09
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いつもと違う優しい起こし方に違和感を覚えつつまだ眠たいと訴えてみてれば、朝ご飯を食べ逃すと言われ、エースが私の採ってきた果物全部食べるつもりかと思ってむくりと起き上がれば、見知らぬ男性が私を見つめていた。
混乱する頭で昨日の事を思い出してみる。
久々に人間らしくシャワーを浴びた。流れ出る温かいお湯が気持ち良くてそのままうっかり眠ってしまった。
時間をもう少し前にしたほうが良さそうだ。
エースとお別れして、トーマスさんのところに帰る途中で寄った船は白ひげ海賊団の船で、この人に勘違いをされてお世話になることになってしまった。
ああ、うん。そうだった、そうだった。
裸なのは最早私のデフォルトなので気にしない。しかしなぜ私は彼と同じベッドにいるのか。もう一度記憶をたどってみる。
トーマスさんの背中で過ごしているときは常に回りに獣がいて、それは眠るときも一緒だったため、普段感じていた温もりがなくて寒さで目が覚めたら見慣れない場所にいて、どこだここはとは思ったものの、抗えない眠気に思考を中断し、近くにあった温もりにすりよって再び眠りについた。
ああ、そうか。原因は私だったか。
投げて寄越された服を再び襲い来る睡魔と戦いながら着て、さてもう一眠りしますかねと横になろうとすれば、呆れた声と共に起こされ、どうやらかけ間違えていたらしい服のボタンを直してくれた。
(ご迷惑をおかけします)
うつらうつらとしながらそう言えば、私の声が聞こえていなかったのか、まるっと私の言葉を無視した彼は、私の前に水を張ったボウルを差し出し顔を洗うように言った。
素直に従い顔を洗えば幾分か頭がスッキリとし、改めて彼に挨拶をすれば、なぜか苦笑いと共に返事が返ってきた。
そのまま男の人は当然のように私の手を引いて食堂まで案内してくれた。
おはようございます。
おう、おはよう。
おはようございます。マルコ隊長。
おう、おはようさん。
あれ?そんな子供昨日はいましたっけ?
昨日の夜船に乗り込んできたんだよい。
へぇ、どうするんですか?その子。
船もないみたいだからコイツの島まで送り届ける予定だよい。オヤジにはもう許可とってあるから、コイツが困ってるようだったら面倒見てやってくれ。
食堂に着き、頭上で交わされる会話を他人事のような気持ちで聞き流し、可愛くウサギにカットされたリンゴを無心で食べていると、回りで話を聞いていたらしい何人かの人たちが、よろしくなと挨拶してきたので、ペコリと頭を下げておいた。
トーマスさんの背中に引きこもっていた間に私の対人スキルは下がりっぱなしだったらしく、沢山の人が集まり囲まれたこの状態にどうしようもなく緊張していた。
肉を食べろ、魚を食べろとマルコ隊長さんが勧めてくるのでアレルギーあることを伝えれば、マルコ隊長さんの眉間にシワができた。
「名前は?」
集まって来ていた男の人の1人にそう問われ、自分の名前がでてこなくて一瞬頭が真っ白になる。
動物達は普段私の事を「王」と呼ぶので、すっかりそれに馴れてしまっていたのだ。
「名前苗字」
そう答えれば、その人は笑顔で「よろしく」と言った後に私の名前を呼んだ。
それに続くように他の男の人達も私の名前を呼び、挨拶し、何人かは私の頭をグリグリとなでまわしてきた。
名前を呼ばれ挨拶をされる度に今まで体から離れてしまっていた自分の名前が、じわじわと体に馴染んでいく感覚がした。
それがなんだか心地よくて、さっきまでの緊張が解れてきて私も彼らと同じように笑顔で挨拶を返した。
朝食を食べ終わり、マルコ隊長さんの案内でオヤジさんの所に案内された。
一際大きな扉の内側には、大きな扉なのも納得出来るほど身体の大きな男性がベッドから半身を起こしていて、まわりにミニスカナースをはべらせていた。
鼻に管を通していることから何かの病気のようだが一体何の病気だろうか?
あの髭は何で固めてるのかな?
昔からあの髭は白かったんだろうか?
いい筋肉してるな。
何食べたらこんなに順調に縦に成長できるのだろうか。
私はいつまでマルコ隊長さんと手を繋いでいればいいのかな?
「小娘、俺が恐いか?」
取り留めもなくどうでもいいことを考えているとオヤジさんにそう尋ねられたので、首を左右に振って答えた。
「……ほう?俺は世界の白ひげだぜ?海賊だ。もしかしたらお前を売っちまうかもしれねぇ。それでもか?」
こくりと私は頷いた。私を売ったところではした金程度の金額にしかならないだろうし、そのはした金のために私を売るほど彼がお金に困っている様子もない。それに少なくとも白ひげはエースが慕っていた人物だ。そんなことをするような人ではないだろうし、さっき食堂で私に挨拶してくれたのは明るく優しい人ばかりだった。そんな人達に好かれている人物が悪いことをするようには思えない。おまけにナースにたしなめられて素直に謝る。という光景を目の前で繰り広げられては最早何に恐がればいいのかわからない。
「悪い人には見えません」
「グラララ、面白ぇガキだ」
頭がもげるんじゃないかと思うほど乱暴に頭をグリグリと撫でまわされた。
「名前はなんてぇンだ?」
「名前苗字です」
「そうか、苗字。お前ぇの島のワノ国まで送ってやるからよ。それまで俺の船でゆっくりすりゃあいい」
「お世話になります」
本当は送ってもらう必要性は特にないし、ワノ国なんて島は知らないと言うのが本音だが、どうにも断りづらいこの状況で、まあ、別にいいかとなげやりな気持ちになり、しばらくの間ここでご厄介になることにした。
オヤジさんの部屋を出て次は何をするのかと思えば、どうやら伸ばしっぱなしのぼさぼさの髪の毛が邪魔そうに見えたらしく、地面に届くほどの長さのあった髪の毛をばっさりと切られた。肩の辺りで綺麗に切り揃えられ、久々に頭が軽い。
ワノ国には2ヶ月程で着くそうで、それまでのあいだは他のクルーの人達の掃除や洗濯の手伝いをするようにとのこと。
次の島に着くのは1週間後だそうで、それまではマルコ隊長さんの服で我慢してほしいと言われたのだが、トーマスさんのところでは全裸がデフォルトだった私からしてみれば、着るものがあるというだけで満足で、彼シャツならぬパパシャツ状態でも何ら問題はない。お金もないのでいらないと言えば、マルコ隊長さんは「可愛い服を買ってやるよい」と言った。
短い付き合いの予定の彼にそこまでしてもらうほど図々しくはないつもりだが、この場合は服を借りたままの方が図々しくなるのだろうか?
しかし、子供の成長は早いと聞く。トーマスさんの所に戻ったところで、その"可愛い服"はすぐにお役目御免となりそうなので、そう考えればやっぱりこのまま服を借りた方が経済的だ。
そういった意味を含めて「これがいいです」と言えば「遠慮すんなよい」とマルコ隊長さんにいわれた。
なかなか上手く伝わらないものである。