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目覚めたら全く見覚えのない景色で、体を起こそうと上半身に力を入れれば、背中に痛みが走り思わず動きが止まった。
痛みが治まるのをどうにかやり過ごし、起き上がることを諦め仰向けになれば、傷口が圧迫されて僅かに痛みを感じるものの、なれてしまえばどうということもなさそうだ。
ぐるりと頭と目を動かして辺りを見回せば、天蓋付きの大きなベッドに、自分が寝かせられているのだと、把握することができた。
なれれば大丈夫かと思っていたが、傷が体に圧迫されているせいか段々と痛みを増してきたため、傷に響かないようにゆっくりと向きを変えながら、どうしてこんな怪我を負っているのか思い出してみれば、そうだ、サッチを助けるために代わりにティーチの攻撃を受けたのだったと思い出した。
サッチが雨に濡れて自慢の髪型が崩れるのも気にせず、泣きそうな顔で私を見ていたのを思いだし、どうにかサッチを助けられたのだろうかと気配を探ろうと集中するが、ズキズキと脈打つ痛みのせいで上手く探ることが出来なかった。
そもそも、サッチを助けてからどれくらいの時間がたっているのだろう?
波の音も聞こえなければ、船が揺れる感覚もないため、ここが船の中ではないということだけはわかるが、それ以外はさっぱり分からない。
意識を失っている間に時々誰かが私を見ていたのはぼんやりと覚えているが、それすら誰だったのかもよく分からない始末だ。
どうしたものかとベッドで横になり考えていると、部屋の扉が開かれる音がした。
扉の方に背を向けて横になっていたため、誰が入ってきたのか分からず、確かめようとまたゆっくりと体を動かせば、水色の髪の女の子がベッドに上半身を乗り出してこちらを見つめていた。
「あら、ようやく目覚めたのね」
女の子は私と目が合うと、そう言って部屋から出ていってしまった。
別に悪ことを考えているような雰囲気はなかったので警戒をする必要は無さそうだが、あんな小さな子供がいると言うことは、どこかの夫婦の家にでもご厄介になっているのだろうか?
この部屋の調度品や私が寝かされているベッドもそうだが、結構値段がはりそうなものばかりなので、もしかしたらどこかの貴族に拾われたのかも知れない。
首輪はされていないので逃げようと思えば逃げられる状態ではあるが、背中の傷が痛くてろくに動くことも出来ないので、逃げることは出来そうにない。そんなことを開け放たれた扉を見つめて考えていると、2つの足音がこの部屋に向かって近づいてくるのが聞こえた。
開け放たれた扉から姿を表したのは、先程の水色の髪の毛の女の子と、金色の髪の毛を短く切り揃えた背の高い男性だった。
「よう、シロ。ずいぶんとご無沙汰だったな」
あ、ドフラミンゴさんだ。
あのときに着ていたピンクのもふもふのコートを身に付けていなかったので、一瞬誰かわからなかったが、私の事をシロと呼ぶこの声はドフラミンゴさんで間違いないはずだ。
寝たままでは失礼かと思い、もう一度体を起こそうと腕に力を入れてみれば、やはり背中に痛みが走った。その痛みで腕から力が抜けてしまい、そのまま、またベッドに沈みこんでしまった。
「……おいおい、あんまり無理するんじゃねぇよ。まだ背中の傷は塞がってねぇんだ」
ドフラミンゴさんはそう言うと、私を助け起こし、ベッドの横のサイドテーブルにあった水差しでコップに水を注ぐと、「飲めるか?」と言って私に水を飲ませてくれた。
「……ありがとうございます」
かすれた声しか出なかったが、それでもちゃんと伝わったらしく、ドフラミンゴさんに気にするなと言われた。
「それで?目覚めて早々で悪いがその怪我は誰にやられた?俺のシロに怪我をさせたんだ。そいつには相応の報いはうけてもらわねェとなァ……」
その言葉に、私はドフラミンゴさんを見上げてぱちりと瞬きをした。
誰が誰のものだって?
私はいつからドフラミンゴさんのものになったのだろうか?少なくとも私にはそうなった記憶はない。
そして、背中のこの怪我を負わせたのがティーチです。なんて正直に言ったら、ティーチがドフラミンゴさんにボコボコにされてしまう気がする。
「…………事故、です……」
なんと言おうかしばらく考えた結果そう答えることにした。サッチを助けるついでに不可抗力で負ったようなものなので、事故と言う言葉に嘘はないだろう。
「……事故……ねぇ?」
「はい、事故です。ところでここは?」
サッチを助けに行ったのは、確かに白ひげ海賊団の舟のはずで、そこで怪我を負ってしまったのなら白ひげ海賊団の船にいるはずなのだが、どうもここはそうではなさそうだ。
「ドレスローザにある王宮の一室だ」
「ドレスローザ?」
原作にそんな名前の島はあっただろうかと、聞いたことのない地名に首をかしげる私にドフラミンゴさんは「ああ、俺の王国だ。安心しろ。お前を傷つける奴はここにはいねぇよ」と言って私をベッドに寝かせた。
"俺の王国"?
つまり、それはドフラミンゴさんが国王と言うことだろうか?でもたしか私の記憶が正しければ、ドフラミンゴさんは海賊をしていた気がする。いつの間に国王になったのか。
最早疑問符しか頭に浮かばない私をよそに、ドフラミンゴさんは私の世話を水色の髪の毛の女の子にまかせて部屋を出ていった。
「運が良かったわね。若様に気に入られて」
笑顔でそう言った少女に、何が?とも聞くことができず、私は曖昧な返事をするしかなかった。