そんな小さな変化:青学の場合(side:越前)
梅雨の空気は湿気を含んでいて、蒸し暑く重い。少し動いただけですぐ汗が滲む。顔を伝った汗を袖でぐいっと拭い前を向くと、ネットの向こうで大きくジャンプした桃先輩の姿が目に入った。直後叩き込まれる鋭いダンクスマッシュは、一瞬目を離した隙に俺のコートに突き刺ささり、ほんの少し対応が間に合わなかった。
「っしゃぁーー! 決まったぜ!」
「……ちぇっ」
ちら、とスマッシュが当たった地面を見てみると深々と土が抉られていて素直にびびった。なんという威力だ冗談じゃない。
……うっかり当たったら気絶だよね。危ない危ない。
そういえばついこの間の大会でも被害者が出ていたな。いくら偶然が重なったとはいえアレには驚いた。ボーっとしていたら当たるかもしれない……気をつけよう、と俺は心の中で気を抜きかけた自分に注意を入れる。そのままふと顔を上げると、ラケットを軽く降りながら「さっきのはもうちょい角度を変えて……」と桃先輩が一人思案顔をしていた。スマッシュが決まったのだからもうちょっと喜ぶなり何なりするかと思ったのに。
もう一度スマッシュの痕跡に目を向けると、ここ最近でその威力が上がったことがよく分かった。この前から桃先輩はめきめきと成長しているというか、うっかりしていると先程のようにスマッシュを決められてしまう。
俺がレギュラーとったから焦ってる……とか……ないな。どーせ桃先輩の事だから大会始まってテンション上がってるだけだよね。
「桃先輩ー。早くサーブ打って欲しいッス」
「おぉっ、わりーな越前!」
そう言ってにこやかに打たれたサーブを、事も無げに返す……が、思ったより球が重い。やっぱりなんか色々威力が上がりすぎである。
そして桃先輩だけならまだしも、不二先輩や乾先輩も都大会から、というか思い起こせば地区大会終わった辺りからやる気がハンパない気がする。そんなことを考えつつ、桃先輩との練習試合を終えて隣のコートを見てみると、不二先輩が爽やかにスマッシュを決めたところだった。
……このクソ暑い中、先輩達何であんなに元気なんだろ。歳の差? いやそんなに歳の差があるわけじゃないし……やっぱりやる気の問題?
一人で悶々としていると、英二先輩が嬉々として「菊丸ビーム!」と叫ぶ声が聞こえてきた。そういえば英二先輩も例にもれず最近調子が良い。ますます、訳が解らない。この4人の共通点って何だ。いや、色々あるだろうけど、どれもしっくりこないのだ。
まあでも、考えてみたところで答えには辿り着けそうにもないし、何せ相手には不二先輩と乾先輩がいるし、周りが強くなるのは自分にとっては嬉しい事だ。
また色んなテニスが倒せるって事だしね。
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべ俺は前を見据えた。
俺だってまだまだ強くなってやるッスから。
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