ヒントという名の答え
いつか解ると思っていたけど、まさかこんなに早くとは、と思わず後ずさりしそうになる。でも、そのタイミングに意味があるのなら、受け止める覚悟はもうできているはずなんだ。
そんなこんなで島村くんの正体も発覚したところで私は帰ることにした。部活は休部中みたいだしね。
階段を降りて昇降口に向かう。もちろん下駄箱の位置も分かってるわけだ、さすが、私。インプットされてるからね、と少しにやっとしつつ下駄箱を開けると、一通の白い封筒が入ってた。
なに、これ?
取り出してみると封筒にはきれいな文字で「一条美里様へ」とある。
こっ、これはラブレター……な訳ないか。
まさかの展開を想像してみたが縁が無さすぎるのでやめた。妙な期待は捨てて、慎重に封筒を開いて手紙を取り出す。真っ白なその手紙を開くと、こちらもきれいな文字で「この超体験についてのお知らせ」と、書かれていた。
『一条美里様
突然のお知らせ失礼致します。私は支配人、とでも言っておきましょうか。貴女方の入れ換わりの総管理を行っている者です』
な、にこれ……入れ換わり……!? とにかく犯人? 発見……!!
『いきなりですが昨今の世の中は自殺者が多くて困っているんですよ。処理するこっちの身にもなれって話です。そこで私たち支配人は思い付いたのです。自殺志願者が自殺をする前に止めてしまえば良い。今の世界がつまらないのなら、パラレルの自分と入れ換わって新たな人生を見いださせ、更生させれば良い……と。そこで幸運にも貴女方が選ばれたのです!!』
それって私が自殺志願者……ってことよね……?
知らず知らず心の奥で、死にたいとでも思っていたのだろうか。確かに、この世界が変わればいいとは思っていた。
でも、心は、「支配人」は、「あの世界」は、
私がいなくなればいいと、結論を出そうとしていた……?
頭が、痛い。でも読み続けなければならない。文はまだ、続く。
『ということで賢い貴女はお気づきでしょうが貴女にとってそこは、パラレルワールド、すなわち「テニスの王子様の世界」ということになるのでしょう。貴女にはその世界に生きる、「もう一人の貴女」と入れ換わっていただきました』
じゃあこの身体は、「もう一人のわたし」のものって事か。
道理で髪が長いし制服も違うわけだ。
『詳しいことは言えない身分ですので、軽い報告だけ。こちらの世界の貴女の能力等は前の世界とは少々変わっております。どう変わっているかは貴女自身でお確かめください。また何かありましたらこのような形でご連絡させて頂きます』
親切だけど、それって私からは連絡とれないってことだよね。チェンジだけしておいたから、自力で上手く生きてみせろってこと?
配慮が足りない支配人とやらに少しイラっとする。
『とりあえず、大きな疑問を抱くことはない身体や精神にしておきましたので、ご心配なく。最後に、これは実験の一貫で一時的なトリップに過ぎませんので悪しからず。お試し期間は1ヶ月です。どうかこちらでの一時のバカンスをお楽しみください。貴女が明るい毎日を送られることを祈りつつ。 支配人』
なるほど、ね。
読むだけでどっと疲れたものの、ある程度謎は解けた。もうこっちの世界に来てしまったからには受け入れないといけない。例えにわかには信じられない話だとしても、だ。事実、そうなってしまったのだから。
まあそもそも、あちらの世界なんて私はもううんざりだったから凄く良い機会な気がする。とりあえず、1ヶ月は帰れないみたいだから、思いっきり楽しんでみても良いのかもしれないと少しため息をつきながら思った。息とともに、混乱も少し吐き出して。
さて、新しいことをたくさんしてみたいと思う。
あの窮屈な日常から解放されたんだから出来なかったことをやってみたい。そう思うと少しわくわくしてきた。考えることは沢山あるんだろうけど、どうせなら楽しんでやろう。
戸惑っていても仕方ないなら、私は前を向くよ。
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