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エースが住んでいるらしい家が見えてきた辺りで、もう私がついてなくても大丈夫だろうと思い、エースに一声かけて去ったのだが、ダダンを運ぶのに一生懸命なエースからは返事はなかった。何だか寂しく思いながらも彼のもとを離れて今は海の上にいる。
これから数日間借りっぱなしだったシーツを返しにいく予定だ。
数日間身に纏っていたため、所々汚れが目立つ場所があったので、エースを見つけた川縁でなんとか綺麗に洗い流し、移動ついでにシーツをはためかせ乾かしている。
数日間借りっぱなしで、お礼の1つもしないほど常識のない人間ではないので、森で集めた果物を篭にいれてそれをお礼とするつもりだ。
ちなみにこの篭はエースが作ってくれた。
果物では腹は膨れないという二人のために、食料調達で何往復もする私に見かねて作ってくれたのだ。
かなりのスピードで翔けていたのでもう既に乾いていたシーツを綺麗に畳み、果物を入れた篭に一緒に入れ、また翔けた。
シーツを借りた海賊船にいた人物の中に、ひときわ大きな気配があったので、それを追っているのだが、その気配が何だかちょっと懐かしい気がする。しかし、ワンピースの世界にトリップした私に懐かしさを感じるような知り合いはいないので、おそらく気のせいだろう。

エースから離れた時には高く登っていた太陽も、今ではすっかり沈んで、代わりに今は綺麗な月が辺りを明るく照らしている。
気配のする海賊船が見えて来た辺りで、獣の姿から人の姿に戻った。何故かと言えば、いくら巨大な船だからと言っても、私が獣になった姿はずいぶん大きいので、こっそり返すことができないのだ。おまけに何故か獣の姿だと暗闇ではうっすらと発光するのだ。これでは逆に目立ってしまいこっそりも何もない。
私は、そっとシーツが干してあったと思われる場所の看板に降り立つと、そっと篭を置いてその場を去ろうと宙に浮くと、突然髪を引っ張られて後ろに転倒した。
頭を豪快に打ち付け、痛みで目がチカチカして目の前を星がとんだ。
元々長く、切るタイミングを逃して無闇矢鱈に伸ばし続けた髪の毛は足元に達するほどで、その髪の毛が何処かに絡まったのだろう。
「お前、何者だよい!」
しかし、違ったらしい。
痛む頭を押さえ見上げた先には、植物の竜の髭を頭の一部分に生やしたみたいな奇妙な髪型をした男の人がいた。
私の知っているモヒカンとは少し違うようだが、きっとこれもお洒落なんだろう。
頭、顔、体と視線を移動させると、大きく開いたシャツからわたしの知っているマークが見えた。
そうか、これは白ひげの船だったのか。
じゃあ、この大きな気配は白ひげのものなんだろう。道理で懐かしい気がするはずだ。紙面上とは言え、"白ひげ"は飛び飛びでしか原作を知らない私が知っている数少ないキャラクターの1人だ。子供のエースの気配がわかったくらいだ。"白ひげ"の気配に懐かしさを感じるのも当然なのかもしれない。私は、1人そう納得して手を打った。
「もう一度聞く。お前、何者だよい。狙いはオヤジの首か?こんなガキに狙わせるなんてオヤジもなめられたもんだよい」
(何者と言われても、ただの一般人です。白ひげさんの首は狙ってません)
私がそう言って首を左右に振ると「なんだ?喋らねぇつもりかよい」と言ったその人から、ただならぬオーラが漂い始めた。
(え?私ちゃんと答えましたよね?)
そう言って首を傾げる私に更に男の人が怒りだしたのが伝わった。
「あくまでもしらを切通すつもりかよい」
そこではたと私は気づいた。どうやら動物達と話すときの癖で、思念で返事をしていたらしい。
思い返せば、エースと会話するときもそうだった気がする。道理で妙に会話が噛み合わないし続かないはずだ。
「あ、あー……。聞こえます?私の声。すみません。喋るの忘れてました」
ぶちんと、何かが切れる音が聞こえた気がした。
「おい、ガキ。お前ふざけてるのかよい」
「いいえ全く」
ふざけているつもりなんて全くない。私は、至極真面目である。ついでに言えば、私は"ガキ"と呼ばれるような年齢ではない。しかしここは1つの可能性を考慮しなくてはならない。私は"若返りトリップ"をしたのかも知れないという可能性である。
思わずため息が口からこぼれる。
確かに、何だかちょっと周りの植物や動物が大きいなとは感じていたが、何でもありなワンピースの世界なので普通より大きく植物や動物が育つ場所なのかと思っていたのだ。
元の世界でも成長しても胸にも尻にも肉の付かなかった私の体はいわゆる"幼児体型"と言うやつで、何だかちょっと細くなったな。で済ませていたのだ。
エースに会ったときにあれ?この子身長私と同じくらいじゃない?と思ったが、背の方も伸び悩んでいた私は、エースが"普通よりちょっと背の高い子供"ということにしてすませていたのだ。
しかし、見ず知らずの人間に"ガキ"と言われるほど私は、童顔でも子供っぽい容姿をしているわけでもないと自負している。
他人からの印象は大体が"背の低い女"であるはずである。決して"ガキ"などではない。
私はさっきより深く行を吸い込み深いため息をはいた。
まいったな。




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