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シロを王宮に連れて帰ってから数週間たった。
背中の怪我はもうすっかり治っているらしく、歩き方はまだ覚束ないが、元気そうだったので、今日はヴァイオレットを付き添いにつかせて リハビリついでに街へ出掛けさせて、日用品の買い出しに行かせている。
今朝配られた号外の新聞を見て、もしシロがこの記事を目にしたらどうするだろうと考えながら、もう一度その新聞に目を通した。
白ひげ海賊団の火拳のエースの公開処刑が決定されたというその記事には、手配書で出回っているエースの顔写真と、"黒ひげ"という通り名の海賊の顔写真が印刷されている。
火拳のエースを政府に差し出し、代わりに七武海入りを果たしたという"黒ひげ"は、元は白ひげ海賊団のクルーらしく、多少なりともシロと面識があるだろう。
大きな戦争になることは目に見えていて、政府から七武海へ強制招集がかかっている。
この戦争で確実に世界は大きなうねりをもって変わるだろう。
そんなことを考えていると、電伝虫が鳴りだし、受話器を持ち上げれば相手は、シャボンティ諸島にある、ヒューマンショップの経営を任せているディスコからで、人魚をオークションにかけようとしたら、仲間だったらしい麦ワラの海賊団が暴れて、人魚を競り落とした天竜人を殴り、店は大乱闘になっているので助けて欲しいということだった。
正直、今は"スマイル"の製造販売に力を入れているため、ヒューマンショップがどうなろうが知ったことではないし、そもそも最早ヒューマンショップは時代遅れだ。それでも続けていたのは、単にヒューマンショップをやっていれば、シロが見つかったり、捕らえられた時にいつでも保護できるようにするためだ。
しかし、もうシロは見つかった。わざわざヒューマンショップをやっている理由もなくなったというわけだ。
そんな面倒事を起こされては後々が面倒なため、ディスコにやると言えば、見捨てるのかと泣きつかれた。
「黙れ……面倒臭ェ野郎だ。てめェが…自分の不幸を俺のせいにしている間にも、"新時代"は近づいて来ているのだよ。ディスコ君。
俺は今、……いや、俺達は今……海軍の"強制招集"を受けている。お前は……この未来をどう読む?"白ひげ海賊団"vs"王下七武海"」
そこまで言うと、受話器の向こうにいるディスコの表情が驚いたものになったのだろう。電伝虫の表情が変わり、目が大きく見開かれた。
「フッフッフッフッ!!だから俺はそんなものに構っている暇はねェんだよ。その店の惨状はてめェでどうにかしろ」
そう言って受話器を元に戻し、手に持っていたグラスを傾け酒を喉に流し込んだ。
コツリと背後から音がして、ヒールで歩く足音とは違うその音に、なんだと思い振り向けば、白い鹿と梟を連れたシロが立っていた。
「よう、買い物は出来たか?それと、横のはなんだ?」
「……あ、はい。あの、この子達は私の友達です。……それでその……」
シロは気まずそうにうつ向くと、手に持っていた紙をくしゃりと握りしめた。
「さっき言っていたことは本当ですか?」
「……さっき?」
どの辺りからシロが俺の話を聞いていたか分からず聞き返せば、伏せられていた瞼がゆっくりと上げられ、その緑の瞳が俺を捕らえた。
その瞳はゆらゆらと揺れていて、どこか悲しそうだ。
「はい、パパ達と七武海が戦うって……。七武海って言うことは、ドフラミンゴさんも戦うって事ですよね?」
"パパ"とはおそらく白ひげの事だろうと見当をつけて、そうだと返事をすれば、「どうにかして中止にすることは出来ませんか?」と無茶な事を言い出した。
「フッフッフッ!!そりゃぁ出来ねェ相談だなァ。なにせ白ひげ海賊団のポートガス・D・エースが処刑されるんだ。
仲間を家族と呼んで、絆を大切にしてる海賊団だ。その家族が処刑されとあっちゃァ、白ひげも黙っちゃいねェだろうよ。
そうすると、政府と白ひげ海賊の戦いは避けては通れねェ。俺達王下七武海まで呼びつけるくらいだ。何がなんでも政府はポートガス・D・エースを処刑するだろうなァ」
シロは握りしめていた紙を広げ、その紙に目を落とした。よく見れば、その紙は今、俺が持っている物と同じ新聞で、それを見つめるシロの表情はどこか苦しそうだ。
しばらくその様子を見つめていると、シロはなにか意を決したのか、大きく息を吸い込み、顔を上げた。
俺を捕らえ見つめる瞳には、何かかたい決意が宿っていた。