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ログがたまるまでワノ国にいると言うことなので、まだ今日を入れて5日はある。
そう思っていたが、どうすればロクゾウ達を納得させる事が出来るのか思い付かずに3日が過ぎた。
ちなみに縄で縛って部屋に監禁すると言っていたそのときのロクゾウのその目は本気だったため、本当に監禁されててしまえば納得も何もあったもんじゃないということで、この3日間は白ひげ海賊団の船で寝泊まりしている。
「……なぁ」
隣に並んで一緒に船の縁で港を眺めていた苗字に声をかけると、不思議そうにこちらを見つめる緑の目と目が合った。
日の光を吸い込んで煌めいているかのようなその瞳は、どこかの貴族や天竜人がコレクションの1つとして欲しがりそうだ。つくづく不思議な色合いをした目だと思いながらその目を見つめる。
「どうすれば、ロクゾウ達を納得させられると思う?納得させられなくても、俺が海賊になるってことに反対しないようになればいいんだけどなぁ……。俺を贔屓にしている客やロクゾウ達を捨てることになるって言われるとどうにもなぁ……」
「どうして捨てることになるの?」
「どうしてってそりゃ、だっておまえ、海賊になるってことは、今まで俺を贔屓にして歌舞伎を見に来てくれてた常連達にもう俺の演舞を見せられない訳だからな。客たちにしてみれば、俺が海賊になるってことはつまり捨てられるってのと同じ意味になるだろ?」
「……意味わかんない」
「ん?」
「だって、別にイゾウは歌舞伎をやめる訳じゃないんでしょう?」
「そりゃあな。海賊になれば今より踊る回数は減るかもしれないが、歌舞伎事態は好きだしな。またここに立ち寄る事があれば踊ろうと思ってる……け……ど……」
言いながら、ふと、別に歌舞伎をやめる気がない自分がいることに気付いた。
「そうだよな。別に俺は歌舞伎をやめる訳じゃないんだし……。うん。よしっ!ロクゾウ達を説得させる案が浮かんできた!苗字、ありがとな。助かった」
そう言って苗字の頭を撫でると、苗字は嬉しそうに目を細め「なら良かった」と言った。
「よし、こうなりゃ、善は急げだ!ちょっと行ってくる!」
船を降り、ロクゾウのところに行けば「ようやく海賊になるのを諦めたか!」と言って抱きついてくるものだから、その額をペチりと叩いてやった。
「馬鹿を言うな。海賊になるのを諦めるわけねぇだろ。だからロクゾウ達がなんと言おうが俺は海賊になる!でも、おれは歌舞伎もすきだ。だから歌舞伎も続ける」
そう言った俺にロクゾウはぽかんと呆けた表情を浮かべ「は?」と小さく呟いた。
「いいから、ほら、今日の舞台の準備をするぞ!」
立ち上がってそう言った俺にロクゾウは訳がわからないといった表情を浮かべつつも、素直に俺の言う通りに舞台に出る準備にとりかかった。
今日の演目は俺が初めて目にした『白ひげ海賊 団ガタオ島奇譚』という歌舞伎で、嵐に見舞われた白ひげ海賊団の船が猫ばかりいる島に漂着し、そこの猫たちは人の言葉を話すことが出来る珍しい種類の猫で、大きさは普通の猫の大きさのものから熊のような大きさの猫のまでと様々だ。中には尻尾が二又に分かれている猫もいて、その猫は人の姿になることも出来る。ガタオ島の猫たちは白ひげ海賊団を快く迎え入れ、宴を開いてくれた。話を聞けばログがたまるまでに1週間かかるという。酒も食事も美味く、おまけに人になって自分達をもてなしてくれる猫たちのなんと美しいことか。すっかり気分の良くなった白ひげ海賊団はログがたまるまでの間猫たちの世話になることにした。しかし3日目の晩1人のクルーの姿が見えなくなった。4日目には2人姿を消した。5日目には3人姿を消した。さすがになにかおかしいと思ったクルーが夜寝たふりをして様子を伺っていると、遠くから童歌のような歌が聞こえてきた。
月がでたでたさぁ急げ
西のお山にお月様
沈む前にさぁ急げ
腹を空かせた主様
今か今かとお待ちじゃ
さぁ選ぼう
月がでたでたさぁ急げ
美味そな人間こしらえて
主様の元へさぁ急げ
間抜けな人間起きぬ間に
食ってしまおう
さぁ急げ
そんな歌を歌いながら茂みから現れたのは、この島の猫たちで、自分達をもてなしてくれたはずの猫だった。
眠ったふりをしていたクルーは隣を通りすぎる猫に怯えつつも様子を伺い、猫たちの気配が茂みの向こう側に消えたのを確認してから素早く起き上がり、歌が聞こえる方へ跡をつけながら歩いていくと大きな洞穴の入り口に付いた。そっと中を伺えば、頭から生えた大きな猫の耳を動かし、5本の尻尾をゆらゆらと揺らしたその姿は熊よりもさらに大きい女の姿で、その口を赤く染め上げ、仲間のクルーを骨ごと食べていた。
跡をつけていたいたそのクルーはそのおぞましさに息をのみ、震える体を奮い立たせてなんとか自分達の船まで戻ってその事を隊長達と白ひげに知らせた。
それを聞いて怒った白ひげと隊長達がその大きな女のいる洞窟に殴り込み、見事その女を叩きのめしてしまった。
女は大きな猫の姿になり、さめざめと泣いて許しを請うたが白ひげは許さず、こんなに謝っているのに許さないとはなんと非道な男だろうか
、と怒った猫が襲いかかるが、それを返り討ちにすると、その猫が乗れるほどの船に縛り上げ海に流し海王類の餌にしてしまった。
という流れのはなしだ。
世界にはこんな場所もあるのかと驚くと同時に、白ひげの強さに憧れたその時の気持ちは今でも変わらない。自分でも色んな世界に行ってみたいと思うのと同じくらい、白ひげの強さを近くでみたいと思うようになった。
「なぁ、ロクゾウ」
舞台に出るための化粧をしているロクゾウに話しかければ、化粧に集中しているロクゾウから「ん?」と短い返事が返ってきた。
「俺が海賊になりたいって昔から言ってたのはのは知ってるだろ?」
「そうだな。お前昔からその話しをよくしてたもんなぁ」
「ああ。でも、歌舞伎も好きなんだ。小さい頃からやってるからもう自分の一部みたいなもんなんだ」
俺のその言葉に「だったら」と続けるロクゾウを黙らせて「でも、海賊になる夢はゆずれない。だから両方続ける」と言えば「はあ?」と訳がわからないという表情をしたロクゾウが鏡から顔をはなしてこちらを向いた。
「練習の回数は今までに比べたら減るだろうけど続けるし、日常生活で女形の格好をするのもやめない。それに、天下の白ひげ海賊団に入るんだ。政府に指名手配されて全国に手配書が出回るくらい有名になる予定だ。そうすれば自然と俺の活躍も耳に入るようになるだろ?俺を贔屓にしてくれてる客は、かたちは違うが俺の活躍してるところを見れるというわけだ」
だからそんなに反対する必要はないという意味を込めてロクゾウを見れば、心底呆れたという表情をしてこちらを見ていた。
「そんな無理矢理な理由を作るほど海賊になりたいのか?」
「ああ」
「今贔屓にしてるお客さんには、お前が海賊になって活躍してるところを楽しみにしていろと?」
「ああ、そうだ」
「だが、客ってェのは、すぐ飽きるもんだぜ?目新しくて面白いものを常に求めてる。お前がいくら頑張って活躍してようが、飽きられちまえばそれで終わりだ。そこんとこわかってんのか?」
「ああ、わかってる。飽きられたらそれは俺がそこまでの男だったってことだ」
ロクゾウは深くため息をはくと「分かった、もう反対しない」と言った。
「俺がどんなに反対しようが海賊になるつもりなんだろ?それに、六代目はいいって言ったんだろ?だったら俺が反対したって意味ねぇよ」
「ああ、そうだな。わかってるじゃねぇか流石俺の幼なじみだ!」
ロクゾウの肩を叩けば、またため息をはいて立ち上がった。
「ほら、お客さんがお待ちだ。行くぞ」
「おう!」
そう返事をすると、立ち上がったロクゾウに続き舞台袖に向かった。


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