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まず朝起きてから 白ひげ海賊団のみんなが元気か確認するのが私の日課だ。 最近はエースとその仲間が白ひげ海賊団の仲間に加わったようで、ただでさえ大所帯の白ひげ海賊団が更に大所帯になっている。
相変わらずトーマスさんの背中にいると季節感がめちゃくちゃなので、どれくらいこうして過ごしているのか検討もつかないが、トーマスさんの元に連れて帰らされたときに着ていた服が小さくなって入らなくなったので、多分それなりの年数はたっているはずだ。
服が入らなくなったため、またもや裸でいることがデフォルトになってしまった私は、周りの動物だらけの状況と悪魔の実の影響も相まって人間力が下がっていっている気がする。
とりあえず体を起こし、島の見回りをして異常がないことを確認して久々の練習に取りかかることにした。
側に控えていた風太さんの方を向けば、明らかに嫌そうな顔をされた。その表情をする理由は何度も愚痴られているため分かるが、もうちょっと表面に出さないようにしてほしい。
(どうしてもやらなければならならないのか?ようやく王の戒めから解放されたばかりだぞ)
(ええ、どうしてもやらなければならないんです。何度も言いますが、私の大切な人達を悲しませないためにも出来るだけ完成させておきたい能力なんです)
(その"大切な"と言うのは人間だろう?なぜ獣の王が人間など気にかける。人間など放っておけば良いのだ)
(人でも、家族だからですよ)
そう言って風太さんの体に触れて歌を歌いながら、悪魔の実の能力を発動させる源を探り当てる。その源に私の力を覆うように囲い、悪魔の実の能力が体を循環しないようにしてしまう。
本当は歌なんて歌わずに黙ってやりたい。恥ずかしいし、恥ずかしい。あえて2回言わせてもらった。でも、この方が何故か能力が安定して使いやすくなるのだから仕方ない。いつか黙ったままでも安定してこの能力が使えるようになることを祈るばかりだ。
この力は最初に風太さんがここに来たときに、どうやら能力のコントロールが上手くいってなかったらしく、感情が高ぶる度に、風を巻き起こして、木や動物達を傷つけるのに困って、何か良い方法はないかとトーマスさんに聞いてみたときに教えてくれた方法だ。
その時、週刊誌でエースの体を貫いていた人物の体が溶けていたのを思い出し、エースを傷つける人物が悪魔の実の能力者なのなら、これは使える。ということで日々この力を磨いて頑張っている。
ちなみにトーマスさんに教えてもらった応用編として、わたしの力を送り込むことで、発動させる相手の悪魔の実の能力を増幅させたり、私の体を通して増幅させたものを私が使えるようになったりもできるが、今はその能力を磨く時ではないため、時々しか練習していない。
風太さんの悪魔の実の能力の源をすっかり私の力で覆うと、歌を止めて体から手を離した。これで風太さんはただの白い鹿になってしまったはずだ。
(……どうですか?)
そう尋ねて風太さんの様子を伺えば、じっとした状態で動かず真剣な表情だ。風が巻き起こらない所をみると、どうやら上手くいったらしい。
これで風太さんは、少なく見積もっても4日は悪魔の実の能力が使えない。
(ああ、能力が使えないな。これでまたただの鹿になってしまった。まったくこれでは何のために王の側に控えているのか分からないではないか。せっかく王を守るための力なのに、その力を王自身に封じられてしまっては、オレの存在意義など無いも同然ではないか)
ぶつぶつと愚痴をこぼしだした風太さんから逃げるように、次の修行へと向かえば(まだ、終わってない)と言って風太さんが横に並んだ。逃亡失敗である。

次の目的場所に付き、目を両手で塞いで食事中の虎に挨拶をしながら近づいた。
エースが殺されたとき、たしか回りは戦っているよう描写があったはずだ。いざ、エースを助ける時に血の臭いに気分が悪くなって使いものにならないようでは話しにならないので、少しでも血の臭いに慣れさせるために始めた修行だが、正直この修行が一番辛い。最初のときなんて引きずり出された臓物を直視してしまい、吐いて気を失って寝込んだほどだ。
寝込んで体力を回復させてから、この修行に挑むため、なかなか目立った成果は上げられないが、気分が悪くなって膝をつくことも、気を失うこともなくなってきたので、それなりに効果は上がってきている。
(また来られたのですか?王にとってあまり気分の良いものではないでしょう)
(確かにそうですけど、でも、慣れておかないといけないので)
あたりに立ち込める血の臭いに気分が悪くなってきたので、そろそろ切り上げようと大きく息を吸い込んだら、思いっきり血の臭いのする空気を吸い込んでしまい、その場に倒れてしまった。
(王!)
遠くなる意識の向こうで私を心配する声をききながら、どうやら私にはまだこのステップは早いらしいと悟った。

ゆらゆらと遠くで風太さんの背中で運ばれている感覚を感じながら夢を見た。
辺りは闇に包まれ、雷の閃光が一瞬だけ辺りを明るく照らしていた。もうすぐモビーに雨が降り注ぐ。甲板の上にはサッチとティーチがいて、親友の二人は何か話し込んでいるようだった。
サッチが小さな宝箱から取り出したそれをティーチによく見えるように差し出すと、ティーチを纏う空気がガラリと変わり、ポケットから取り出して振り上げられたナイフが雷の光を反射してキラリと光った。
そのまま振り下ろされたナイフはサッチの体を切り裂き、驚いた表情のサッチが、降り始めた雨に濡れながらゆっくりと倒れていった。
サッチの手からこぼれ落ちたそれをティーチは拾い上げると、1度サッチに視線を寄越したあと満足そうに笑った。
そこでパチリと目が覚めた。
一体これはどういうことだろう。
なぜかこれは、今晩現実に起こる事だと確信できた。
でも、こんなことが起こるはずがないと否定したい気持ちが勝って、なかなかそれを受け入れる事が出来ない。
(どうした。震えている)
そう言って頭をすり寄せてきた風太さんの首に腕を回して抱き締めた。
仲間を家族と呼んで大切にするパパにならって、仲間を大切にする白ひげ海賊団の結束は硬い。仲間殺しなんてもってのほかだし、ティーチとサッチは親友だ。仲間を殺せばどうなるかなんて分かりきっているはずなのに、どうしてティーチはサッチにあんなことをしたのだろうか?
もしかしたらサッチがティーチに差し出したものが原因なのかも知れないが、残念ながらはっきりと見えなかったためにそれが何かがよく分からない。
ただ1つ言えることは、ティーチを止めてサッチを助けなくてはいけないと言うことだ。
エースを助けて皆が悲しまないようにしても、サッチが死んでしまっていては意味がない。それでは何のために皆の所に帰らずに、トーマスさんの指示を仰ぎながら修行にはげんでいたのか分からないではないか。
「うん……何とかしなくちゃだよね」
(は?)
(風太さん、どうやら大切な人の命の危機のようなので、行ってきます!トーマスさん!私の家族を助けに行ってきます!)
私が気を失っている間に日はもう随分と傾いてしまっている。鼻孔にまだ血の臭いがこびりついている気がして本調子ではないが、間に合わないかも、なんて言っていられない。間に合わせるのだ。
(いや、おい!)
(うん、行っておいで)
風太さんの制止の声と、トーマスさんのお見送りの言葉を背に、私は麒麟の姿になると、急いで白ひげ海賊団の気配がする場所に向けて駆けた。



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