05
05
ブルージャムを何とか倒し、全身に酷い火傷を負ったダダンを抱えて、火の届かない"中間の森"の川縁までたどり着いて、次に何をするべきか考えていると、ふとさっきまで俺たちを狙っていた獣の殺気がなくなった事に気付いた。
なんでかわからず、辺りを見回すと、獣の殺気と入れ替わるみたいにして、頭から白い布で全身を覆った怪しい奴がいた。
目しか見えないが、普通の人間とは違うその空気は警戒するに充分で、ゆっくりと近づいてくるそいつに、足元にあった石を投げつけた。
「誰だお前!金ならブルージャムに獲られたからねぇ ぞ!どっか行きやがれ!」
"不確かな物の終着駅"で俺達の話を聞いて、金を奪いに来た奴かも知れないと思って、そう言ってみるが、投げた石を避けたきり特に反応を見せないそいつに更に石を投げつけた。
俺の投げた石を全部かわしてくそいつは、何がしたかったのか、突然俺達に背を向けて森に入っていった。
奴が姿を消した方をしばらく見つめていてたけど、帰って来る様子もないし、辺りにいた筈の獣の気配もない。
これなら、しばらくダダンをここに置いて街まで薬や包帯を盗みに行っても大丈夫かもしれない。
「おい、ダダン。薬を盗ってくるからここで大人しくしてろよ」
気を失っていて聞こえるはずもないが、取り敢えずダダンにそう告げると、街まで薬品を盗りに走った。
薬品を手に入れ、ダダンのいるところまで戻ると、さっきの変な奴がダダンの横にいた。
さっき散々投げた石を避けられていたから、当たるとは思っていなかったけど、なにもしないよりは、と投げていく石はやっぱり当たらない。
俺が投げる石をひょいひょいと避けていくそいつは、まるで挑発するみたいにして首をかしげた。
お前にはどうせ何も守れない。
そう言われている気がした。
頭に血がのぼって殴りかかれば、やっぱりそれも簡単にかわされ、そいつとダダンとの間に距離が空く。そこに身体を滑り込ませダダンを背にかばってそいつを睨み付けた。ちらりとダダンを見れば、身体中に何故か葉っぱが張り付けてあった。
「お前、ダダンに何しやがった!」
そう言ってそいつの反応を伺うが、喋る様子も襲いかかってくるようすもなかった。相変わらず怪しいことには変わりないが敵意はないないらしく、その場に立ってじっとこっちを見たまま動く様子はない。
このままダダンの身体に葉っぱを張り付けたままにするわけにもいかず、ちらちらとそいつの様子をうかがいながら、身体に張りつけてあった葉っぱを取り、薬を塗り包帯を巻いていった。
ダダンの治療が終わって、次は自分の身体に薬を塗っていく。背中にも薬を塗ろうとしたけど、上手く塗れなくて、もういいやと思って諦めて包帯を巻く作業に移ろうとしたら、後ろから横に置いてあった薬をとられ、慌てて振り向いて声をかけようとすれば、背中にもともとあった鈍い痛みが、鋭い刺すような痛みに変わって、思わず動きがとまる。
背中を滑る手の感覚を感じることから、どうやらあの変なやつが薬を塗ってくれているらしいと理解した。
「わりい。助かる」
俺のその言葉にそいつからの返事はなく、ただ黙々と薬を塗り続け、俺が手に持っていた包帯を取り上げると、なれない手つきで身体に包帯を巻いてくれた。
怪しいやつだけど、悪いやつではないらしい。
「さっきは悪かったな。石、なげちまってさ」
俺の足に包帯を巻き始めたそいつにそう言えば、そいつは作業を一旦中止して顔を上げ、返事の代わりに首を左右に振り、また包帯を巻く作業に戻った。
どうやら喋れないらしいそいつは、石を投げられたり殴られかかった事は特に気にしてないらしい。
「……そうか」
そう呟くと、そいつはコクりと頷いた。
ダダンの側にいつの間にか置いてあった果物は
、恐らくこいつが採ってきたものなんだろう。
食ってもいいかと聞けば、そいつはコクりと頷いた。
ぐうぐう鳴る腹に、やっぱり果物なんかじゃ腹は膨れないなと思いながら食べていると、がさりと音がして、気付けばアイツの姿がなくなっていた。自分の家にでも帰ったのだろうと判断して、俺はこれからのことを考えた。
相変わらず腹は鳴り続けているけど、この森にいる動物を狩るほど体力は回復していない。未だに気を失っているダダンの怪我の状態は酷い。ダダンの家まで動かせる状態じゃないから、暫くはここで治療していかなければならない。街で盗ってきた薬品や包帯は、さっきダダンと自分を治療して使いきってしまったからまた明日にでも街に盗みにいく予定だ。
獲物を狩るにも薬品を盗みにいくにも体力がいる。
日が沈むまでまだ時間はあるけど、取りあえず眠って体力を回復させようと身体を横たえると、ガサガサと近付く草をかき分ける音に、敵が来たのかと思い身体を起こし身構える。でも、そこから現れたのは家に帰ったのかと思ってたアイツで、両腕には沢山の果物を抱えていた。
ソイツは両腕の果物を俺の前にドサドサと落としていくと、"食べろ"とジェスチャーで示した。
「家に帰ったんじゃなかったのか?」
ソイツは少しの間の後、首をかしげ、しばらく考える素振りを見せた後頷いた。
「そうか。食い物ありがとな」
礼を言って果物を口に入れると、甘酸っぱい味が口の中に広がった。
それからしばらくして目覚めたダダンに果物を食べさせ、今の状況を説明した。
ダダンも俺と同じようにアイツのことを警戒していたけど、怪しい奴だけど悪いやつじゃないと伝えると、しぶしぶながらも納得してくれた。
それから数日、ダダンを動かしても大丈夫な状態になるまでの間、俺が街まで薬品を盗みに行き、アイツが食料の果物を持ってくるという役割分担が出来上がった。
そうして、ようやくダダンが動かしても大丈夫な状態まで回復したのを見計らって、後ろをアイツに支えてもらいながらダダンを背負ってコルボ山にあるダダンの家まで歩いた。
ダダンの家が見えてきた辺りで、アイツに帰る家がないなら、一緒にダダンの家に住めば良いと思い振り向けば、そこにいたはずのアイツはいなくなっていた。
果物を沢山運んで来ていたことから、コルボ山やジャンルのどこかに住んでいるんだろう。
なんて思い、なら、またいつか会えるかも知れないし、その話はその時にでも言えばいい。
俺は、じわじわと更に重みが増した気がするダダンを背負いなおし、もうひと踏ん張りだど気合いをいれた。