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怪我も治って元気そうだから、買い物に行っておいでとドフラミンゴさんに言われ、付き添いのヴァイオレットさんに連れられ街中を歩き、買い物もほとんど済ませ、そろそろ王宮に帰ろうかと話していると、小さな売店で売られている新聞がたまたま目についた。
その新聞には、私が最期に見た時よりも成長していて、私の記憶通りの大人のエース写真と、下の方にティーチの写真が載っていた。
なんだか二人とも悪い顔をしている。
残念ながら英語のため、所々分からない単語があって、なんと書いてあるのか分からないが、胸が嫌な予感でざわりと波たつ感覚がした。
売店のおじさんにお金を渡し新聞を受け取り、なんと書いてあるのかヴァイオレットさんに読んでもらおうと振り向けば、道の向こう側から、男の人が慌てた様子でこちらに走って来ていた。
どうしたのだろうと思って見ていると、その男の人はヴァイオレットさんに何事かを耳打ちをして、私にちらりと視線を寄越した。
「この人の面倒は俺が見てるから、姐さんはなんとかあの場を治めてくれねェか?俺達じゃあ手も足も出ねぇんだ」
ヴァイオレットさんはこくりと頷き「分かったわ」と言うと、近くを歩いていたおもちゃの馬の背に跨がった。
「シロさんごめんなさい。急用が出来てしまったから行かなくちゃならないの」
ヴァイオレットさんの言葉に、別に構わないと、頭を横にふれば、遠くの方が騒がしくなり、同時に蹄の音が聞こえてきた。
おや?と思ってそちらに視線を移動させれば、風太さんがこちらに向かって走って来ていて、横には梟が一緒に飛んでいる。
見覚えのない隣の梟に、風太さんの新しい友達かな?と首をかしげていると、「きっ…来た!」と男の人が狼狽えた様子で呟いた。
「姐さん!お願いします!」
「任せて!」
ヴァイオレットさんは男の人の言葉に頷くと、風太さん達に攻撃を仕掛けるが、自然系の悪魔の実を食べた風太さんにその攻撃は当たらずすり抜け、隣の梟は事も無げにその攻撃を避けてしまった。
(王!無事か!)
そう言って風太さんは私の前で止まると、鼻の頭を私に押し付けたり、周りをぐるぐる回って私の体をチェックし始めた。
梟は風太さんの角に止まり、器用にバランスを取りながら、私をじっと見つめている。え、梟ってそんなに首が回るの?と聞きたくなるくらい梟は私から目を離さない。
(こんにちは)
私のボディーチェックに忙しそうな風太さんはおいといて、さっきからずっと私から目を離そうとしない梟に挨拶すれば、その目がスッと細められ、ペコリとお辞儀をした。
(お初にお目にかかります獣の王よ。私オオフクロウのカイロスと申します)
(ご丁寧にどうも。私は苗字です)
そう言って頭を下げれば、何が可笑しかったのかカイロスさんは声をたてて笑った。
「……シロさん?」
その声にはっと我に返り、声のした方に目を向ければ、戸惑った様子のヴァイオレットさんと目が合った。
(王を追いかけている途中、他の動物が王は怪我をしているようだといっていたが、大丈夫そうだな)
そう言って頭を擦り寄せてきた風太さんの頭を撫でながら、どうしようかと考えていると、「その……。鹿と梟はあなたの仲間か何かかしら?」とヴァイオレットさんが尋ねてきた。
「友達です」
簡潔にそう答えれば、男の人が「友達だって言うなら、あいつらをもとに戻すようにそいつらに言ってくれよ!」と訴えてきた。
いったいなんの事か分からず首をかしげる私に、カイロスさんが(ホーホホーゥ…。我々を攻撃してきた馬鹿な人間共は、皆この私の能力で幼子にしてやりましたわ!今はもう我等に危害を加えるような輩はおりませんので、ご安心召されよ)と得意気に胸を張って言った。
どうやらこの梟も悪魔の実の能力者らしく、聞けば、生き物を子供に出来る能力を持っているらしい。
(えっと……。すみませんが子供にした人たちを戻してくれますか?)
明らかにサイズの合わない服を引きずり、泣きながら怒った様子でこちらに走ってくる子供達を視界に入れながらそう言えば、カイロスさんは不思議そうに首をかしげた。
(なぜ?あやつ等は我等の敵であろう?)
(いいえ、違います。彼等は私達の友達です。だから元に戻してあげてください)
(……苗字殿がそこまで言うのなら仕方ない)
カイロスさんは少し納得のいかない様子だったが、それでも私の願いを聞き入れてくれたらしく、羽を大きく広げると音もなく飛び立ち、子供達の間を飛んでまわると、また風太さんの角に戻って来た。
すると、子供達は徐々に成長していき、大人の姿になった。
大人になった人達は、自分の手や足を眺め回し、ペタペタと体を触ると、元に戻ったことを喜んでお互いを抱き締めあい始めた。
(相変わらず甘いな)
そう言って呆れた表情で私を見る風太さんに、そうだろうか?と首をかしげていると、「ありがとう。助かったわ」とヴァイオレットさんにお礼を言われた。
「とりあえず、ここは目立つし、買い物も済ませてるから、王宮に帰りましょう」
言われて辺りを見回せば、元に戻った人達以外にも周りに人が集まってきていた。
ヴァイオレットさんの言葉に頷き、王宮に戻れば、ヴァイオレットさんはこれからお店で仕事があると言って、またすぐに王宮から出ていってしまった。
さっき買ったものは、王宮にいるメイドさんに手渡され、特にすることもなく部屋でぼんやりしていると、ふと、そう言えばと、街で買った新聞の存在を思い出した。
改めて広げてみるが、やっぱり英語で書かれたそれは所々分からないところがあり、全てを理解することは出来ない。読んでもらえないだろうかと思い、ドフラミンゴさん気配を探り、その気配のする方への向かえば、誰かと話をしているらしく、ぼそぼそと話し声が聞こえた。
「…………俺は今、……いや、俺達は今……海軍の"強制招集"を受けている。お前は……この未来をどう読む?"白ひげ海賊団"vs"王下七武海"
フッフッフッフッ!!だから俺はそんなものに構っている暇はねェんだよ。その店の惨状はてめェでどうにかしろ」
そう言ってドフラミンゴさんは受話器を元に戻し、手に持っていたグラスを傾け、中の液体を喉に流し込んだ。
コツリと音がして振り向けば、どうやら着いて来ていたらしい風太さんと、相変わらず風太さんの角に止まって羽を休めているカイロスさんが、ドフラミンゴさんを警戒した様子で見つめていた。
「よう、買い物は出来たか?それと、横のはなんだ?」
「……あ、はい。あの、この子達は私の友達です。……それでその……。さっき言っていたことは本当ですか?」
「……さっき?」
もしかしたら聞き間違いだったかもしれないと思い、そう尋ねれば、ドフラミンゴさんが不思議そうに聞き返してきた。
さっきドフラミンゴさんが電話の相手に言っていたことを思い出した。
"王下七武海vs白ひげ海賊団"
ドフラミンゴさんは確かにそう言っていたはずだ。それはつまり、パパ達とドフラミンゴさん達が戦うということだろうか?
でも、なぜなのか理由が分からない。
「はい、パパ達と七武海が戦うって……。七武海って言うことは、ドフラミンゴさんも戦うって事ですよね?」
「そうだ」
パパ達だって大好きだが、ドフラミンゴさんだって好きだ。好きな人達が争うのは見ていたくない。
「どうにかして中止にすることは出来ませんか?」
「フッフッフッ!!そりゃぁ出来ねェ相談だなァ。なにせ白ひげ海賊団のポートガス・D・エースが処刑されるんだ。
仲間を家族と呼んで、絆を大切にしてる海賊団だ。その家族が処刑されとあっちゃァ、白ひげが黙っちゃいねェだろうよ。
そうすると、政府と白ひげ海賊の戦いは避けては通れねェ。俺達王下七武海まで呼びつけるくらいだ。何がなんでも政府はポートガス・D・エースを処刑するだろうなァ」
ドフラミンゴさんのその言葉に、じゃあ、この新聞にはその事についてかかれているのだろうかと、気づけば握りしめてクシャクシャになった新聞を広げて考えた。
できれば、戦争が始まる前にエースを助け出したいが、どうすればいいのか検討がつかない。
そうなると、被害が少なくなるように、なるべく早めにエースを救出する必要がある。そもそも私はそのためにたくさん頑張って来たのだ。
新聞からドフラミンゴさんに視線を移し、ゆっくりと息を吸った。
「あの、私も連れて行って下さい!」
ドフラミンゴさんは私の言葉に一瞬驚いた表情をしたが、すぐに口角をにぃと持ち上げ笑顔を作った。
「フッフッフッ。行ってどうするつもりだ?まさか火拳のエースを助けるなんて言うつもりじゃないだろうな?」
「その、まさかです」
「……シロ。てめェが行ってどうなる?怪我も治ったばかりで歩くのもやっとな状態じゃねぇか。そんなんじゃァ火拳を助けるどころか、逆に足手まといになって、他の奴等の邪魔になるのがせいぜいだと思うぜ」
ドフラミンゴさんに痛いところを突かれてしまい、なにか反論しようと考えるが、何も言葉が出てこない。それでも、なにか言わなくてはと息を大きく吸い込んだ。
「…… 足手まといになるのはわかってます。 でも、なにもしないで後悔はしたくないんです。エースの処刑の日までに私の体力がどこまで回復するか分からないですけど、たとえそれが自己満足だと言われても、精一杯やったことの結果なら、きっと、どんな結果だって受け入れられると思うんです。
それに、ドフラミンゴさんがどんなに反対して、協力しないと言っても、私はエースの所に行きます」
なんて説得力のない言葉だろうかと思いながら、思っている事を正直に伝えれば、ドフラミンゴさんは手に持っていたグラスをゆっくり回し、中の液体を飲み干した。
ドフラミンゴさんに処刑が行われる場所まで連れて行ってもらえるのなら、こんなに心強いことはないが、ドフラミンゴさんにだって立場というものがある。
私だって、それが分からないほど世間知らずでも子供でもないつもりだ。もし、ドフラミンゴさんが駄目だと言うのなら、ドフラミンゴさんの助けを借りずに、処刑される場所まで行って、人混みに紛れながら、エースの救出を頑張るしかない。
「……仕方ねェ」
暫くの間の後、ドフラミンゴさんはそう呟いた。てっきり断られるかと思っていた私は頭に疑問符を浮かべてドフラミンゴさんを見つめた。
「……そこまで言うんなら仕方ねェから連れて行ってやるよ。ただし、俺が出来るのはそこまでだ。そこから先は、自分でどうにかしろ」
そこまでしてくれるのなら十分だ。
私はドフラミンゴさんにありがとうございますと勢いよく頭を下げた。