そばにいるよ #09


それはセンセーショナルな出来事だった。
靖友のヤンキー時代を知る生徒の間では、正しく激震とも呼べる出来事だった。

あの、荒北靖友が、女の子を、連れている。

しかも、手を繋いで。

そしてその相手が折原律であるという事実に、激震は音速並みの速さで拡がったのである。好みの女子は?などというボーイズトークに割りと名前の上がるあの折原律である。美女と野獣を地でいくカップルの出現に誰が驚きを隠せようか。

いや、隠せまい。

そう、ここにも驚きを隠せない男子集団が居た。靖友の部活仲間である。

福富はピシリと固まり、東堂はあんぐりと口を開き、新開は手にしていたパワーバーを口にすることなく床に落とした。食堂の床である。本日のAランチ(焼き肉定食ちなみに大盛り)を目の前にして何故パワーバーを食おうとしていたのか。相変わらず新開の胃袋はブラックホールだが、それを驚かなくなるほどには靖友と彼らの付き合いは深くなっていた。

「……靖友、その子は?」
「アァ?…アーー、オレのカノジョの折原律。律、こいつら部活のダチ。福チャンに新開に東堂」
「東堂くんは知ってるよ。同じクラスだし」
「アー、そーいやそーだったな」

(そーだったな、じゃねーよ!)

新開のツッコミが言葉になることはなかったが、福富はフリーズしたままだし、東堂は何かに打ちひしがれているしで使い物になりそうにない。事実究明には自分が会話を続けるしかないだろう。

「…靖友、おめさんに彼女がいたなんて知らなかったよ」
「言ってネーし」
「でも、ほら、そういう素振りも無かったしさ」
「……アー、ロードに集中するンで、ちっとキョリ開けてたかンな」

何気ない風を装って言葉を投げたが、靖友は新開の質問にイヤな顔ひとつせず淡々と答えている。こういう会話は苦手そうなのに、もしかしたら彼女を連れて歩くことの弊害として割り切っているのかもしれない。

「で、どこで知り合ったんだ?」
「ヨーチエン」
「……は?」
「だから、ヨーチエン。…幼馴染みだから、コイツ」
「……へ、へー」

そんな会話を繰り広げながら、靖友は焼き肉定食(新開と同じく大盛りだった)の皿からピーマンを抜き取って、彼女の焼き魚定食(本日のBランチ)の皿にヒョイヒョイと乗せていく。

「靖くん、好き嫌いはダメだよ」
「ピーマンきらーい」
「アスリート?は、身体が資本でしょ」
「ナンでソコ疑問形なワケ?」
「何となく。ってゆーか、靖くんてアスリートなの?」
「知らネー。つーか、イイから食えよ」

(誰だよ、お前!)

やはり新開のツッコミは言葉になることはなかったし、福富は未だにフリーズが解けていないし、気がつけば東堂は窓側の席に移動して黄昏ていたので、本当に肝心なときに使い物にならねーな!と新開は思ったが、何しろ昼休み終了の時間も迫っていたのでとりあえず焼き肉定食に意識を向けることに専念したのである。


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