たまには、私から
この間の都大会から気になっていることがある。と、いうか心に突っ掛かっているというか。まあ、言うまでもなく。
宍戸さんのことなんですけどね……。
はあ、と息を溢して携帯を開いたり閉じたりを繰り返す。都大会の日以来、宍戸さんから連絡はないし道端で会ったりもしていない。だから喧嘩別れみたいなことになったままなのだ。これは非常に由々しき事態だ。お母さん的ポジションの宍戸さんと絡めないのは精神的に苦しい。というか、寂しい。かと言ってこちらから連絡するのは無神経な気がする。この前言いたい放題言ってしまったので気まずいのだ。じゃあ、どうすれば良いのさ! と頭を抱えたところで閃いた。
あ……跡部さんに相談してみれば良いのでは……?
跡部さんは氷帝学園テニス部の部長さん、ということは宍戸さんについてを話すのにはもってこいの人材ではないか。閃いたと同時に私は携帯を開き、跡部さんに電話していた。
今はちょうどお昼休みだし、でてくれるよね。
仮に用事があるならハッキリそう告げて切ってくれる跡部さんなので、電話するのにあまり躊躇わなくてすむのはありがたい。そんな風に考えつつ、携帯を耳元に近づければ。
『アーン、美里か?』
それほど待たずして、やけに嬉しげな声色のお決まりの台詞が耳に飛び込んだ。
「はい、跡部さんこんにちは」
『お前から電話してくるなんて珍しいじゃねぇの』
「少し、相談事がありまして。あ、その前に都大会お疲れさまでした」
丁寧に告げると、少し苦笑混じりの言葉が返ってくる。
『俺は何もしてねぇけどな』
「都大会はまだ5位決定戦が残ってます。……跡部さんはそこで活躍するんでしょう?」
『分かってんじゃねぇか』
笑みを織り混ぜると、くくっと跡部さんも自信ありげに笑っていた。
『で、何があった?』
「へ?」
『相談事があるんだろ』
「あ……ああ、そうでした」
『自分で電話しておいて忘れてんなよ』
「いやぁ……ははは」
『ったく。俺はお前の声にいつもみたいな明るさがねぇから、心配してんだぞ。分かってんのか』
跡部さんもお母さん的ポジションだった……!?
『……おい、美里?』
「あ、えっとご心配ありがとうございます! でもよく分かりましたね」
『フン、お前の声から調子を見抜く事ぐらい朝飯前だ』
「超能力、ですか?」
『真面目に聞き返すな! 感が良いだけだ。……まぁ、お前の声はよく聞いてるからな』
「はあ……、まあよく電話しますからね」
『そっちじゃねぇ! 注意深く聞いてるって意味で……、あぁもういい、さっさと話してみろ』
「あ、でも跡部さんは今、お時間大丈夫ですか?」
『大丈夫だ。さっき昼休みに入ったばっかだからな。お前との電話以上に優先すべきこともねぇし』
「それなら良かったです。えーと、跡部さん、宍戸さんって方をご存知ですか?」
『俺に訊くってことはテニス部の、宍戸亮のことか?』
「ええ、その人のことです」
『というかお前、宍戸と知り合いだったのか……!?』
「知り合い……まぁ、そんな感じです」
『そうか、それで宍戸がとうした?』
「実はですね……、」
さらっと出逢いを話して、本題のこの前の都大会の話も口にする。試合後に宍戸さんに会ったこと、ついキツいことを言ってしまったこと。それから連絡をとっていないこと、これからも私から連絡すべきではないのだろうか、ということなど。跡部さんに直接関係しているわけではないどころかむしろ、半分くらい私のワガママな話なのに跡部さんは時々相づちを打ちつつ、真剣に聞いていてくれた。
そしてある程度の事を話し終え、ふぅと小さく一息つくと跡部さんは納得したように『なるほど』と呟いた。
「え、あの……跡部さん?」
『とりあえず、お前の言ったことは間違ってねぇ。あの負けは完全に宍戸の油断が招いた結果だ』
「でも……」
『それに、どうせお前のことだから言えることは言い切ったんだろ』
「……はい」
『だったら後悔してんじゃねぇよ。宍戸もお前を悲しませたくてそんな態度とった訳じゃねぇだろうし』
「……はい!」
そうだ、宍戸さんだって私を傷つけたかった訳じゃない……。
そう思うと少し前向きな気分になれた。私の声色からそれを感じ取ったのか、跡部さんは安心したように優しく続ける。
『それに、美里が言ったとこは無駄じゃなかったと思うぜ』
「え……?」
『普通、試合に負けてレギュラー落ちした奴は落ち込んでテニスに向き合えなくなる。退部する奴までいた』
「そんなに厳しいんですか……」
『それが氷帝のルールだからな。まあ、それなのにアイツは……宍戸は、目が覚めたかのようにテニスにのめり込み始めた』
「…………!」
『まるで、レギュラーをもう一度奪い取る勢いで遅くまで自主練もしている』
「で、でも、レギュラー復帰は……」
『ああ、前例はねぇな。ただお前が言ったように、だからと言って不可能な訳でもない』
「必要なのは……貪欲に上を目指す心、だからですか?」
『正解だ。負け犬の目をした奴なんざ要らねぇからな』
だから、とふっと柔らかく笑って私に言い聞かせるかのように跡部さんは言う。
『お前が落ち込む必要はねぇよ。……また宍戸が這い上がってきた時に備えて笑顔の練習でもしておけ』
「あ、とべさん……!」
跡部さんも宍戸さんが這い上がってくる可能性を失ってないんだ……!
優しすぎる跡部さんに、少し目が潤んで声が震えた。そんな私を見透かしてか、跡部さんは『フン』と満足げに笑っていた。
『ところで、さっきから宍戸宍戸って俺の心配や応援はしてくれねーのか、アーン?』
少しして涙目が少し収まった頃に、拗ねたように跡部さんがそう呟くものだから、私は見えないと知りつつも大きく笑顔になった。
「そりゃあ跡部さんも応援してますけど、跡部さんはサラッと勝っちゃいそうなんですもん。私の心配なんていらないでしょう?」
ときっぱり返すと、一瞬の間を置いてから『くははははは!』と跡部さんの笑い声が電話から響いた。
『そうか……そうだな』
「はあ……」
『そうだ俺様に心配は不要だ。必ず勝つからな』
そんな自信満々に言われたら。
「信じてますよ。氷帝学園の……跡部さんの、勝利を」
つい賭けてみたくなるではないか。その自信に。
跡部さんが『任せろ』と力強く呟いたところで、チャイムが鳴った。
「あ、チャイム鳴っちゃったんでそろそろ失礼しますね。跡部さん、相談にのってくださってありがとうございました! 元気でました!」
『ああ、また困ったことがあったらいつでも連絡してこい』
やっぱりお母さんみたいだ……! 跡部さんはとても優しい。
「はい、ありがとうございます」
『じゃあまたな』
「失礼します」
ピ、と電話を切って足取り軽く私は教室へと駆け出した。
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