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白ひげ海賊団の仲間になって1年、ふと、モビーに誰も使わないのに妙に小綺麗にされている部屋があることに気付いた。
モビーは大きな船だ。当然部屋の数もそれに合わせて多い。掃除だって毎日ではないにしろ、各隊に別れてローテーションでしているから、別にその部屋が綺麗にされていたっておかしくない。
ただ、隊長達の部屋は別だ。食堂や甲板、廊下等の共同スペースはみんなで掃除するが、隊長達の部屋の掃除はその部屋の持ち主がすることになっている。勿論掃除が面倒だったり、苦手な事を理由に自分の隊に所属しているクルーに頼む奴もいる。
隊長達とオヤジの部屋は他のクルーの寝場所とは別の場所に固まってあるため、特に用事がないのに隊長格以外のクルーが来ることは稀だ。
しかし、オヤジや隊長達の部屋の間にあるその部屋には、サッチやマルコ、ビスタやオヤジ達だけでなく、隊長格以外の古参のクルーも出入りするのを何度か目にしたことがある。
気になってその部屋を覗いて見れば、 部屋のインテリアがワノ国の物で揃えられていた。 ワノ国出身のイゾウが自分の部屋とは別に用意させた部屋かと思ったが、ぬいぐるみや絵本、クローゼットにはどう頑張ってもイゾウには入らなさそうな女物の洋服が置いてあって、どうもイゾウの部屋という感じではなかった。
ナース達の部屋かと思ってもみたが、ナース達がその部屋に出入りするのを見たことがなかったので、その可能性は直ぐに打ち消された。
ますます誰の部屋か分からなくて、いくら考えても正解は出そうにないという結論に達し、サッチにその部屋が誰の部屋か聞くことにした。
「なあ、サッチ。ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」
「おう、エース。なんだ?今日の昼飯のメニューが知りたいのか?」
調理場で昼食の用意をしていたサッチに声をかければ、一瞬ちらりとこちらを見たサッチは料理をする手を休めることなくそう言った。
「いや、それも気になるが今は違う。あのよ、オヤジの部屋の向かいにある誰も使わない部屋があるだろ?あの部屋って誰の部屋なんだ?」
「ん?ああ、苗字ちゃんの部屋だよ」
苗字?そんな名前のクルーはいただろうかと首をかしげる俺にサッチは笑いながら「今はいねぇよ」と言った。
"今は"と言うが、俺が白ひげ海賊団の仲間になってからそんな名前のクルーと会った覚えがない。そのため、その苗字というクルーは少なくとも1年はモビーにいないということになる。
いない人物の部屋をなぜわざわざ綺麗にしたり、調度品を整えたりしているのかわからず、ますます首をかしげるしかない。
「そうだよな。一見すると不思議だよなァ。拐った奴も、拐われた方法もなかなかないパターンだからなぁ……。普通なら死んでるかもしれないんだが苗字ちゃんだし、どうしても死んでるって気がしなくて。いつでも帰って来れるようにと思ってあの部屋だけは綺麗にしてたんだが、そろそろ見切りをつけた方が良いのかもな」
どういうことか気になり詳しく聞いてみれば、成長していれば俺と同じか少し下くらいの年齢の少女で、綺麗な白い髪の毛をしていたため、珍しがったどこぞの貴族の慰みものになっていたところを、10年前に白ひげ海賊団が保護をしたのだいう。聞けば両親はもう亡くなっているということだったので、そのまま家族として迎え入れて数ヶ月一緒に航海していたのだが、苗字を狙った海賊に船を襲われ、応戦している間に苗字は捕まってしまい、あと一歩で苗字を抱えた敵が自分の船に乗り込もうと言うとき、海から現れた海王類に苗字は食べられてしまったのだそうだ。
普通に考えれば海王類に食べられてしまった辺りで死んでしまったと思うものなのだろうが、海王類と会話ができる苗字なら、もしかしたらどこかで生きてるいるかもしれないと思ってしまうのだそうだ。
「苗字はここが自分の家だっていってたから、いつか、いつか、帰って来るんじゃないかとみんな思ってるんだ」
「まあ、別にどうこう言うつもりはないけどよ、生きて帰ってくるといいな」
俺のその言葉にサッチは「バーカ。苗字ちゃんは生きてるからちゃんとここに帰ってくるんだよ」と言って笑ってみせた。
そう言うものかと思いつつ食堂を出て苗字の部屋に入れば、相変わらず小綺麗にされた部屋は持ち主が帰ってくるのを待っているように感じられた。
「なにしてんのか知らねェけど、お前を待ってるやつがこの船にはいっぱいいるんだ。だから生きてンなら早く帰って来いよ」
きっとそいつには届いていないだろう俺の呟きは、外から聞こえる波の音にとけて消えていった。


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