女神と地区予選1




迷子って……。
一緒にいるはずの子とはぐれた場合も迷子に入るのでしょうか。

もしそうなら私、一条美里は絶賛迷子中です……。

ちなみにどうしてこうなってしまったのか、話は10分ほど前に遡る。



*****



「おはよう、桃香ちゃん」
「美里おっはよー!!」

わ、桃香ちゃんミニスカートだよ……気合い入ってるなぁ。

「桃香ちゃん、服似合ってて可愛いね」
「当ったり前じゃーん! なんたって島村くんの応援なんだからっ! 何着てくか3時間くらい悩んだんだからね!」

長っ…!

「そ、そっかーうん……それは凄いね」

若干棒読みなのは許してほしい。

「あっ、そうだ。美里、ちゃんとドリンク買ってきてくれたっ?」
「あーうん、このウォータークーラーに6本入ってるよ」
「あーりがとっ! あ、これお金ね〜。てか重いからそれ美里が持っててね?」
「別に良いよ〜」

とは言え、なぜだろう、パシられてる感が拭えない。こっちの世界の桃香ちゃん……なんかちょっと性格悪い気がしないでもない。

まぁもともと我が儘といえばそうだったし……ドリンク自体は大して重くないし、いいか。

「もうひとりのわたし」がテニスをやっていてくれたお陰で、筋力はもの凄くあるみたいだから2リットルを6本持っててもなぜか平気だ。自分の筋力が少し怖い反面、便利極まりない。ありがとうわたし。

「じゃ、行こうか?」

こんな流れで上手く落ち合えた私たちは、地区予選の会場に向かった。




「うわぁ……結構広いね」
「何言ってんのっ? 美里はいっつもここで試合してんじゃーん?」

あ、しまった。私もここで試合してたんだ……。

「あー……うん」
「あっ、ごめんテニス関係の話は今はNGだっけぇ?」
「全然、良いよ。気にしないで?」
「えぇ……でも……美里、しばらくテニス出来ないしぃ」
「別に一生テニス出来ない身体とか、そういうのになったわけじゃないんだから、ね?」
「……うん、そだよね! じゃあ行こっか、青学の試合そろそろ始まりそうだし、……!!!」
「うん、そうだね」
「島村くん……」
「……はい?」
「しっまむーらくーーーんっっっ!!!」
「え、あれ? ちょっ……桃香ちゃんーっ!?」

お分かりいただけただろうか。
振り向いたらもうそこに桃香ちゃんはいなかった。



*****



と、いうわけで迷子かもしれない。はぐれた的な意味でもそうだし、そもそもこの場所に私は詳しくないわけで。「はぁ」とため息がこぼれる。

どこに向かって歩けって言うのよ……。

桃香ちゃんは島村くんを発見して追いかけていった訳だから、島村くんwith青学を探せば良いんだろうか。どこにいるのか全く検討がつかないんだけど。

なんて考えながら下を向きつつ歩いてたら、ドンッと誰かにぶつかって吹っ飛ばされてしまった。

ぅわ、しまった!!

よろめいた勢いでそのまま誰かにぶつかってしまったので、すぐさま謝罪する。

「あの、ごっごめんなさい!」
「いってぇなー! おい、どうしてくれるんだよ、靴汚れただろ!」

最悪だ……厄介な人とぶつかってしまった……。

「え、えっと……ごめんなさい」
「ごめんですんだら警察は要らないんだよなぁ〜。クリーニング代」
「は……?」
「だからクリーニング代出せって言ってるんだよ」
「いや、いくら何でもむちゃくちゃじゃ……」
「あぁ!? うっせーなぁ! さっさと出せば勘弁してやるっつってんだよ!」

何て理不尽なこと言い出すのよ……!

ぶつかったのはお互い様な訳で、そんなこと言ったら私だってスカートが汚れたわけでして。私はイラっとして思わず睨み付けた。

「おら、さっさとだせよ」
「そんなの納得いきませんっ!」
「この女っ!!」

不意に、相手の手が上がった。

あ、殴られる。

次に来る痛みを予想して、ぎゅっと目を閉じて痛みに耐えようと、体に力を入れた。が、しかし。

あれ……いつまでたっても痛くない……?

そっと目を開けるとそこには、「いてててててっっ!!」と苦しむぶつかった相手がいた。

「?」

意味が分からなくてさらに視線を上げると、「それくらいにしておけ。見苦しいぞ」と私の前に立ちはだかり、ぶつかった相手の手を捻りあげてる、黒いジャージに身を包んだがっしりとした人がいらっしゃった。

「もう、この子に用は済んだよな?」
「すっ、済みました……!」
「じゃあとっととどこかに行ってくれ」
「い、行きます行きます!!」

チッ、と最後に負け惜しみの舌打ちを残してぶつかった人は去っていった。

た、助かった……。

「大丈夫か?」

黒ジャージの人が手を貸してくれたので素直に掴まって立ち上がる。

「あの、ありがとうございました……!!」
「怪我はないか?」
「はい! 本当に、助かりました!」

と、相手の顔を見てしっかりとお礼を言う。
すると黒ジャージさんは、私の顔を見て凄く驚いた顔をした。

「一条……美里、さん……!?」

ああ、やっぱり。「わたし」という存在は私が思っている以上に結構有名なんでしょうか……?

「正解です……橘さん」


薄い微笑みと共に、軽い仕返しをしておいた。



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