それからの過酷な日々は予想以上だった。 前を向け、脚を回せ。人の3倍の練習をしろ。 容赦のない練習メニューを言い渡され、自分を引き入れた福富ですらおよそ自分の味方とは思えない。 煙たがられても疎まれても、靖友は前を向き、脚を回し、人の3倍の練習を続けた。 それだけが、今の自分にできる事だったからだ。 それしか無かったからだ。 そんな靖友にも転機が訪れる。 訳もわからず走らされた二ノ宮ロードレース。結果こそリタイヤだったが、このレースにより靖友のメンタルは大きく成長を遂げたのだった。 そして迎えた真鶴周回ロードレースでは、福富のアシストを得て誰よりも速くゴールラインを駆け抜けたのである。 前を向け、脚を回せ、人の3倍の練習をしろ。 桜が咲き、2年に進級し、桜が散る。 新緑の淡い緑が濃い色に移り変わっても、靖友はひたすらペダルを踏み続けた。 ロードを始めて1年。福富とコンビを組んだ靖友は、晩秋を迎える頃にはエースアシストとしての地位を揺るぎないものとしていた。 |