そりゃ、女の子のですし

そりゃ、女の子のですし

停泊した島で日用品の買い出しをしに行くというマルコに着いて船を下りた日のことだった。
あらかたの注文も終わり、後は業者の人に注文した物を船のあるところまで運んでもらえばいいだけだ。
思っていたよりもマルコの仕事が早く片付いてしまい、暇をもて余した私に、この島は白ひげのナワバリだから自由に歩き回っても大丈夫だから、その辺を見てきたらどうだ。とマルコに言われ、じゃあ、ちょっと見てくると返事をし、島の散策をすることにした。
春島であるこの島の気候は穏やかで、それに比例するように穏やかなこの島の人達は、私がさっきマルコと一緒に歩いていたのを見ていたらしく、近くを通りすぎる度に親しげに挨拶をしてくれた。
私も同じように挨拶を返し、途中で貰った飴を口に含み、ぶらぶらと歩いていると、進行方向にあったお店の扉が開き、店内から出てきた人物と鉢合わせしてしまった。
「あ、すみません」
このままではこの人の邪魔になると思い、横にそれて通りすぎようとすれば、突然手首を掴まれた。
驚いて一度掴まれている方の手首を見て、その掴んでいる人の手をたどって視線を上に上げていくと、羽飾りのついた帽子を被った騎士のような風貌のおじさんが私をじっと見下ろしていた。
見たことのある顔に首をかしげ、この顔はたしか"鷹の目"とかいう人だったかと思い出し、じっと見てくるその人と同じように、私もその人を見上げるが、その人が何かを話し出す雰囲気はない。
私に何か用事があったのではないのだろうか?
「……お前、"雪ヒョウのシロ"か」
しばらくの間見つめあっていた私と"鷹の目"さんとの間に、春の風が通りすぎ、ようやく口を開いたその人の問いに頷いて返事をすると「やっぱりか」と言って"鷹の目"さんはニヤリと笑った。
「さっきいい茶葉が手に入った。俺のところで茶でも飲んでいけ」
まるでナンパでもしているかのような台詞をはいた"鷹の目"さんは、一体なにがどうしてそんな話になるのかと質問する間もなく、私の手を引き歩き出した。
港にとめてあったイカダのような小さな船に乗せられ着いた先は、どんよりとした天気でじめじめとした湿気が体にまとわりつくような島だった。
「用意ができたら呼ぶ」
そう言って"鷹の目"さんは私を残して大きなお城へと姿を消してしまった。
マルコは私に好きにしていいと言っていたから、まさか私があの島から姿を消したことに気づくはずもないが、最近過保護に拍車がかかっているので、もしかしたら、という可能性も考えられる。
どうにかして、島から私がいなくなったのをマルコに気付かれる前にあの春島に戻りたいが、"鷹の目"さんのお茶をご馳走してくれるという厚意を踏みにじるわけにもいかない。
"鷹の目"さんのお茶会は早く終わるだろうかとそわそわしていると、森の木々が風もないのにざわめきだし、そちらに視線を送ると、木の間から3匹の猿が飛び出してきた。
その猿は私の姿を視界に入れると、一目散に私の元へ駆け寄って来た。
(おお……!我等が獣の王よ!ちょうど良いところに参られた!)
(どうか私達を匿っていただきたく!)
その猿達はそう言うと私の後ろへまわりこみ、その大きな体を隠すように丸く縮こまってしまった。
猿達の方に振り向き、どうしたのかと聞く間もなく、また森の木々がざわめきだした。
近づいてくる音と共に木の間から現れたのは、刀を3本かまえた緑色の人物で、あ、と思い目が合ったかと思うと、その人物は驚いた様子で慌てて歩みを止めた。
しかし、3本の刀は鞘に納められることはなく相変わらず構えたままで、こちらを警戒した様子でじっと視線を送ってきている。
緑色の髪の毛、腹巻き、3本の刀。ここまで特徴が一致しているのだ。もはやその人物は"ロロノア・ゾロ"で間違いないだろう。
なんだが妙な展開になったなと思っていると、ロロノア・ゾロが口を開いた。
「てめェ……。何者だ?何しにここへ来た」
特に何をした訳でもないのに、なぜか警戒した様子のロロノア・ゾロに戸惑いつつも名前を名乗り、"鷹の目"さんのお茶会に誘われたのだと話せば、後ろから(ほう?)声が聞こえた。
("鷹の目"とは今あそこに住んでいる一等強い人間のことですかな?)
その質問にコクりと頷き返事をすると、ロロノア・ゾロはピクリと眉を動かして、こちらに向けて刀を構え直した。
「あくまで名乗る気はねェってか?
おまけにさっきからヒューマンドリルに目配せしてるが、その猿どもと共同戦でもしようてのか?……良いぜ、相手にとって不足はねェ……。どっからでもかかってこい!」
(ふぅむ……。いくら強いからと言って、我等が獣の王をそのような怪しげな『お茶会』なるものに誘うとは、なんと不届き千万なやからであろうか!)
(そのような不届きな輩には我等が鉄槌を!)
(1度は負けはしたものの、今は王がおられる。勝機は我等にありと見た!)
(今こそあのときの雪辱を晴らすとき!)
(まずは、あそこに住む"鷹の目"よりも弱いあの緑の人間を打ち倒すぞ!)
そう言って、お互い刀を構えてにらみ合いを始めたロロノア・ゾロとヒューマンドリル達に私は戸惑うばかりだ。
いよいよ更に訳のわからない展開になってきた。
とりあえずこの場をどうにか治めなくてはならないと思考を働かせるも、そもそも身体能力に関しては、一般人並の私がこんな筋肉もりもりの人達相手に対してどうこうできるわけもない。
どうにか平和的に、暴力を使わずに、この場を治める方法はないかと思案して、そう言えば、トーマスさんに、"覇王色の覇気"というのを教えてもらっていた事を思い出した。
なんだかわからないが、この"覇王色の覇気"を相手に浴びせると、その相手が気絶するという便利な代物だ。
平和的とは言いがたいが、このまま血みどろの戦いが起こるよりは良いだろうと、気合いを入れたとき、ロロノア・ゾロとヒューマンドリル達が膝と両手を地面に着いた。
まだ私は何もしていないのに、一体どうしたというのだろう。
(…石になりたい)
(…俺なんかノミになって踏み潰されればいいんだ)
(…枯れ葉になりたい)
「…ミジンコになりたい」
突然始まったネガティブ発言にどうしたのかと驚いていると、お城のある方向からピンクの髪の毛の女の子がふわふわとやって来た。
「まったく…。客人相手に何をやってるんだ」
「……客?」
ピンクの髪の毛の女の子に頭を叩かれたロロノア・ゾロは、顔を上げこちらを見つめた。
「そうだよ。鷹の目がお茶をご馳走しに連れてきた客だ」
「……"鷹の目"の」
「そうだ。その客を怖がらせてどうするんだ」
「いや、それは悪かった。俺はてっきりこの島に潜り込んできた敵かと思ったんだ」
「悪いなシロ。この馬鹿がお前を怖がらせてしまったみたいでさ。
"鷹の目"が準備が出来たから来いってさ」
そう言って女の子が私の手を引いて進み出したのを見たヒューマンドリルが、また騒ぎだしたので、大丈夫だから静かにするようにと言えば、案外素直に言うことを聞いてくれた。
それを見たロロノア・ゾロが「今あいつらに何をした?」と問われたが、ただ言い聞かせただけで、特に何をしたわけでもないので、肩をすくめて見せるが、どうにも納得していない様子だ。でも、他になんと説明すれば良いのかわからないので、これで納得してもらうしかない。
ピンクの髪の毛の女の子はペローナと言うらしく、悪魔の実の能力者である彼女は、相手をネガティブな気持ちにさせる能力を持っているそうだ。
お城の中に案内され、お城の庭が一望できるテラスに用意された小さなテーブル席に座らせられた。
白いテーブルクロスの引かれたテーブルの上には、白や黄色や紫の花束が飾られていて、その花束の向こう側では、"鷹の目"さんがもう既に紅茶を召し上がっていた。
「飲んでみろ」
そう言って淹れてくれた紅茶から甘い香りが立ち上り、辺りがその紅茶の香りで満たされた。
「いただきます」
ゆっくりと紅茶を口に運べば、口から鼻へ甘い香りがぬけていき、紅茶の美味しさなんて分からないながらも、ふんわりと心が落ち着いた。
ここに来る前に"鷹の目"さんは、『良い紅茶の茶葉』といっていたから、同じように紅茶が好きなビスタに教えてあげたら喜びそうだ。
「美味しいですね」
「菓子もあるぞ」
ペローナさんが横からお菓子を出してくれたので、それをいただき、「美味しいです」と感想をのべれば、嬉しそうに笑ったペローナさんは、実は自分と"鷹の目"さんと作ったのだと教えてくれた。
「作り方を教えてやろう」
そう言った"鷹の目"さんは、私をキッチンに連れていくと、そのお菓子の作り方を教えてくれて、ペローナさんと一緒にそのお菓子を作ることになった。
ようやくお菓子を完成させた頃、ふと窓の外を見れば空はキレイな茜色に染まっていた。
マルコやエースに怒られるかもしれない。
これから"鷹の目"さんの小船に乗って、あの春島まで帰れば、確実に日は暮れている。
うわ、どうしよう。
「どうしたんだ?」
突然表情の変わった私を心配してか、ペローナさんがそう声をかけてくれた。
「帰りが遅くなると、家族に怒られるかもしれないです」
「それは良くないな。おい、"鷹の目"!急いでシロを送ってやれ」
ペローナさんはそう言うと、一緒に作ったお菓子をお土産だと言って素早く包んでくれた。
「何にもないよりはマシだろ?
男なんて女の手作りに弱いからな。怒られそうになったらこれを渡せばいい」
そういうものだろうかと思いつつも、ありがたくそれを受け取り、仲が良いのか悪いのか、相変わらず森に一緒にいたらしいロロノア・ゾロとヒューマンドリル達との別れの挨拶もそこそこに、急いで船に乗り込んだ。
「また会おうな」
別れ際にそう言ったペローナさんに、そう言えば、女の子の友達なんて久々かも知れないと思った。
コクりと頷けば、がばりと抱きつかれ、「男ばかりでむさ苦しいのが嫌になったら、いつでもここに来い」と言ってくれた。
きっと別れを惜しんでくれているのだろうと思い、分かったと返事をして、私も同じようにペローナさんを抱き締めた。
「……おい」
その声で我に返り、振り向けば"鷹の目"さんが半ば呆れた表情でこちらを見ていた。
「行くぞ」
慌てて船に乗り込めば、船はゆっくりと動きだし、島は徐々に小さく、遠くなっていった。

ようやく春島へついた頃には、日もとっぷり暮れていて、春島では白ひげ海賊団による私の大捜索が始まっていた。
「お前もなかなか大変だな」
憐れむような視線を寄越した"鷹の目"さんは、続けて、自分が事の顛末を話に行こうかと申し出てくれたが、他の海賊のところで遊んでいた。なんてことが知られたら、それこそ色々と騒ぎかねないし、その相手が"鷹の目"さんだと知れたら、話がややこしくなる気がする。
"鷹の目"さんの申し出を丁重にお断りし、別れしてから皆の元に姿を現せば、案の定凄く怒られたので、ペローナさんのアドバイス通りお菓子を差し出し、新しく出来た友達と一緒に作ったんだよと言うと、震える手でそれを摘まんだイゾウは、それを一口くちに入れると、泣きながら美味しいと言ってくれた。
どうやら不器用な私がお菓子を作り、尚且つ、それがちゃんと食べられるものであることに感動しているらしい。
いくらなんでも、その反応は大袈裟すぎやしないかと思ったが、パパやマルコやエース、サッチやハルタもだいたい似たり寄ったりの反応だったので、どうやらそうでもなかったらしい。
女子として、このままでは不味いとその日改めて実感した。



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