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一体何が起こっているのか頭の整理が追い付かない。
雷を連れて降りだした雨はいよいよ勢いを増していき、体を濡らす雨粒が体温を奪っていく。
ピカリと光った雷の光で照らされたのは、目の前で俺を見下ろして笑うティーチと俺の腕の中でぐったりとして動かない白い髪の女の子だった。倒れた衝撃で頭を打ってしまい、視界が揺れて意識が飛びそうになるのを何とかこらえる。
「……苗字…ちゃん?」
まさか、まさかと思いつつ震える声でそう呼びかければ、閉じられていた瞼がうっすらと開かれ、俺の姿を確認すると眉間によったシワがわずかになくなりゆっくりと微笑んだ。
「……サッチ、怪我……、ない?」
途切れ途切れに紡がれるその言葉に「ああ」と返事をすれば、苗字が「そ、良かった」と言って痛みに耐えるかのように唇を噛み締めた。
船を襲ってきた敵船を返り討ちにし、敵船が積んでいた宝を山分けにした中にあった小さな宝箱。厳重に錠までしてあったそれをこじ開けてみれば、現れたのは悪魔の実で、悪魔の実特有の渦を巻いた模様のあるその果物は、パイナップルのような形をしていた。
「これでサッチさんも能力者の仲間入りだな。これ食ってますます強くなっちまったらどうするよ」
なんて冗談混じりに話していれば「おー!悪魔の実じゃねぇか!やっぱり売らずに食うのか?」とひょっこり姿を表したエースが聞いてきた。
売れば1億ベリーだが、この悪魔の実を食べて強くなれるならなっておきたい。しかし、食べるなら食べるで、その前になんの実かくらいは知っておきたい。 食べてから戦闘の役に立たない悪魔の実でした。じゃあ食べた意味がない。
「売るかどうするかはこれがなんの実かわかってからだな」
悪魔の実に詳しいティーチにでも聞けば教えてくれるだろうかと思いながら、そうエースにこたえれば、両手に今日の分け前を抱えたティーチが近付いてきた。
「よう、悪魔の実を手に入れたんだって?」
「ああ、そうなんだよ」
そう言ってティーチに手に入れた悪魔の実を見せて「なんの実かわかるか?」と問えば、その目がゆっくりと細められた。
「……そうだな。ちょっと調べてみねェと、なんの実かわかんねぇな。夜には調べ終わるだろうから、また夜に甲板に来てくれるか」
悪魔の実の図鑑に載っている悪魔の実は全て覚えている、と言っていたティーチが調べないとわからない悪魔の実と言うことは、図鑑にも載っていないような悪魔の実なんだろうか、と不思議に思いつつ「ああ、分かった。夜に甲板だな」と返事をした。
夜になり、言われた通り甲板に出向けば、ティーチはもう甲板で待っていて、遠くで聞こえる雷の音に今夜は雨かと思いつつ話しかけた。
「よう、ティーチ。待ったか?」
「ああ、ずいぶん待ったさ」
「わりぃ、わりぃ。で?これがなんの実か分かったか?」
そう言って悪魔の実が入った宝箱を叩きながら問えば、ティーチは「そうだな。多分これだろうと言う目星は付いてるんだが、見たのは一瞬だし、ちょっと自信がねぇから、もう一度見せてくれるか?」と言った。
「ああ、かまわないぜ」
そう言って悪魔の実を宝箱から取り出してティーチに見えるように差し出せば「やっぱりだ。間違いねェ……ッ!」と一人言のように呟いたティーチはポケットから何かを取りだし振り上げた。
雷の光を反射して光ったそれがナイフだと認識したときにはもう遅く、反応が遅れて避けるのも間に合わないと思って次にくる衝撃に体を強ばらせた時、何かが体にぶつかる感覚がして思わず後ろに倒れた。
頭を強く打ち付けたせいか、視界が揺れるなか、体を起こしてぶつかってきたものを確認すれば、それは白い髪の女の子だった。
「よう、苗字!久しぶりじゃねぇか!」
混乱する俺をよそにティーチが苗字ちゃんに声をかける。
「ティーチ、パパに怒られるよ」
苗字ちゃんのその言葉にティーチはパチリと瞬きをすると「ゼハハハハ!そうだな。だが、怒られるだけじゃぁ済まなさそうだ」と言って俺の手から転がり落ちた悪魔の実を拾い上げた。
「だが、目的の物は手に入れた。白ひげが怒ると言うなら逃げるだけさ。そうだ、苗字。手前ェも着いて来い。なんの能力かはわからねぇが、苗字のその力は役に立ちそうだ」
「ティーチ、手前ェ……苗字ちゃんに何をさせるつもりだ……ッ!オヤジを、家族を裏切るつもりか……」
「そうだ。全ては俺の野望を叶えるためだ。この悪魔の実を食べることによって、俺は野望を叶える為の1歩を踏み出すのよ……ッ!」
ティーチは苗字ちゃんを持ち上げると、背中を流れる血を見て「こりゃ、ひでぇな」と言って腰に巻いていた布を破り、包帯代わりに体に巻き付けた。
「苗字ちゃんに……触るんじゃねぇ!」
ようやく治まってきた目眩にバランスを奪われながらも、なんとか立ち上がりそう言えば、「おっと、もう起き上がれるのか。この雨と雷じゃあ叫んでも聞こえねぇだろうが、助けを呼びに行かれると面倒だ」そう言うと、ティーチは苗字ちゃんを抱えていない方の腕を大きく振り上げた。
「まあ、せっかく助かった命だ。2度も奪うようなことはしねぇさ」
相変わらず揺れる視界では、立っているのが精一杯で満足に動くこともできず、勢いよく降り下ろされるティーチの拳を頭にもろに食らった。
吹き飛ばされる体は甲板に叩きつけられ、その衝撃で俺は今度こそ気を失った。