電話のヒント




何事も無かったかのように日常を過ごすのはわりと簡単だ。
人間は要領オーバーになると、考えるのをやめるように出来てるんじゃないかと思う。そんな私は今、桃香ちゃんと一緒にいつものように食堂でご飯を食べている。パラレルワールド疑惑が浮上しているのに我ながら呑気なことだ。


「でっさー、もう島村君ちょーかっこいいのぉ! 今度応援に……ってこのデザートすっごい美味しくない!?」
「うん、桃香ちゃんテンション高いね」
「だってぇ、もうすぐ中学テニスの地区予選始まるだもん! 島村君の応援に行けると思うと嬉しいの!!」
「中学テニスの……それは、良かったね。上手くいくと良いね」
「ありがとお、美里! そうそれでね、その大会なんだけどぉ……」

と桃香ちゃんが語り始めたので私は思考復活を目指す。

それにしてもテニス、か……桃香ちゃんテニスに興味あったんだ? 知らなかったな〜。

この世界は私が元々いた世界と一緒のようで違っているみたいだ。例えば桃香ちゃんの興味の対象とか、学校の雰囲気とか、あとは見た目のこと言えば制服だとか、その他もろもろも。

でも性格は変わらないのに興味の対象は変わってるみたいだけど……わけ分かんないなぁ。

ギブアップを出したところでちょうどチャイムがなってくれたから食堂を退散することにした。でも絶対授業集中できないよなぁ……サボるか。この超体験(?)に遭っているのだ、そのぐらいは見逃してほしい。だいたいこんな心境で授業なんか受けたくないし、受けられるはずがない。

思い立ったが吉日、桃香ちゃんにサボりを宣告して屋上へ向かうべく足を踏み出した。すると屋上の場所を知らないはずなのに、たどりつくことができてしまった。なんか自分が気持ち悪いな……とは思うもの、出来てしまうので仕方が無い。とりあえずこれまであったことを自分なりにまとめることにした。


いち、恐らくこれは部長の都市伝説どおり、パラレルワールドへ来ている。
に、むしろパラレルの私に成り変わったともとれる。
さん、なので見た目的には髪が長くなったという変化があったが、歳や身長などは全く変わってない、感じがする。
よん、人間関係もあまり変わってはいない、とりあえずは。
ご、こっちの世界の記憶をきちんと持ってる。それは元々の世界の記憶より優先的に持ってる感じ。でもこっちの事を詳しく思い出そうとすると、よく分からなくなる。
ろく、その記憶によるとどうやら私はケガで休部中のテニス部員……らしい。

と、いったところだろうか。
落ち着いて考えてみると、色々出てくるものである。ちなみにここは女子テニスの名門校らしく、私は半端なくテニスができる……らしい。まったくやり方はわからないけれど。

あと、元々の世界と変わったことと言えば、両親がいないってところかな……?

どうやらこっちの世界の私には親はなく、おじさんに引き取られて暮らしている、らしい。けれども私の脳はおじさんの名前がイマイチ思い出せないという残念な状況だ。どうした、私。そのくらい解るはずなんだから思い出してよ。

そんなことを悶々と考えていると、突然携帯が鳴った。携帯はちゃんと使えるようで一安心だ。ちなみに言うまでもなく、私自身の携帯と同じ色や形である。ディスプレイにあるのは知らない番号だけれども、なんとなく出なくてはならない気がしたので携帯を手に取り通話ボタンを押すと、相手の美声が耳に飛び込んできた。


『もしもし。井上守さんですか? 氷帝学園の跡部です。今度の取材について詳細を教えていただきたく……』


うん、誰か夢だと言ってください。

ここには「ひょうてい学園」があって、電話の主は「あとべ」さんらしい。それって「テニスの王子様」ですよね。

ってことはここは「テニスの王子様」の世界かぁ……そっかぁ……。

さすがの私も途方にくれたのだった。



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