きっかけ
確かに頭の中で声が響いた。
それを無かったことにしてしまうのは、何となく、惜しい気がしたんだ。
とっさに周りを見渡すが今は授業中で誰も喋ったりなんかしてない。何だったのだろうと考えてみたところでよく解らないので、とりあえず手から転げ落ちたシャーペンを拾って握る。やっぱり幻聴だったのだろうか。誰も喋ってなどいないのに、声など聞こえるはずがない。そう思った矢先、強い痛みが頭を襲った。
誰かの〈声〉が頭に響いて脳内を埋めつくす。
ーつまらないー
ー苦しいー
ー面倒くさいー
ー辛いー
ー嫌だー
ー嫌だー
ー嫌だ…
誰……っ? 誰の声!? 何なのこれ!! 痛いっ、頭痛いっ!!
” はぁ……こんな世界消えれば良いのに ”
……この、声、私……?
” ねえ、ほらあなたもそう思うでしょう? ”
私……?私は……?
” 似てるもの。一緒だもの。だから、そう、思うでしょう? ”
私も、思う……?
” そう、こんな世界 ”
ーーこんな世界もう嫌ーー
声の主が笑ったような気がした。
” だから、かえっこしよう? ”
軽やかに笑うかのように、楽しそうに、そう彼女はささやいた。
その瞬間、強い力に意識が引かれて、私は思わず目を閉じる。まるで風の中に取り込まれるような感覚で体が浮いている気もする。突然のことに、思考回路が追いつかない。
本当に何なの? いま授業中じゃなかったの!?
吹き荒れる風の中、落ちていく感覚の中で聞こえたのは、
『さぁ……繋がった。お試し期間は1ヶ月差し上げよう』
という謎の男の声だった。
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