君味に染まった(side:丸井)
甘ったるいものが好きだった。
それに特に深い理由とかはなく、ヘトヘトになるような毎日の部活の癒しにはやっぱ甘ったるいもんだろぃ! みたいな感覚で好きだった。おそらく人よりも甘いものをよく食べると思うし、少し、その、体型の方もスリムとは言いがたい自覚はあるのだけれど、あまり気にしない。好きなものは好きだ。以上。
コートの外で黄色い声援を送る女子たちは、毎日のように「差し入れです!」と言ってお菓子をくれる。そのお菓子は甘ったるいものばかりで、幸せではある。が、食べる度に、俺が甘ったるいの好きって情報でも出回ってんのか? という気分になる。というかどこで知ったんだ、あの女子たち。だって他校の女子からの差し入れも甘ったるいんだぜ。どうなってんだ。
話は少しそれたが、まあ、だから。
初対面で美里のクッキーを食った時、久々のサッパリとした甘さに驚くと同時に、素直に美味いと思った。あと俺がお礼を言った後の笑顔がとても可愛かった。あいつ笑うと可愛いんだよな。
彼女は簡単なお菓子なら作れるそうで、俺の弟達と遊ぶ度に何かしら作ってきてくれる。その場に俺がいなくても、俺の分まで作ってくれる。気が利く良い子だ。ちなみに作ってくるお菓子は別に見た目がすっげぇキレイとか、味がプロ級にうまいとかそういうわけではなく、ただただ、素朴。しかしながら丁寧に気持ちを込めて作ったんだろうな、というのがよく伝わる出来栄えや味なのだ。
だからわりと美里のお菓子は好きだし、食べる機会もそれなりにあるわけだけど、よく思うのは。
「美里が作るお菓子ってどれも甘さがちょうど良いんだよなー……」
と、今回作のマドレーヌを口に含みつつ、ひとりごちた。そう、思わず口から出た完全な独り言だ。甘過ぎず、素っ気なさ過ぎずって感じで今回もとても美味しい。一度食べたらその絶妙な甘さ具合にハマる。
それはまるで、作る本人の魅力のようで。
もう1個、と俺は無意識にマドレーヌに手を延ばした。
*****
「美味しいケーキ屋を見つけた」とか、「ケーキバイキングの割引券あんだけど」と言うと大抵の女子は付き合ってくれる。その対応は、その辺の女子とは違う反応ばかりとる美里も同じで、よく付き合ってくれる。その辺の女子は俺の目を気にしてか、チマチマ食うから何つーか居心地の悪さが残るんだけど、美里は好きなものはパクパク食べるから見ていて気分が良いし、連れてきた甲斐がある。
そんな訳で、最近のマイブームは美里と甘いものを食いにいくことだし、今日も今日とて一緒にケーキ屋に来ている。夕方の部活が終わった後にでもどう? と呼びだしたら、あっさり「行きます!」と返ってきてこうなったわけだが、こいつはいつも暇なんだろうか。毎度反応が良すぎて他に友達はちゃんといるのか少し心配になってきた。そんな俺の心配もつゆ知らず、美里は店の前に現れた俺に、にっこりと笑い、律儀にお辞儀をする。
「今日も誘ってくださってありがとうございます」
なんだろう、それだけで部活で荒んだ心が浄化された気がした。
「こっちこそ毎回毎回付き合ってくれてサンキューな」
「いえ、ブン太さんオススメのケーキ屋さんはいつも美味しいので、毎回楽しみにしてるんですよ」
「それなら良かったぜ」
ニコニコと笑う彼女は媚を売るような喋り方ではなく、本日もとても爽やかだ。きっと本当に楽しみにしていたんだろうということが伝わってきて、こっちも嬉しくなる。そんな他愛ない話をしつつ店に入り、ケーキを待っていると10分程度で運ばれてきた。俺は5つで、美里は3つ。紅茶は2人で分け合うことにしている。
つーかそもそも、その辺の女子はケーキ1つ2つしか食わねぇよな……。
なんとなくそんな風に考えていると、不意に美里と目が合った。彼女は俺の考えを察したのか、少し目を泳がせる。なんだよそれ、面白れぇ反応だな。そして意を決したように俺に訊いてきた。
「食べ過ぎですかね?」
「でも好きなんだろぃ?」
「ええ、全種類食べたいくらい、大好きです」
そんな可愛い顔して大好きとか言うなよ、心臓に悪ぃ……。
ケーキに対する「大好き」なのは十分理解しているが、非常に心臓に悪い。思わず黙ってしまうと、不思議そうに顔を覗き込まれてしまった。
「ブン太さん……?」
「っ、別に、良いと思うぜ。美里は細いし、むしろもっと食うべきだろ」
「そ、そうですかね?」
「それにな、食うことに遠慮しすぎる奴は好きじゃねぇし」
「それなら良かったです」
ホッとしたように美里が呟いたのをきっかけに、いただきますと手を合わせて2人で食べ始めた。さっそくケーキを口に入れると、独特の甘さが口の中に広がり……。
……って、甘ぇえええ!!
思わずびっくりしたような表情をしてしまったと思う。実際俺はびっくりしている。そのくらいには甘かった。
だって、いや、不味くはねぇんだけど……甘……すぎね?
あまりにもの甘さにしばらくフリーズしていると、美里の「あま……」という小さな呟きが耳に入った。それを聞いて、とっさに顔を上げる。
「やっぱり甘い、よな?」
「え、は、はい」
「俺もな、その……不味くはねぇんだけど、甘ったりーなって感じてよ」
「はぁ……って、え!?」
「? 何そんなに驚いてんだ?」
「だって、ブン太さんついこの前まではこのくらいの甘ったるさがお好きでしたよね……?」
「そうか?」
「最初の方は甘ったるい系のお店がブン太さんのオススメでしたから……」
「あー……そういやそうだったな……」
そっか、前はこのくらいの甘ったるい系の店ばっか行ってたから当然、そうなるか。
そういえばこの店を教えてくれたのはクラスの女子だった。俺が甘党と知ってこの店のチョイスか、と納得する。まあ、最近は美里オススメのフルーツ系にハマっているわけだけれど。
「俺、味覚変わった?」
ポツリと呟くと、不思議そうに「そうなんですか?」と首をかしげる美里が目に入った。彼女の頬っぺたには、お約束かのように張り付いた、タルトのかけら。
「付いてるぞ、」
と笑いながら指で掬って自分の口に含むと、タルトのほうは程よい甘さだった。クリーム系が甘ったるいんだろうな、この店は。
そこで、はた、と気づく。
ああ、そうか……美里の甘さに慣れてしまっていたのだ、と。
答えを見つけて少し笑う俺に、彼女は不思議そうにしつつも、とても綺麗な表情で笑みを浮かべた。
「でも、ブン太さんと食べているとどんなケーキも美味しく感じるんですよね。ブン太さん、とっても美味しそうに食べるから私も美味しくなるんです」
そう言う彼女に一本取られたと思いつつ、「それはこっちのセリフだぜぃ」と小さく呟いた。
いつの間にか君の味に染められていた。でもそれが嫌じゃないなんて、大概俺も 、 "ハマってる" 。
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