多分それはきっと

多分それはきっと

たまたまたどり着いた小さな島の反対側の港に、白ひげの海賊団の船が停泊していると小耳にはさんで、じゃあ久々にマルコや山下の様子を見に行くかと言ったうちのお頭は、 意気揚々と白ひげの船が停泊しているという港へ向かって歩きだした。
お頭を1人で敵の船に近付かせるわけにもいかず、一緒に着いて行く事にしたはいいものの、反対側の港に行くために町中を横切って歩いている途中、遠くで雷の音が聞こえた。その音で遠くの空を見上げれば、大きな黒い雲がわき上がってきていた。
「こりゃ、一雨来そうだな」
雨が降り出す前に白ひげの船にたどり着きたかったが、風に吹かれて流れてくる雲はみるみるうちに太陽を隠してしまい、激しい雷雨となって島に降り注いだ。
雨宿りするために近くにあったカフェに入れば、スタッフの声が俺達を迎え入れ、平日のためか空いてる店内を見回し、とりあえず窓際のテーブル席に着くと、オーダーを確認しに来た店のスタッフに自分とお頭のコーヒーを2つ頼んだ。
"バケツをひっくり返したような"という表現がぴったりくるほどの激しい雨は、通り雨とかスコールの類いの雨だろうからしばらくすれば止むだろう。
「いやぁ、参ったな」
そう言いながらお頭は出されたおしぼりで手を拭い、顔を拭き、ついでに濡れた髪の水気を吸わせていた。
俺はテーブルの端に置いてあった灰皿を取り寄せ、ポケットから出した煙草に火をつけようと口にくわえた。
「……あ、ベック、悪いが今は我慢してくれ」
お頭はそう言うと俺がくわえていた煙草を引き抜いた。明らかに不服そうな顔をする俺にお頭は「いや、だってこれから山下に会いに行くんだぜ?煙草臭いせいで勧誘が上手くいかなかったらどうする」と大真面目な顔で言った。
そんな理由であの山下という少女がお頭の勧誘を断るとは思えないが、1度失敗しているため、断られる理由は少ない方がいいということだろうか。
そもそもお頭がなぜあんな小さな少女を仲間に引き入れようとしているのかが分からない。確かに覇気は使えるようだし、珍しい髪色をしているが、戦い方も己の身の守り方も知らなさそうなガキだ。それこそ、東の海のフーシャ村に置いてきたルフィと年齢もそう変わらなさそうに思える。
「なぁ、お頭、何でそんなにあの山下というガキを仲間にしたいんだ?」
どんな理由があって仲間にするなんて言い出したのか気になり尋ねてみれば「だって面白いだろ?」とあっけらかんとした表情で返事が返ってきた。
「……それだけか?」
思わず頭を抱えた。別にお頭が仲間に引き入れたいと言うなら止めはしない。協力だってする。巨人だろうが小人だろうが人魚だろうがそれこそ海王類だろうが構わない。だが、山下は仲間を大切にする白ひげ海賊団のクルーの1人で、端から見て分かるほどに可愛がられていた。その山下を仲間にしたいと言うのだ。それなりの理由があるかと思えば"面白いから"では、協力もできない。
せめて大人として仲間に誘えるだけの理由があればいいのだが、何を考えているのか分からないうちのお頭は「いっそ、拐うってのもありだよな」と冗談か本気か分からないことを真剣な表情で呟き出す始末だ。
運ばれてきてからしばらく時間が経ってしまったコーヒーを口に含み一息つく。
「そんなことをしたら白ひげに殺されるぞ」
「ああ、そうだな。俺も命は惜しい。だが、山下とマルコも欲しい」
うんうんと本気で悩み出したお頭に呆れつつ、気づけば弱まっていた屋根を打つ雨の音に外をみれば、雨足はずいぶんと弱まり、遠くの方では雲から光の筋がのびていた。
雨が止むのももう直ぐだろうとすっかり温くなったコーヒーを喉に流し込めば、お頭が突然立ち上がった。
一点に集中するお頭の視線にいったい何があるのかとその視線をたどり振り向けば、雲の晴れ間から差す日の光を浴びて、その白い髪の毛を煌めかせて嬉しそうに水溜まりに飛び込む山下の姿があった。まるで山下の回りだけ空気が別物のような錯覚を覚えた。
その隣を歩くマルコは若干呆れ気味の表情だが、それでも一緒に嬉しそうにしている。
またお頭の方を見れば、まだその視線は山下に注がれているようだった。
その表情を見て、ああ、成る程と妙に納得してしまった。
「お頭、そりゃ犯罪になるぜ。せめてでかくなってからにしたほうがいい」
ニヤリと口に笑みを作りそう言えば、バッとこちらに向けた顔が慌てた表情になった。
「な……ッ!違うぞ!これはだな、アレだ!綺麗なものを見つけたときによくなる胸のときめきだ!」
「……へぇ…。ときめいっちまったのか。そりゃいよいよヤバイな」
「いや、だからな?」
そう言って椅子に座り言い訳をするお頭を見ながら、まあ、そういう理由なら応援してやらないでもないとこっそり考えた。


end

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