「そうだ、黒羽丸様! 黒羽丸様達のお母様ってどんな方なんですか!?」

半ばにじり寄るように聞いてきたなまえの目を、黒羽丸は見れない。

「母親というのは大抵、優しいのだと聞きました。若菜様とか優しくして下さいますし・・・そういう方なんですか?」

どうやら母親というモノに憧れを抱いているらしい彼女に、黒羽丸はまさか自分の母親は正月にのみ帰る夫を毎年毎年布団叩きで叩きのめしてスプラッタな光景を作っている、とは言えなかった。

「そうだな・・・怒ると怖いが、確かに優しい・・・な。カアさんは親父殿がいない間に高尾の山を仕切っているから強い。正月の時は親父殿と一緒に全員で山に帰るがカアさんには正月しか帰って来ないって全員で怒られる」

「牛鬼様も、怒るととても怖いです・・・」

「謀反の時か?」

彼女が本家預かりになるきっかけとなった牛鬼組の謀反の際、彼女は陰陽師と戦って翼を負傷していた。
はい、となまえは頷く。

「久々に本気で死ぬかと思ってたら、生き残って・・・鴆様に怒られた後牛鬼様に怒られました。もう、牛鬼様が部屋に入ってくる前から威圧感が凄まじかったです」

「それは・・・大変だったな」

牛鬼は、奴良組において年齢の分かっている妖怪の中では最年長だ。
妖怪の中には自分がいつから存在しているのか分からない妖怪も多い(牛頭や馬頭も「奴良組の傘下になるより前にはとりあえずいた」としか把握していない)から、暫定ではあるが。

その「恐らく最年長」の牛鬼が怒った相手は、高い戦闘能力と妖気の感知能力で二つ名を与えられた天狗だ。
相性的にも悲惨としか言えない。


「心配して下さったから、というのは分かっているんですが、怖かったです。こっちは身動きの取れない身体で、向こうは本気で怒っている。正直手打ちにされるかと思いました」

手打ちとは、武士が落ち度のあった家臣などを自分の手で斬る事である。

「だが、心配して怒ったのなら良いだろう」

奴良組総会において牛鬼は基本的に物静かなので、黒羽丸には怒る牛鬼が想像つかない。
母・濡鴉を代用して想像した。
幼い日に弟妹達と一緒に三人で山を探検し、池に落ちた時の濡鴉は凄まじかった。
三人で揃って風邪をひき、母が雷を落としながら看病してくれたのだ。

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