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死を覚悟した。
次に来るはずの痛みに備えて体に力を込めた。
だけど、予想していた痛みはなく、代わりに聞こえたのは、この場に不釣り合いな程透き通った歌声だった。
一体何が起こったのか分からず、固く閉じていた瞼を開けば、ルフィが驚いた表情で固まっていて、その目は俺の後ろを見つめている。
歌声とルフィの視線を追って振り向けば、雪ヒョウの面を着けた奇妙な奴が歌っていて、サカズキの野郎の体がみるみる縮んでいくところだった。
何をされているのか理解していないのか、腕を振り上げた状態のまま、なすがままになっているサカズキは、気付けば小さな子供の姿になってしまっていた。
「おんどれェ、おれになにをした……ッ!」
そう言ってサカズキがソイツを殴るが、子供の腕力なんてたかが知れている。ぺちりとそいつを殴ったサカズキは、不思議そうに自分の拳を見つめた。
「……ごっ!…ごめんなさい!……えっと、何日かすればもとに戻る…はず…なので、それまで我慢してください!」
ソイツは視線をサカズキから俺に移すと、嬉しそうに俺の名前を呼び、腕の中で暴れまわっているサカズキを抱き締めた。
「良かった……生きてる!」
そう呟いたそいつは本当に嬉しそうで、だけど俺は目の前で起こったことに理解が追い付かず戸惑うばかりだ。
「ルフィ大丈夫ですか?立てそうですか?」
そいつはサカズキを抱えたままルフィに手を差し出し、そう問えば、ルフィはそいつの手をとりながら立ち上がった。
ルフィの体力はとっくに限界を迎えてしまっているようで、震える足はうまく力が入らない様子だった。
「おめェ誰だ?」
「私はパパの娘です。このまま走り続けるのはちょっと無理がありそうですね」
「パパ?」
「はい、白ひげは私のパパです」
ルフィの疑問に答えたそいつのその言葉に、じゃあ、もしかしたらこいつがサッチを救って、ティーチにさらわれた苗字と言う人物だろうかと考えた。
ふと視線を移せば、サッチが驚いた表情でこちらをみていて、それに気づいたらしいそいつは、サッチに向かってブンブンと手を降ってみせた。
「……ッ!サッチ!生きてて良かった!」
感極まったのか、サッチが目から涙を溢れさせ「良かった!良かったっ!」と顔をぐしゃぐしゃにして大声で泣き始めたのを見て、ようやく、こいつが苗字だと理解した。
「それじゃ、私はパパを助けに行くので、エースもルフィもジンベエさんもみんな逃げてください」
苗字はそう言うと、子供になったサカズキを抱えたままオヤジの元へ走って行ってしまった。
後に続く白い鹿と梟は何だろうかと思いつつ、海軍の銃や刀の攻撃を避けていく様子が、10年前に故郷のジャングルで出会った全身を布で覆った奴の姿とダブって見えた。
「エースさん!早く逃げましょう」
「……ああ、そうだな」
ジンベエの言葉に踵をかえし、家族ならここを生き延びた時に船の上で聞くことができるだろうと思うことにして、僅かに頭をもたげた疑問を隅に追いやり、ルフィを抱えて走りだしたジンベエの後に続いた。