女神と都大会13




梅雨にも関わらず、程よく晴れた都大会後半戦当日。
何故か私は生まれてこの方、初めて"ナンパ"というものを経験しました。…というか、現在進行形で経験しています。都大会決勝戦を観に行くために降りた駅で、突然オレンジ頭のお兄さんに捕まってしまったのだ。(派手な頭ですね)
へらり、と人受けの良さそうな笑みを浮かべてオレンジ頭さんは私の行く手を阻んだ。

「ね〜、キミ可愛いね!これからどこ行くの?」
「え…と、都大会の決勝戦…ですが…。」
「えっ、本当!?俺も今から都大会行くんだ!君と行き先が一緒なんてラッキー!ねね、一緒に行かない!?」
「いっいえ、あの、一人で大丈夫なんで!」
「つれないこと言わずにさぁ〜。」
「でもえっと、知らない人にはついていかないように言われてますし!」
「君面白いね〜!んー…そっか、じゃあ俺のこと知ってもらえば良いんだ。俺は山吹中3年の千石清純、今日の都大会決勝戦に出場予定のレギュラーだよ!」
「は、はあ……。(逃げ場がない…!)」
「キミの名前は?」

じっと見つめられて、返答に困った。
(千石さんが悪い人だって思う訳じゃないけど…)

多分、心の底から拒絶すれば彼は諦めてくれるのだろう。ナンパしつつもその辺りの距離感が測れる人なんだろうなとは、なんとなく解る。だったら拒絶すれば良いじゃないか、という話になるのだが……。
何故か、さっきから千石さんの放つオーラが真剣そのものなのである。(めっちゃ見つめてますね千石さん…!?)
簡単に断れないじゃないですか最初のへらっとした雰囲気どこいったんですか!とパニック状態の心を静めつつ千石さんを見れば、彼は困ったように表情を変えた。

「ごめんね、キミが本当に嫌なら断ってくれて良いんだよ?」
「あ……、え?」
「俺ね、可愛い女の子見つけるとすぐ声かけちゃうんだ。」
「はあ。」
「でもその子が本当に困るようなことはしたくないの。…って、ナンパ男が何言ってるんだって思われるかな?」
「い、え……。(やっぱりちゃんと考えてる人だったんだ…)」
「でもさっ、どーせ行き先同じなら、2人の方が楽しいからさ!」

俺と一緒にどうかな?
と優しく手を差し出した千石さんに対する警戒心は、いつの間にか薄れていた。
故に、私はそっとその手をとってゆるりと笑う。

「……!」
「そうですね。私も楽しい方が良いですし、道をあまり覚えてないので一緒にいてくださると助かります。」
「え…じゃあ一緒に行ってくれるの!?」
「はい、お願いします。」
「俺ってばラッキー!じゃあ改めてキミの名前を訊いても良いかな?」
「一条美里、…単なる中学2年生です。」

さらりとそう告げれば、千石さんは一瞬驚くように目を見張ったあと、雰囲気を察してニコリと微笑んだ。

「じゃあよろしくね、美里ちゃん!」
「…よろしくお願いします!」

何も訊かなかった代わりか、千石さんは繋いだ手に少し力を込めた。
(やっぱりこの人…優しい)


*****

「へぇー、じゃあ美里ちゃんは青学の不二クンに誘われたんだ?」
「はい、でもミーティング等の関係で一緒に行けないって言われて。(そういえば不二さん、私が1人で行くこと物凄く渋ってたな…)」
「だから1人で駅にいたんだね。(そんな美里ちゃんを発見できて、やっぱり俺ってばラッキー!)」

あれから、私の荷物(差し入れのドリンク)を半分持ってる千石さんと手を繋ぎ、無事に会場までたどり着けた私は未だに千石さんと一緒にいます。
(だって不二さんいつミーティング終わるか言ってなかったし……)
千石さんの話によればわりと早く準決勝戦が始まるそう。
(いま行くとアップとかあるしお邪魔かもしれないな…)
と、思った私を見透かしたのか千石さんは会場についた瞬間「まだ美里ちゃんと一緒にいたいなー!」なんて言い出し私の手を離してくれなかったので、こうなってます。

「でもそれじゃあ美里ちゃんは青学の応援に来たの?」
「青学だけってわけじゃないんですけどね。氷帝とか不動峰とか、聖ルドルフも応援してますよ。」

色んな人と知り合いなので…と、ふふっと笑うと千石さんはニヤリと呟いた。

「じゃあ俺と知り合ったから、山吹も応援してくれる?」

どこかしら楽しそうに、けれども半分真剣なその目は逸らせないもので。
きょとんとなりつつも、私は少し微笑んだ。

「山吹中が面白い試合をしてくださるんなら、応援しますよ?」
「(なるほどねぇ…一筋縄ではいかない、か…。そんなとこも惹かれるな)…うん、じゃあ美里ちゃんのお目にかかるような試合にしてみせるから、」

そこまで言って千石さんはズイッと私に顔を近づけて至近距離でニカっと笑った。

「楽しみにしててね!」
「…はい、楽しみにしてます!」

(うわぁ…また面白いテニスが見れるのかな?)

そんなこと言われた私は今からうきうきしてしまった。そんな私を見て、千石さんは一瞬言葉を詰まらせた後、「任せて!」と更なる笑顔をくれました。(何故か相変わらずの至近距離で)
そして暫くしてコートに着くと、千石さんはわざわざ屈んで、視線を合わせて私を見つめた。

「それじゃあ、美里ちゃん。俺今から試合だから…近くで、見ててくれると嬉しいな。」
「ええ、もちろんです。試合頑張ってくださいね!」

にっこりと笑顔を浮かべて千石さんを送り出し、私は山吹サイドのフェンスに佇みました。


(…っていうかいつ不二さん達と合流すれば良いんだろう……)
若干の不安を残しつつ、都大会後半戦は開幕しました。



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