ある日の出来事
ある日の出来事 朝起きて、部屋から見た空は青く、日の光が射し込む部屋は温かい。開けられた窓からふく風が頬を撫でる感覚が気持ち良くて二度寝をしそうになった。
朝食を食べ終え、今日の予定をたててみたが特にこれといってすることもなかったので、部屋に引きこもるくらいしかすることが思い浮かばなかった。しかし、折角のこれだけ天気がいいのに部屋に引きこもるのもなんだかもったいない気がして、与えられた部屋のベランダに大きめのクッションを何個か出すと、その上に寝転び先日手に入れた英和辞典を使って絵本を読むことにした。
結局は部屋に引きこもっている気がするが、気分のもんだいだ。
しばらくすると影が射したので雨でも降るのかと顔を上げれば、ドフラミンゴさんが上から私をのぞきこんでいた。
「それ、よく読んでるが気に入ってんのか?」 別に物凄く気に入っていると言うわけではないが、英語の苦手な私の読める本がこれ以外になく、ついでにいえば勉強がてらに読んでいるだけなので、気に入っているかと問われるとちょっと微妙なところだ。
そんなことを考えてその絵本の表紙をじっと見つめていると、「別にそんなに気に入ってる訳でもねぇみてェだな」と納得した様子で呟いたドフラミンゴさんは「じゃあ、これも気に入るかわかんねぇな」と言って頭をかきながら手に持っていたらしい本を見つめた。
表紙のイラストから察するに、どうやら今私が持っている絵本の続編のようだ。
「読むか?」
コクりと頷き、差し出されたその絵本を受け取りお礼を言うと、その絵本を読むために英和辞典を使い単語を調べる作業に入った。
「……なんだ?シロはワノ国の文字なら読めるのか?」
その言葉に頷くことで返事をすると、突然両脇に手を差し込まれ持ち上げらた。目線が高くなったことにおどろいていると、胡座をかいたドフラミンゴさんの太股にすわらせられていた。
「フッフッフッ……仕方ねェから読んでやるよ。ついでに読み方も教えてやる。忘れねェようにメモでもとっとけよ」
ドフラミンゴさんのその言葉に急いで部屋に戻り、机の引き出しからノートと鉛筆を取りだし、またドフラミンゴさんの太股に座り準備はバッチリだ。
「準備できたみてぇだな」
頷いて返事をすると、ドフラミンゴさんが単語を指さしながら絵本を読み始めた。
物語も後半に差し掛かり、クライマックスを迎え始めた辺りでお腹が鳴る音がした。私のではない。ドフラミンゴさんのお腹の音だ。
ドフラミンゴさんは動きをピタリと止めると、お腹をさすり空を見上げた。つられて空を見上げれば随分と高い場所に太陽が移動していた。
「そろそろ昼飯の時間だな」
ドフラミンゴさんはそう言うと絵本をぱたりと閉じ、部屋の出入り口に目をやると、まるでそうされるのを待っていたかのように給仕の女性が表れた。
「昼食の準備が整いましたが、こちらのお部屋でお召し上がりになりますか?」
「……そうだな。そうしよう」
しばらく考えた様子を見せたドフラミンゴさんがそう答えると、給仕の女性は「かしこまりました」と言って頭を下げると部屋を出ていった。
程なく運ばれてきた料理に舌鼓を打っていると、ドフラミンゴさんの手がのびてきて口元を拭われた。どうやら欲張ってホットケーキを頬張った時に、ホットケーキについていた生クリームが口を汚していたらしい。
「甘いな」
ドフラミンゴさんは指についた生クリームを舐めとるとそう呟いた。そんなに甘いだろうかと生クリームだけをフォークですくって舐めてみるが、すっかり味覚がお子様仕様になってしまっている私には丁度良かった。美味しい。
「美味いか?」
コクりと頷くと「良かったな」と言って頭を撫でられた。
食事を終え、また絵本をドフラミンゴさんに読んでもらっていると強烈な睡魔がやって来た。
仕方ない。食後は人間誰しも眠くなるものだ。
おまけに本能に忠実なこの体は、その欲求に抗えない仕様になっている。しかも、ドフラミンゴさんがお腹に回した手を一定のリズムでゆっくりと叩いて寝かせにかかっている。
ちょっと待って、私を寝かせるならソドムとハサムの冒険を終わらせてからに……。
手に握っていた鉛筆とノートがぽろりと手からこぼれ落ちた。
機嫌がよっぽどいいらしく、歌を歌い頭を撫で始めたドフラミンゴさんのダブルコンボにより、私の意識はゆっくりと沈んでいった。
ソドムとハサムがドラゴンの背に乗って空を飛び、その横を仲間になったフェニックスがゆっくりと羽ばたきながら飛んでいて、自分の産みの親を探すために新しい国に向かっていると、赤かったはずのフェニックスは青い鳥になり、その鳥の姿はマルコ隊長になった。
気づけばソドムは私になり、ハサムはサッチになって、ゴツゴツとしたさわり心地だったドラゴンは、モコモコとしたさわり心地に変わり、見ればピンク色の羽コートを身につけたドフラミンゴさんになっていた。
支えるものが無くなってしまいずるりと滑り落ちて海にどぼんと音をたてて落ちると、まるで人魚になったかのように海の中で呼吸ができた。
海の景色に見とれながら沈んでいると、三日月形の髭を生やした鯨が遠くから泳いできていた。
ぱちりを瞼を開けば星が瞬いていた。
ぼんやりとした意識で随分とおかしな夢を見ていたなと思った。
背中が暖かいのに気付き起き上がって振り返れれば、ドフラミンゴさんが私の敷き布団になっていた。どうやらドフラミンゴさんも一緒に眠ってしまったらしい。
どうしたものかと思いつつ、もう少し眠りたい気分だったので、また仰向けに寝転びドフラミンゴさんを敷き布団にすると、じんわりと背中が温かくなり、上下するドフラミンゴさんの胸にあわせてまた睡魔がやって来た。
そうしてそのまま、ゆっくりとまどろみにみをまかせることにした。