コブシの花が散り、山桜の葉が茂りだす。入れ替わるように色とりどりのツツジが咲き始め、一気に華やいだ雰囲気になる。この時季の箱根は賑やかの一言に尽きる。三色団子とお茶でも持って、中庭でのんびりするのも悪くない。うん、妙案だ、皆を誘ってみよう。そんなのどかなGW明け、すっかり待つことに慣れてしまった律の元に1通のLINEが届いた。 待ち焦がれた懐かしい名前を伴って。 『いつもントコ』 そっとスマホのディスプレイを指でなぞる。彼らしい素っ気ない6文字が愛おしい。 そわそわと落ち着きの無い彼女に友人達は何事かと訝しがっていたが、今はナイショだ。後でちゃんと報告するから、今はナイショにしておきたい。 慌ただしく夕食を終え、逸る気持ちを抑えながらもお風呂は念入りに。挙動不審なのは分かっているが律にはこれ以上気持ちを押さえておくことなどできなかった。 だって、戻って来てくれることに疑いは無かったけれど、こんなにも待ち望んでいたのだから。 いつもの消灯前の時間、いつもの女子寮の非常階段下。待ち人はベプシを片手に立っていた。 部活に励んでいる姿は遠目に見ていたが、こんなに間近で靖友の姿を眺めるのは本当に久しぶりだ。1年と7ヶ月、いや8ヶ月ぶりだろうか。 (背、伸びたかも) 変わったのは背丈だけではないようだ。相変わらずの細身だが、以前はひょろりと線の細い印象だった体つきも少しガッシリしたように見える。でも、ちょっと猫背気味なのは変わっていない。 「ちっと遅くなったけど、戻って来たヨ」 「……うん、待ってたよ」 「…ただいまァ」 (……おかえり、靖くん) やはり彼女の知る荒北靖友という男の子は約束を破らなかった。 感慨に耽る暇もなく力強い腕に抱き寄せられる。 頭を預けた胸の厚さも、回した腕に感じる背中の広さも、全て靖友が努力して手にしたものに違いない。 その全てに包まれている。その全てに触れることを許されている。 靖友の気がすむまで抱き締められていよう。だけどその後は、約束を守ってくれた靖友にありがとうの気持ちを込めてキスを贈るのだ。1年と数ヶ月ぶりの2度目のキスもきっと涙の味になってしまうけれど、でも嬉し涙だから多目にみて欲しい。 そうして再会を果たした夜、いつかの夜と同じように指先を絡めあった二人は、そっと2度目のキスを交わすのだった。 |