彼女は知らない
彼女は知らない
頂上戦争のあったあの日から数ヵ月後、深手をおった奴等もようやく動けるようになって、以前のように賑やかに生活をおくっている。
そんなある日、次の島が見えてきて、降りるための準備をしていると、昼頃に新聞を買ったカモメとは違うカモメが船に近付いて来ていた。
どうしたのかと見ていると、甲板にいた山下の近くに舞い降りたカモメは、山下を見上げて一声鳴くと、1通の手紙を渡した。
山下が手紙を受け取ったのを確認したカモメは、また一声鳴くと空に飛び立って行ってしまった。
山下はカモメにありがとうと、手を振り、その手紙の封を切って中を確認するが、どういうわけか眉間にみるみる皺が刻まれていった。
いったいどんな内容の手紙なのかと疑問に思っていると、山下はくるりとこちらを向いた。
「マルコ!」
俺の名前を呼んで駆け寄ってきた山下は、さっきまでの読んでいた手紙を俺の方に差し出してきた。
「手紙だな。その手紙がどうしたんだよい」
流石に山下に宛てられた手紙の中身を読んでは失礼になるかと思い、なるべく手紙を視界に入れないようにしてそう言えば、山下は読めとでも言わんばかりに更に手紙を俺の方に差し出してきた。
「達筆すぎて読めない」
どうやら読めと言いたいらしい。
字の読み書きが苦手な山下は、イゾウがくれたという辞書を使って、何とか簡単な文章や、絵本の文章を読める程度だ。活字体の文字ならなんとかゆっくりと読めるようだが、しかし、筆記体の文字はどうやら違う文字に見えるらしく、全く読めないらしい。
山下の差し出してきた手紙を受け取り、その文字を見れば、山下曰く"ミミズが這ったような字"で、確かに山下には読めそうもなかった。
待てという意味を込めて、大人しく手紙が読まれるのを待っている山下の頭に手を乗せ、手紙の内容を確認すれば、それは、世界政府からの手紙で、王下七武海の入会をすすめる内容の手紙だった。
「……マルコ?」
不思議そうに俺を見上げる山下にニッコリと笑みを向けると、山下はそれにつられてか、同じように笑顔を浮かべた。
「エース!」
くしゃりと丸めた手紙をエースの方へ放り投げれば、手紙は綺麗な放物線を描いてエースの方に飛んでいき、物が飛んできて驚いたエースによって燃やされてしまった。
「なんだよマルコ!危ねぇだろ!」
「わりぃな」
「いや、別にいいんだけどよ。それにしてもこれ、ビックリして燃やしちまったけど、良かったのか?」
そう言ってエースはしゃがみこむと、甲板に落ちた燃えカスを指先で摘まんでみせた。
「……私の手紙……」
エースがつまみ上げるそばから崩れ去っていく燃えカスを見つめ、ぼそりと山下が呟けば、エースは慌てた様子で山下に謝ると、燃えカスをどうにかできないかと思案し始めた。
「別にどうなったて構わねぇだろうよい」
「どうなったてって……山下にきた手紙だろ?」
「ああ、世界政府からな」
"世界政府"という言葉で何かぴんっと来たのか、山下を1度みて、俺と視線を合わせたエースは"まさか"という表情になった。それに対して俺は無言で頷いて、そうだと返事をした。
「いや、やっぱり燃えてよかったよ」
「ろくでもないことしか書いてかったよい。山下は読めなくて正解だ」
「……そう」
山下は俺達の言い分に納得していない様子だったが、それほど興味があったわくではないらしく、一言そう言っただけで、手紙の内容を深く聞いてくることはなかった。
それから何度か山下の元に世界政府から王下七武海への誘いの手紙が来たが、その度に俺やエース、ハルタ達の手によって処分され、そのうち新聞に山下が王下七武海の誘いを蹴ったという記事が踊ったが、すべては山下の知らない事だ。
end