お友だち未満
お友だち未満
※if、夢主がドフラミンゴの所に行くまでの間に目覚めていたらと言うストーリーになっています。
人の話し声や金属のぶつかり合う音、機械的な音楽が鳴り響いて賑やかなこの場所は、カジノのお店で、お店の名前は『レインディナーズ』
お店の屋根のてっぺんにはバナナワニの彫刻がドンっと据えられていた。
サッチをティーチから助け、そのまま気を失った私は、なぜかティーチの膝の上で目覚めた。
どういう状況か飲み込めていない私に、ティーチは、私がサッチを助けた時に怪我をしてしまい、その怪我を治すために腕の良い医者が多いと有名なドラム王国に赴き、医者に診てもらおうとしたら拒否されて、腹が立ったからちょっとひと暴れして、医療器具をいただき、私の怪我の治療をしながら名を上げるための旅の途中だと説明してくれた。
今は軍資金集めのためにアラバスタという島に滞在中で、さっきから負けっぱなしのティーチはそろそろ身ぐるみはがされそうだ。
さすがの私でも聞いたことのある島の名前に、まさかルフィはまだこの島に来ていないよなとそわそわして落ち着かない。
「ねぇ、そろそろ止めようよ」
黒ひげ海賊団のメンバーは、各々好き勝手に街を散策しに出掛け、じゃあ私もちょっと見て回ろうかなと足を踏み出せば、1人になるとどんなトラブルに巻き込まれるかわからないし、内乱のあるこの島で、私が1人で出歩くのは危険だから自分から離れるなと言って、ティーチが私を放してくれなかったため、特に興味もないカジノのお店に入る羽目になった。
「ちょっと待ってろ。次はこれがくるはずだ!」
すっかり意地になってしまっているティーチは、そう言って指にはめていた指輪を換金して、それを元手に何とかお金を稼ごうと躍起になっている様子に、ため息をひとつついて、視線をティーチからこのカジノの会場の奥へ移動させた。
赤いカーペットの敷かれたその先には彫刻の施された豪華な扉があり、上には『V.I.P.』の文字。
開け放たれたその扉に妙に好奇心をくすぐられ、ふらりとそちらへ向かい、扉をくぐり抜け進んで行けば、その先は分かれ道になっていて、看板が立てられていた。
左が『V.I.P.』右が『海賊』
どちらに進もうか悩み思わず立ち止まった。
『V.I.P.』ではないので『海賊』の1択なのだが、『海賊』の方は嫌な予感しかしない。
しばらく悩んだすえに、お金持ちじゃないからと『海賊.』の方へ進めば、突然床に穴が空いた。
重力に引かれ下に落ちる直前に、体を浮かせて下を覗きこめば、ちらりと鉄格子のような物が見えた。
開いた床は徐々に閉まり、元の床に戻ったのを見計らい地面に足を着け、『海賊』はやっぱりハズレだったらしいと引き返し、『V.I.P.』の方を進むことにした。
しばらく歩き続ければ、また扉が表れ、それを押し開けば、宝塚のステージにありそうな幅の広い大きな階段があり、それを下りた先には大きな広間があった。
その部屋には大きなソファーと大きなテーブル、壁に沿うように据えられた本棚には、本がぎっしり詰まっていて、本棚の上には大きなバナナワニ油絵が飾られていた。
窓ガラスを覗きこめば、たくさんのバナナワニがゆっくり泳いでいて、窓ガラス越しに目の合ったバナナワニがパチリと瞬きをし、小さくお辞儀をしたので、私もつられてお辞儀を返した。
一体ここは何の部屋だろうかと散策するが、やっぱり何の部屋かよくわからない。特に面白い物もないしティーチの所に戻ろうかと踵を返せば、階段の正面の壁が両側に開いた。
驚いて思わず見守っていると、開かれた壁の向こう側には、白い女の人と、黒い男の人がいて、それはどうみたってニコ・ロビンさんとクロコダイルさんで、さすがの私でも知っている二人のキャラクターだった。
その二人の向こう側ではバナナワニが水面から顔を出しているところで、さっき窓ガラス越しにお辞儀をしたバナナワニだったので、改めて(こんにちは)と頭を下げれば、バナナワニの方も(あら、こんにちは)と親し気に挨拶を返してくれた。
そのバナナワニの親し気な様子とは裏腹に、警戒心も露にこちらを見る二人にどうすれば良いのかわからず、笑みを浮かべてみるが、ひきつった笑顔しか浮かべられなかった。
(ふふふ……。ごめんなさいね。私たちの飼い主はとても警戒心が強いのです)
そう言いながら一歩二歩とこちらに歩み寄って来たバナナワニの鼻の頭を撫でれば、気持ち良さそうにその目が細められた。
「……お前、何者だ?」
クロコダイルさんにそう問われるがなんと答えれば良いのかわからず、とりあえず名乗るが、クロコダイルさんはそれに首をかしげただけだった。
「バナナワニがサー以外になつくなんて珍しいわね」
そう言ったのはニコ・ロビンさんで、クロコダイルさんはその言葉に反応してか、ピクリと眉を動かすと、こちらを見つめてきた。
「……フン……確かにそうだな。おい、ガキ。俺のバナナワニに何をした?」
なぜだか怒っている様子のクロコダイルさんに、ニコ・ロビンさんは何が面白いのかクスリと笑うと「あんまり女の子をいじめるものじゃないわよ。サー?」と言った。
(私たちの飼い主は悪い人間ではないのですが少々嫉妬深いのです。王への無礼な態度、お許しください)
バナナワニの言葉に(それは別にかまいません)と返事をし、もしかして私がクロコダイルさんのバナナワニに勝手に触っているのが駄目だったのだろうかと思い、両手を上げて撫でるのを中断すれば、バナナワニが体をすりよせてもっと撫でろと要求してきて、それを見たクロコダイルさんの眼光が、更に鋭くなったのだからたまったものではない。
どうしたものかと困り果てていると、クロコダイルさんが砂に姿を変え、私の後ろに回り込んだ。
振り向いて見上げれば、フードを取られ、今度は興味深い様子で私を見つめ、ニヤリと悪い笑みをその顔に浮かべた。
「……てめェ"シロ"だろう?」
初対面のはずの彼がなぜその呼び名を知っているのだろうかと思いつつも頷けば、クロコダイルさんは私の髪の毛を鉤の手ですくいあげ、「やっぱりそうか」と呟いた。
「ドフラミンゴの野郎が、てめェのことを何年もかけて探してるのを知ってるか?」
なにそれ初耳。
首を左右に振って知らないと答えれば、クロコダイルさんは「クハハハハハ!」と楽しそうに笑った。
「ちょうどいい。あの野郎のしつこい勧誘にはうんざりしていたんだ。てめェを差し出せば、あの野郎のしつこい勧誘も止むかも知れねぇ。なぁ?そうは思わねェか?」
クロコダイルさんはそう言ってテーブルに置かれていたワインのコルクを抜くと、中をワイングラスに注ぎ、ゆっくりと味わうようにワインを喉に流し込んだ。
「で?もう一度聞くが、どうやって俺のバナナワニを手懐けた?」
どうやってと問われても、大したことは何もしていないので、答えようがないが、強いて言うなら、悪魔の実の力のせいだろう。しかし、それをうっかり話すわけにもいかないので、「大したことは何も。ただ、ちょっと動物に好かれやすいんです」と答えれば、明らかに納得していない様子のクロコダイルさんは、私を探るような目付きでじっと見つめてきた。
「何か隠してるみてェだが、まあ、いいだろう」
ニコ・ロビンさんをちらりとみれば、ソファーに座って、本を読み始めていた。
私が逃げるなんて考えもしないのか、席に着いたクロコダイルさんは運ばれてきた食事をナイフで切り分け、その食事をバナナワニに投げて空中でキャッチさせて食べさせて遊びはじめた。。
別にこのままドフラミンゴさんの所に連れていかれるのは構わないのだが、そうするとティーチが心配するから、どうにかしてティーチに知らせなくてはならない。
どうやって知らせようかと考えながら、片手で器用に食事をするクロコダイルさんの姿を感心して見つめていると、「ここには何をしに来た?」と問われた。
「お金を稼ぎに」
「……金稼ぎ?なんだ?金に困ってんのか?」
お金に困っているのは私ではなくティーチなので、違うと答えれば、クロコダイルさんは首をかしげた。
「金に困ってる訳でもねェのに、金を稼ぎに来たのか?」
「……私は困ってないです。困ってるのはティーチです」
「ティーチ?」
訳がわからないと言いたげに、更にクロコダイルさんが首をかしげたとき、ドタドタと騒がしい音が聞こえてきて、私が入った方の扉が勢いよく開かれた。
「おい、山下!海軍が来た!ついでにエース隊長もこの島に近づいているらしい!
ちくしょう!長居しすぎた!逃げるぞ!」
ティーチはそう言って私を抱えると、周りなんて目に入っていませんとばかりに走って広間を出た。
バナナワニがまたお話ししましょうねと尻尾を振って挨拶をしていたので、私もそうだねと返事をして、尻尾の代わりに手を振って応えた。
その横で、クロコダイルさんが驚いた表情で私をバナナワニを交互に見つめ、ニヤリと笑うと、手をひらひらと振ってくれた。
アラバスタを出て、丸太の船でまた航海を始めたときに、ティーチがそう言えばと口を開いた。
「あのばかでかい部屋で山下と一緒にいたのは、確か王下七武海のクロコダイルだった気がするんだが、いったいどういう関係だ?」
どういう関係も何も、私はあそこで初めてクロコダイルさんに会ったのだ。
話した内容だってそう大したものではない。
だから、どんな関係にもなっていない気がするのだが、最後の別れ際にひらひらと手を振ってくれた姿が頭をよぎり、「友達のなりかけ?」と答えれば、ティーチは「ゼハハハ」と大きな声で笑った。
「あの、クロコダイルを友達に持つとは、なかなかやるじゃねぇか!」
そう言ってティーチは私の背中をバシバシ叩いた。おかけで傷口が少し開いてしまい、それを見つけたドクQにティーチは怒られていた。
今はもう姿が見えなくなったアラバスタの方を見やり、僅かな間だったが、一緒に過ごしてお喋りをしたクロコダイルさんの姿を思い浮かべ、これからルフィにボコボゴにされるのかと思うと、複雑な気持ちになった。
end