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白ひげのところを出て数ヶ月。
苗字の怪我は相変わらず良くならない。
どうやら傷口から細菌が入ったらしく、体温は高い状態が続き、傷口はじくじくと膿んできている。意識は朦朧としていて、たまに開かれる瞼から覗く瞳には以前のような生気はなく、どんどん弱っていっていることだけは手に取るように分かった。
「おい、ドクQ。どうにかならねェのか?」
「どうにかって言われてもなぁ……。こんな丸太船じゃあ、休ませる場所もないし、ろくな医療道具もないんじゃあ、さすがにお手上げだ……ゲフ」
「お手上げってお前。仮にも船医だろうが」
「せめて、どこかの島に下ろしてそこで安静にさせて治療をうけさせなけりゃ、このままじゃあこいつ死んじまうぜ…。まあ、……ゴホ…その時は、それがこいつの天に定められた運命ってことになるな」
ニヤリと笑ってそう言うドクQに思わずげんこつを食らわせてやれば、虚弱体質のドクQはあっさりと倒れ「船長……痛い」と呟いて気を失ってしまった。
「全く……縁起でもねぇこと言うんじゃねぇよ」
相変わらず、意識を取り戻す様子のない苗字をみつめ、視線を遠くにやれば、遠くに次に上陸予定の島が見えてきていた。次に上陸予定のジャヤという島ではラフィットと落ち合う予定だ。
自分の野望を果たすのに役立つかも知れないと、白ひげの船に戻って来たところを拐ってきたが、これでは役立つどころか足手まといだ。
早く手放してしまえばいいのだが、どうしてもその気になれないのは、どうやら情が移ってしまっているらしい。
それは俺だけでなく、オーガは苗字が雨に濡れないようにマントを被せたり、パージェスは苗字の傷に響かないようになるべく揺れないように船を漕いだりと、それぞれが苗字の事を気にかけているようだった。
「全く…。苗字。手前ェは人の心に入り込むのが上手ェ奴だなァ」
俺は独り言をこぼすと、ジャヤに苗字を任せられる医者がいるか調べることにした。

「おい、いいか?必ずこいつの怪我を治すんだぞ」
「ああ、分かった。できるだけのことはやるが、正直ここまで怪我が酷いと、綺麗に治すのも難しいし、まず、助かるかどうかも分からない」
そんな気弱な事を言う島の医者にもう一度釘を刺すと病院を出て、改めて島を見回した。
建物が傷つけられた痕がそのままで残っていたり、ゴミがそこかしこに転がっていたり、町にはごろつきがいたりと、決して治安が良いとは言えない。
正直、治安の悪いこの島に苗字を置いて行くのは不安だが、これ以上怪我が悪化してしまうのは避けたいし、これ以上つれて回っていては命に関わると言われてしまってはどうしようもない。
取り合えず苗字が目覚めた時の土産にチェリーパイでも買ってやろうと決めて、町の酒場まで行くことにした。


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