「──それで、アイツの息子が関西にいるから、お嬢は探しに行きたい、と」

 コンクリートに囲まれた殺風景な部屋で事の顛末を話したお嬢は、迷いなく首肯して所々に残る黒い血痕の跡へ視線を移した。
 五条と夏油による事情聴取という名の尋問は案外スムーズに進んだ。スムーズすぎて情報の処理が追いつかない彼らは、ようやくお嬢の数々の奇行が「恵に会ってみたい」という動機によるものだとようやく理解できたところだった。
 それにしても、探す過程で宿儺と出会ったことは百歩譲って許せるが、なぜ相談もなしに行動するのだろうか。
 これまでお嬢にしてきた束縛に近い仕打ちを思い返せば自ずと答えは見えてくるのだが、納得いかないものは納得いかないのだ。お嬢もお嬢で完全に事後報告であればなんとか丸め込めると、甚爾の件ですっかり味を占めている。
 宿儺が悠仁の出生の事情を知っていたのも驚いたけれど、まさか加茂の遠縁とは。密かに悠仁の身辺調査をしていたけれど、そこまで情報を絞られていたのなら真相にたどり着けるわけがない。
 彼らは心中で降参だと両手を上げつつも、お嬢をしっかり躾けなければならないと顔には出さなかった。

「あのさ、俺らが何で怒ってるか分かる?」
「えっと……一人で行動するから……?」

 お嬢の回答は「九割不正解」と一蹴される。

「人間は拾うなってアレだけ言ったのに! すぐ拾おうとするじゃん! しかも何ですぐ男を懐柔するんだよ! こっちはいろいろ我慢してやってるっていうのに、お嬢はイラつかせることばっかしてくるし」
「それって悠仁くんのこともカウントされてるの?」
「当たり前だろ」

 他になんだっていうんだ。五条は自分の状況を何にも理解していないように見えるお嬢に白目を剥きかけた。
 隣で夏油が長いため息を吐いた。共感を表すように五条の肩をポンと叩くと、彼女を見下ろした。

「お嬢のことだ。どうせアイツの息子も家に置くとか言い出すんだろう?」
「そんなつもりで会いたいって言ってるわけじゃないのに」
「何度も言うけど、お嬢のことが心配なんだよ。だから無闇やたらに行動しないで欲しい」

 思い立ったらすぐ行動。まるで行動力の化身のような彼女を心配する気持ちも分かる。しかし、彼女がここで頷いてしまえば自由を失ってしまう。

「じゃあ二人ともついて来てくれる?」

 彼女が出した答え。それはお得意の周りを全て巻き込んでいくスタイルで強行突破することだった。

「それなら二人も安心でしょ?」
「はぁ? だからそもそも行くなって言ってんの」

 なぜその理論で勝てると思ったのか。五条も夏油も忙しい身の上だ。そうそう仕事に穴を空けるわけにはいかないし、そもそもお嬢の好き勝手にさせるわけにはいかない。
 しかし、彼女には一発逆転を狙える切り札があった。

「ついて来てくれなきゃお見合いする」

 お嬢がそう言った瞬間、五条と夏油の顔色が面白いくらいに青くなった。

「何それ。どういうこと」
「お祖父ちゃんからそろそろ考えてみないかって言われてるの」
「あんの狸親父め……」

 保留にしている話だから嘘じゃない。まぁ、受けるつもりはないんだけど。
 心の中で言い訳をするお嬢は、敢えてそれは伝えなかった。頭がいいのか悪いのか、一つ言えることといえば、彼女がこの二人に手綱を握られているようで、完全に握っている側ということだった。
 夏油が聞いてないと漏らせば「言ってないもん」と平然と答える彼女。良く言えば肝が据わっていると言えるし、悪く言えば図太いとも取れる。

「それでどうするの?」

 彼女はにこやかに問う。勝者の笑顔だった。

「行くからお見合いだけは絶対しないで……‼︎」

 そう答えるしかない二人を連れて地下室を出る。どっぷり日が沈んであたりは真っ暗だった。
 お嬢の前に地下室へ連れ込まれていた灰原と七海は彼女を心配してか、地下室の扉の外で待っていた。

「お嬢、一体何をしたんです……」
「え? 特に何も。おしゃべりしてただけだよ」

 お嬢の手口は完全に脅迫だったけれど、彼女が自覚しているわけがない。
 ひし、と彼女にしがみついている男二人に対し、七海は「絵面……」と呟いた。

「あと近々関西に行くことになったから、その時は……」

 灰原と七海の顔を順に見ながら、そう言いかけた彼女は「そういえばトウジは?」と問う。すると二人は気まずそうに顔を見合わせた。

「それが……」
「宿で見失って以降、見ていません」
「帰ってきてないってこと?」

 頷く彼らに、お嬢はただ「そっか」と零す。

「いいだろ別に。もともとはここに居るべき奴じゃなかったんだから」

 厄介なのがいなくなってよかったと、五条は投げやりに言う。
 この言葉にお嬢は何も言わなかった。怒っているわけでもなく、悲しんでいるわけでもなく、ただ前を見据える。
 七海や灰原、ましてや五条や夏油までもが、今彼女が何を考えているのかまるで読めなかった。






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永遠に白線