一、心魂開闢 壱
──鬼から生み出されたものは、一体何になるのだろう。
私の主は鬼だった。
いつからそう呼ばれていたのか、遠い昔のことのようにも思えたし、つい最近のことのようにも思えた。ただ、人々は天変地異に等しいその強大な力を前になす術もなく、人智を超越した存在──まさしく鬼神≠セと恐れ慄いていた。
呪いによって形を成した、決して逆らうことのない従順な下僕。主命のために存在し、使役され、役目を終えれば消え失せる、意思など持たぬただの道具。
そのはずなのに、私は何故かひたすら考える。考えてしまう。物としか呼びようのない存在だというのに、私は一体何であるのかと、名前のない自分自身を知りたいと、湧き上がる疑問を、円滑に回るこの思考を、どうしても止められない。
「何をしている」
沈み込んだ思考が打ち消された。我に返り、振り返る。背後には、私を使役する主、宿儺様が立っていた。
母屋から続く廊下の真ん中で立ち止まっていた私は、彼の邪魔だと言いたげな視線に隅の方へ身を引いた。
「……申し訳ありません」
宿儺様はそのまま通り過ぎるわけでもなく、その場から動く気配がなかった。ぬ、と伸びてきた大きな手。床の木目を凝視していた私の下顎を掴み上げ、乱暴に前を向かせた。
四つの目に射抜かれる。視線が交わるその静寂は、焦りへと変わった。威圧的な眼差し。それはまるで、私の胸の内を炙り出そうとしているようだった。
見透かされるわけにはいかない。ただの物であるべき私に、意思が、心が、宿ってしまったことを。心があると惑う。一瞬の気の迷いが命取りになるかもしれない。
ただ命じられたままに、何も疑問も持たず従えば事足りる。今までだってそうしてきたのだ。それを宿儺様も望んでいるのだから、無機物な道具に徹さなければ、私の存在意義が無くなってしまう。
頬に鋭利な爪の先が食い込んだ。身じろぐことはしない。物であれば、何も感じないはずなのだから。
そのまま耐え忍ぶと、皮膚が貫かれるすんでのところで手放された。与えられた爪痕がジリジリと熱をもって叫んでいる。私は痛みの声に気づかなかったふりをして、変わらず彼を見上げていた。
「ついて来い」
宿儺様は興味が逸れたかのように、前を向き歩き出した。
視線から解放されたことに、私はそっと胸を撫で下ろす。はい、と小さく呟いて、彼の後ろにつく。視線は下へ。彼の脚の先だけを見つめ、歩き出した。