をすると、マルコ隊長は嬉しそうに笑い私の頭をくしゃりと撫でた。
「それをあいつ等にも言ってやれよい」
マルコ隊長がそう言って目線を送った方向には、魚釣りをしているクルー達の姿があった。
それに近づき服の裾を引っ張れば、太陽を背にして眩しい笑顔が私に向けられた。
「どうした?」
その声に反応して他のクルー達もこちらを振り向き、どうしたのかと不思議そうな表情をしながらも「苗字も一緒に釣りするか?」と誘ってきた。
私はそれに首を左右に振ってこたえると、一番私を気遣わし気に見ていたブレンハイムに「私の家はここです」とそう伝えてマルコ隊長のところに戻れば、ちゃんと言ったのかと言うマルコ隊長に頷いて返事をしてからしばらくして「苗字!!」と名前を呼ばれると共に背中から抱きつかれ、そうかそうかとブレンハイムから高い高いをされた。
「良かったじゃねぇかブレンハイム」
高い高いが本当に高くて慌てる私をよそに、そんな話をブレンハイムと始めたマルコ隊長も何だか嬉しそうだ。
「苗字、じゃあ、それ、やめろよい。俺達は家族なんだろい?」
マルコ隊長の言う"それ"が何を指しているかわからず首をかしげる私に、マルコ隊長が「敬語だよい」と続けた。
「家族に敬語なんてよそよそしいだろい。苗字が俺達を家族だって思ってんなら、そんな他人行儀なしゃべり方はやめちまえ」
特にこだわりがあって敬語を使っていたわけではないので構わないが、すっかりクセになってしまっているため、そんなすぐに直せるだろうかと考えていると「少しずつでいいぜ」とブレンハイムが言った。
「……わかり…わかった」
私がそう言うと、その調子だと言って二人は私の頭を撫でた。
ワノ国に着き、 買い出しをすると言うマルコ隊長に付いて私も船を下りた。私の髪は目立つからと言う理由でフード付のパーカーのフードを深めにかぶり髪の毛を隠しての下船だ。
マルコ隊長の左手は迷子と連れ去り防止のためしっかりと私の手と繋がれ、左側は買った商品が入っている袋が抱えられている。こんなに買ったのならもういいだろうと思うのだが、マルコ隊長は他にも買いたいものがあるらしく、目的のお店を探しながら歩いている。
私も歩きながらキョロキョロと辺りを見回していると、マルコ隊長がこけないように注意をうながしてきた。
わかった、と言われた通りにするが、やはり物珍しく、しばらくするとまた辺りをキョロキョロと見回す私にマルコ隊長が「苗字の育った所はこんなんじゃなかったのか?」と聞いてきた。
そう言われて自分の育った場所を思い浮かべてみた。昔、地主だった名残でやけに立派な家と庭と蔵が、田んぼや畑に囲まれた田舎の山奥にぽつんとある実家の風景を思い浮かべて、少なくともこんなに賑やかでも情緒ある風景もなかったと思ってこくりと頷けば「へえ、そうなのかい?俺達みたいな他所の人間はワノ国はここ以外うろつけねェことになってるから、ここ以外のワノ国は知らねぇんだよい。いつか苗字の育った場所にも行ってみてぇな」とマルコ隊長は言った。
私がトリップしたことは今後よっぽどのことがない限り言うつもりはないが、もし、私の世界にマルコ隊長達が来たら面白いだろうなと思ってそうだねと返事をした。
辺りを見回したりマルコ隊長の話や周りの会話から推測するに、"ワノ国"はどうやら日本の江戸時代のような文明の国らしく、鎖国をしているらしいこの国が唯一他の国との交易を許している場所がこの港町らしい。
瓦葺きの屋根の中に突然洋風の建物があったり、お店の軒先では月代のある男性が品物を選んでいたり、看板の文字は漢字だったり、着物を着ている人の人口の方が洋服を着ている人の人口より多かったりと、他の国や島ではなかなか見れない光景だ。
マルコ隊長はお店の軒先で気になる商品を見つけたらしく、店主と交渉を始めていた。
特にすることもなく暇だったので、置かれた荷物の横にあった椅子に腰かけてマルコ隊長とお店の人の様子を眺めていると、外の通りが騒がしくなり、いったいどうしたのかと声のする方の様子を伺うと、赤い紅を口にひいて髪の毛を女の髷の形に結い上げた、女性と見間違うかとおもうほど綺麗な男性が、慌てた様子でお店の前を通りすぎた。その後を男の人達が「おイザお待ち!」「あんた、何考えてンだい!」と言いながら通りすぎて行った。
しばらくすると、さっきのおイザと呼ばれていた人が、走り去ったのとは逆の方向から走ってきて、私と目が合うと「ちょっとかくまってくれ!」と言って私と荷物を盾にして隠れてしまった。
それから直ぐに男の人達が表れて、キョロキョロと辺りを見回しながら目の前を通りすぎて行った。
「行ったか?」
その人は私と荷物の間から顔を出して辺りを見回すと、ホッと息をはいて乱れた髪を直してこちらを向いた。
「悪いな。助かった」
「大丈夫です」
「なあ、お前白ひげ海賊団のクルーだろ?さっき船から降りていくところを見たぜ」
「……そうですか」
「ああ、お前まだ子供なのに白ひげ海賊団のクルーにいれてもらえるなんて凄いな。俺もさ、海賊になりたくて、六代目をどうにか説き伏せて海賊になることを許してもらったんだけどよ、ロクゾウ達がうるさくってよ。
あ、俺歌舞伎の女形やっててさ、この辺じゃあちょっとは有名なんだぜ。本当はイゾウって名前なんだけど、皆は俺のことおイザって呼ぶんだ」
「イゾウさん?」
「はははっ!"さん"なんてよせよ。イゾウでいいぜ。で、お前はなんて名前なんだ?」
その質問に答えようと口を開いたちょうどその時、買い物を終えたらしいマルコ隊長が私の名前を呼んだ。
「苗字、誰と話してるんだよい」
声に反応して振り向いた先には、マルコ隊長が少し警戒した様子でこちらの様子を伺っていて、その手にはマルコ隊長が履くにしてはずいぶん小さい気がするサンダルを指に引っ掻けていた。
「イゾウと話してた」
「イゾウ?誰だよい。それは」
「え…っと。歌舞伎の女形をやってて、有名な方で、おイザって呼ばれてて、海賊になるんだって」
さっき言われたことをそのままマルコ隊長に伝えると、意味がわからなかったのか「は?」と言ったマルコ隊長の眉間にシワがよった。
「あ、なあ、突然で悪いが、俺を白ひげ海賊団に入れてくれないか?」
「……は?」
マルコ隊長は状況が全く理解できないのか首をかしげて私の方に視線を寄越すが、私だってよくわからないので同じように首をかしげるしかない。
「おイザ、アンタ海賊になるのかい?」
そう言ったのは、さっきまでマルコ隊長と話していたお店の人で、こちらに近付きイゾウを見るとどこか寂しそうな表情になった。
「そりゃあ、門国屋も寂しくなるねぇ。おカナもいいけど、やっぱり私はおイザ、アンタの演技が好きだよぅ。こう、なんとも言えない色気があってサ、それが好きだったんだけどねぇ……。どうしても海賊になるってのかい?」
「ああ、俺の小さい頃からの夢だったからな。それにほら、白ひげ海賊団と言えば歌舞伎の演目にもなってるくらい有名で、船長のエドワード・ニューゲートと言えば、四皇の一人に数えられる人物で、海賊にしては珍しく仁義を通してて、仲間を大切にしてるんだぜ?俺、仲間を大切にする奴が好きだからな。海賊になるんだったら絶対に白ひげ海賊団に入るって決めてたんだ」
「だから、俺を白ひげ海賊団のクルーにしてくれよ」と続けたイゾウにマルコ隊長は「それは俺が決める事じゃなくてオヤジが決めることだよい」と言って、イゾウを船まで案内するとパパを呼びに私とイゾウを残して船内に入って行ってしまった。