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昔からの憧れだった。
最初に"海賊"を知ったのは父親に連れられて見に行った歌舞伎で、はじめて知る外の世界の出来事にたまらなく興奮した。
海を自由に駆け回り色んな島を冒険する海賊達は、あるときは困っている島の人達を助け、またあるときは海軍と熱い戦いを繰り広げ、敵だった筈の海軍すらも仲間に引き入れてしまう。仲間を大切にするその心意気と自由奔放さ、懐の深さ。憧れるなという方が無理なはなしだ。
それとは正反対の非道なことをする輩がいることも知ってはいるが、歌舞伎で演じられるのはいつだってそんな気持ちいい海賊達ばかりだ。
海賊になりたいと父親に言えば、それだけはやめろと説得された。でもやっぱり諦める事が出来なくて、海賊になりたいとなおも駄々をこねれば、歌舞伎が好きな父親が「歌舞伎で有名になれば海賊になることを認めてやる」と言った。
厳しい歌舞伎の世界で名を売るのは大変だし、一人前と認められるのだって時間がかかる。それだけの時間があればさすがに諦めもつくだろうというふうに父親は考えたようだが、毎日のように勉強だと理由をつけては兄弟子達の演舞を見れば、やはり海賊になりたいという思いは増すばかりで、よりいっそう練習にも気合いが入った。
そうしてようやく名も売れて、念願だった海賊になることを父親に認めさせたその年に白ひげの海賊団が港に来たと話が耳に入った。
最早親も同然の六代目は俺が海賊になることを渋っていたが、「昔からの夢だったもんなぁ」とどこか遠くを見つめて懐かしむ表情をすると、「まぁ、仕方ねぇわな」と言って海賊になることを許してくれた。
しかしそれを幼馴染みのロクゾウに言えば、ログがたまる5日間の間は白ひげの海賊団の誰にも会わないように縄で縛って部屋に監禁すると言ってきた。
たまったもんじゃないと、逃げ出した俺をロクゾウだけでなく、昔からの世話になっていたジジイのジョウキチや馴染みの客達を仲間に引き連れて追いかけ回してきた。
「お前!自分がどんなことをしようとしてるのかわかってんのか!海賊になるってことはなぁ、今まで血反吐を吐く思いしてきて磨いた芸や手前ェを贔屓にしてる客を捨てるっていってるようなもんだぞ!それに俺はお前以外の女形と踊りたくねぇ!」
走りながらそんなことを言うロクゾウに「うるせぇよ!」と台詞をはくと、ロクゾウの声が聞こえたらしく、長屋の玄関から顔を出した何人かの客達が追いかけてきた。
話の一部しか聞いていないはずなのに、俺が歌舞伎をやめることだけは理解したらしい奴さんたちが、 「おイザお待ち!」「あんた、何考えてンだい!」と言いながら必死の形相で追いかけてきた。
そろそろ体力の限界も近づいてきて、どうにか上手く撒けないかと道の脇に目を向けると、小間物屋の前の椅子にちょこんと座る子供の姿が目に入った。
あれはたしか白ひげの海賊団の船から降りてきていた子供だ。不死鳥と名高いマルコ隊長と手を繋ぎ一緒に船を下りたのを見たのだから間違いはない。一緒におりたはずのマルコ隊長の姿が見えなかったが、恐らく中の小間物屋で何か買い物でもしているんだろう。
そう推測した俺は1度通りすぎた通りに戻ると、相変わらずその小間物屋の前の椅子に大人しく座っていた子供と横に置かれた荷物の後ろに隠れ、追いかけてくるロクゾウ達をやり過ごし、姿が見えないことを確認してその子供に話しかけた。
「悪いな。助かった」
「大丈夫です」
特に気にも止めていないのかちらりと視線を寄越して短くそう返す子供に、改めて白ひげの海賊団のクルーか尋ねれば「……そうですか」とまたも短い返事が帰って来ただけだった。
「ああ、お前まだ子供なのに白ひげ海賊団のクルーにいれてもらえるなんて凄いな。俺もさ、海賊になりたくて、六代目をどうにか説き伏せて海賊になることを許してもらったんだけどよ、ロクゾウ達がうるさくってさ。
あ、俺歌舞伎の女形やっててこの辺じゃあちょっとは有名なんだぜ。本当はイゾウって名前なんだけど、皆は俺のことおイザって呼ぶんだ」
「イゾウさん?」
「はははっ!"さん"なんてよせよ。イゾウでいいぜ。で、お前はなんて名前なんだ?」
歌舞伎の演目になるくらい有名な海賊団で猛者揃いの海賊に子供がいると言う妙な組み合わせが気になりとりあえず名前だけでも知っておこうとそう尋ねれば「苗字、誰と話してるんだよい」と後ろから声がして、振り向けば、警戒した様子のマルコ隊長こちらに近づいてきていた。
「イゾウと話してた」
「イゾウ?誰だよい。それは」
「え…っと。歌舞伎の女形をやってて、有名な方で、おイザって呼ばれてて、海賊になるんだって」
俺がさっき言ったことを随分省いてそう言った苗字と言う子供にマルコ隊長は「は?」と言って困った表情を浮かべた。
「あ、なあ、突然で悪いが、俺を白ひげ海賊団に入れてくれないか?」
「……は?」
マルコ隊長は状況が理解できないらしく首をかしげて子供視線を寄越すが、子供もの方もよくわかっていないらしく同じように首をかしげたけだった。
「おイザ、アンタ海賊になるのかい?」
そう言ったのは、小間物屋の店主のジュウベエで、寂しそうな表情でこちらに近づいてきた。
「そりゃあ、門国屋も寂しくなるねぇ。おカナもいいけど、やっぱり私はおイザ、アンタの演技が好きだよぅ。こう、なんとも言えない色気があってサ、それが好きだったんだけどねぇ……。どうしても海賊になるってのかい?」
「ああ、俺の小さい頃からの夢だったからな。それにほら、白ひげ海賊団と言えば歌舞伎の演目にもなってるくらい有名で、船長のエドワード・ニューゲートと言えば、四皇の一人に数えられる人物で、海賊にしては珍しく仁義を通してて、仲間を大切にしてるんだぜ?俺、仲間を大切にする奴が好きだからさ。海賊になるんだったら絶対に白ひげ海賊団に入るって決めてたんだ。だから、俺を白ひげ海賊団のクルーにしてくれよ」
「それは俺が決める事じゃなくてオヤジが決めることだよい」
マルコ隊長はそう言って俺を船まで案内すると、甲板で待つように言いつけ白ひげを呼び行くと言って船内に入って行ってしまった。
ここがあの白ひげ海賊団の船かと1人興奮していると、着物の裾を引っ張られる感覚があって、そちらに視線を寄越せば苗字が「迎えが来てる」と言って港の方を指差していた。
甲板の端に近づき港の方を見れば、ロクゾウ達が海賊になんかなるな、帰ってこい!と叫んでいた。
「手前ェか?俺達の家族になりてぇって奴は」
その声に振り向けばそこには、白ひげ海賊団船長のエドワード・ニューゲートがこちらを見下ろしていた。
「パパ。ただいま」
「おう、お帰り。どうだったワノ国は」
「楽しかった」
白ひげはそう短く答える苗字の頭を撫でると、「そりゃ、良かった」と言ってその表情を緩めた。
「で、手前には引き留める家族がいるようだが?」
「白ひげ海賊団になるのは俺の昔からの夢だったんだ。折角のチャンスをここでみすみす逃すなんてことはしたくねぇ!長年一緒に踊ってきたロクゾウに今まで磨いてきた芸と、馴染みの客を捨てることになるといわれたが、それでも俺はあんたの仲間になりたいんだ。たのむ!俺を仲間に入れてくれ!」
俺のその言葉に白ひげはしばらく考える素振りを見せ、港で騒いでいるロクゾウ達に視線を送った。
「俺は構わねぇぜ。手前ェが家族になるのに反対する奴なんてこの船にはいねぇさ。だけどな、今いる家族を蔑ろにしちゃなんねぇ。せめてあそこにいる奴等を納得させてこい」
「分かった」
ちらりと視線をロクゾウたちの方に向ければ、まだ何か言っている様子が目に入った。これを納得させるには骨が折れそうだ。しかし、納得させなければ俺は白ひげ海賊団の仲間には入れてもらえないのなら、どうにかするしかない。俺は大きく行きを吸い込み気合いを入れた。

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