とんだ拾いもの

とんだ拾いもの
元ネタ


サカズキは己の執務室の片隅に置かれた檻を見てため息をはいた。
檻の暗がりからこちらを見つめる双眼は、怯えと怒りが交ざり、左右で色の違うその瞳は薄闇で輝きを放っている。
檻の中から聞こえるうなり声は、犬や狼のようだが、こちらに牙をむきうなり声を発している生き物は、犬や狼ではなく人間の少女だ。
檻に何度か体当たりしたせいか、 薄汚れた少女の体には所々赤くなったり、青く変色し箇所が目について痛々しい。
近隣の海を海賊が荒らし回って困っているという島民からの報告により、遠征に出掛けたガープがその島の帰りに立ち寄った島で見つけたという少女。
どうやら、左右の瞳の色が違うせいで親からも気味悪がられ、山に捨てられたらしいのだが、運が良いのか悪いのか、狼に拾われてそのまま育てられ大きくなり、家畜を襲ったところを島の人間に捕らえられ、処分に困っていたところをガープが連れて帰ったらしい。
己が連れ帰ったのだから、自分で面倒を見れば良いものを、今は新しく部下にした二人の新人の育成で忙しいとかなんとか適当な理由を言って、少女の世話を放棄し、たまたま本部にいたサカズキの執務室にこの少女を檻ごと連れてくると、 にあとは任せたとばかりに、逃げるように立ち去ったのだ。
サカズキは座っていた椅子から立ち上がり、部屋の片隅に置かれた檻に近づき、上から覗きこみ少女の様子を伺ってみた。
狼に育てられたせいで自分のことを狼だと思っているようで、人の言葉は解さず、四足歩行で歩き回り、その口から出るのは犬や狼のような鳴き声ばかりだ。 流石に裸のままではまずいだろうと、服を着せてみたが、服を着ることを嫌がり、折角着せてもビリビリに破いてしまったために、檻のなかには服だった残骸の布切れが放置されている。
さっきまでうなり声をあげていたのに、サカズキが近づいた途端にその威勢は成りを潜め、小さく縮こまっていた体を更に小さくし、恐ろしいものでも見るかのような目で、不安そうにこちらを見上げてきている。
もし、この少女が本当に犬や狼であれば、耳は後ろに倒れ、尻尾は股の間に巻き込まれているだろう。
しかし、入れられた檻から怯えた表情でサカズキを見上げているのは人間だ。
ならば、人として生活させるのがこの少女にとってもいいだろう。そのためにもまず、この薄汚れた体を洗ってやらなければならないとサカズキは考えた。
しかし、男である自分が少女を風呂に入れてやるわけにもいかない。
しばらく思案した結果、ウォシュウォシュの実の能力者である、つるに頼むことにした。洗う事に特化した能力の彼女であれば、この少女を綺麗に洗い上げることが出来るだろうし、洗濯した人間の心まで洗い上げてしまうその能力で、綺麗に洗い終わったこの少女の心も少しは人間に近づくかも知れない。
サカズキは檻の鍵を開け扉を開くと、その中に手を突っ込み、逃げ惑う少女の首根っこを掴み檻から引きずり出した。
唸って暴れてこちらを攻撃してくる少女を意に介した様子もなく、サカズキはつるのいるはずの執務室へ向かうと、部屋の扉をノックして中に入った。
「おや?サカズキじゃないか。どうしたんだい?……ま、だいたいの検討はつきそうだけども……」
つるはサカズキに捕まれた状態のままで、相変わらず暴れている少女に目を移すと、そう言った。
「おつるさん。すまんがこいつを洗ってくれんじゃろうか?」
サカズキがつるの方に少女をつき出せば、少女はつるに向かって牙をむき唸り声をあげた。
「ガープからだいたいのことは聞いてるよ。あんたも災難だね。わかった。ちょっとこっちに連れてきな」
どこに行くのだろうかと疑問に思いながらも、先を行くつるにサカズキがついて歩けば、たどり着いた場所は駐屯所の洗濯場所で、大人数の洗濯物をいっぺんに洗うための大きなたらいが置かれていた。
つるはその大きなたらいに水を張ると、そこに少女を入れさせ、サカズキに少女が暴れない様に押さえておくように言うと、腕まくりをして少女を洗いはじめた。
どうやら水に濡れるのが嫌らしく、初めは情けない声を上げて鳴いていた少女だったが、つるがスポンジを使って体を洗っているうちに、どうやら気持ちよくなってきたらしい。今ではすっかりリラックスした様子で体の力を抜いて、今にも寝てしまいそうな表情をしている。
「ふふふ…。気持ちいいのかい?」
つるのその言葉に少女はちらりと視線を寄越しただけで、鳴き声をあげることすらしなかった。
そこでふとサカズキは首をひねった。
つるの食べた悪魔の実、ウォシュウォシュの実の能力を使って洗われた者は洗濯ばさみにはさんで干せるほどぺらぺらになるはずだが、この少女は薄くなっていない。
「能力は使わんのですか?」
「別に必要ないだろ」
どうやら、能力を使っていないらしいつるにサカズキがそう尋ねれば、返ってきたのはそんな言葉で、わかりきった事を聞くなとでも言いたげなその物言いに、なぜ必要ないのかと再び問うことはできなかった。
少女を綺麗に洗い終わり、体をタオル拭いてやる頃には、最早抵抗すら見せなくなっていた。
「ありがとう。おつるさん」
「別に大したことじゃないよ。それよりも、これからこの子をどうするつもりだい?」
「……どう?」
どうするも何も、サカズキはこの少女をどうするつもりもない。ただ世話を任されたから世話をするだけである。それ以外もそれ以上の事をするつもりも予定もなかったサカズキは、つるの問に不思議そうに首をかしげた。
「もし、このままここであんたがこの子の世話をするのなら、一端の人間とし生活できるように教育をさせるべきだと私は思うよ。このままでいいとは思えないし、まさか犬や猫の様に扱うわけにもいかないだろう?」
そこまで言われてようやく、つるの言いたいことが分かったサカズキは、気持ち良さそうに日に当たる少女を眺めて、何度目かになるため息をはきだした。
「とりあえず、しばらくは様子を見ながらになると思ぉとります。わしも、このままで良いとは思っとりません」
そう答えたサカズキの横で、つるがポケットから煙草を取り出し、それを見つけた少女が立ち上がったのを見て、まずは2本の足で歩くことから教えようとサカズキは考えるのだった。


end

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